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Chapter2
8:行き逢い神
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「そうだ、『アレ』は外来種なんだよ。この町にふらっと現われて、環境に徐々に馴染んでいく。そうしたら、後はどんどん増えていく。元から住んでいる僕達、在来種を全滅させながら……」
こわっ! とヒョウモンさんがヤンさんの右腕に抱き着きました。
なるほどねえ、とヤンさんがオジョーさんの右腕に抱き着きます。
えーっと、失礼します、とオジョーさんがばーちゃんの右腕に抱き着きました。
ばーちゃんが動き出す前に委員長が、いや結構、と両手で拒否を鮮明に打ち出しました。
僕は立ちあがると、皆を見渡しました。
「というわけで、ボケはそこら辺でよしとして、外来種である『アレ』を――」
「仮称、『行き逢い神』とでも呼ぼうか」
ばーちゃんの提案に僕は頷きました。
「というわけで、僕達は『行き逢い神』『落書き』そして『ゆきのうしろをあゆむもの』関連の情報を集めるのを番組の裏目的とします。
具体的には今までと同じく噂等の情報収集、番組の収録と同時に、聞き込みです。なお、警察等には異常があればすぐに通報する。
他に何かありますか?」
オジョーさんが手を挙げました。
「郷土史研究会の方ですが、姉が言うにはやはり部室に集まってないそうです」
理由は判りますか? という僕の問いにオジョーさんはまた、しょぼんとした顔になりました。
「……その、大規模なイベントの準備で合宿をしているそうです。場所とかはわからないのですが、周りの人達にはそう言っていたそうです……」
オジョーさんは自分が見た『動く落書き』はプロジェクションマッピングかもしれない、と皆に話しました。
ヒョウモンさんは成程! と納得しています。
ばーちゃんは、うーん、そうかもしれないけど、と首を捻っています。
オジョーさんはギャグ漫画でしか見たことが無い、唇を尖らせて人差し指をツンツンやりながら目をしょぼつかせました。
「実は最近『落書き』の噂って全然聞かないんです。もしかしたら彼女達はゲリラ的に色々な場所で上映して、今はアップグレードの最中なのかも……」
消え入るようなオジョーさんの声を、ヤンさんが遮りました。
「おいおい、何言ってんだよ!
お前はビルの間で見たんだろう?
そんな狭い場所で上映できんのか?
しかも血を吸う音を聞いたんだろう?
犬の干からびた死体を見たんだろう?
俺は犬猫の虐待事件を追っている。それはリンクするんじゃないか?
その『落書き』は――どんどんでかくなって、最初は血の一滴二滴で良かったのが、全部吸い尽くさなきゃならなくなっちまって――」
段々興奮してきたヤンさんをばーちゃんが、よーし、そこまでそこまで、と止めました。
「今はまだ情報を集めてる段階だ。答えを決めてかかると、辿りつけなくなるぞ」
ヤンさんは鼻を鳴らすと、すまねえと頭を下げました。
オジョーさんも申し訳ありませんと頭を下げました。
僕はまとめノートを広げました。
確かに最近は『落書き』の噂はぱったり途絶えています。代わりに新しい噂が幾つか出てきました。代表としては『足掴み』と『笑う影女』。
オジョーさんがちょっと上ずった声で、どういう噂なんでしょうか、と聞いてきました。場の空気を換えようと考えての事でしょうが、まだちょっとショックが抜けてないようです。
委員長が素早く会話に入ってきました。
「説明しよう!
『足掴み』とは、文字通り足を掴んでくる何者かの噂なのだ!
『笑う影女』も同じく、シルエットの笑う女を見た、という噂なのだ!」
ゲームのトリビアコーナーかお前は、とヒョウモンさんがツッコんで皆がちょっと笑います。何となく明るい感じになってきました。
委員長がまとめノートを僕から受け取りますと、眼鏡を直すと詳細を話し始めました。
『足掴み』は主に夜に体験されています。道を歩いていると、いきなり足を掴まれたような感触があって前につんのめる。吃驚して足元を見てみると、何もない。だけども足には何かが掴んだような赤い痣が残っている……というものです。
「うーん、転ぶだけ、か。この番組向きと言えば、そうかもしれねえなあ」
ヤンさんが麦茶をぐびりと飲んで、でも、ただの勘違いの可能性の方が高いなあ、と言いました。全員がまあねえ、と苦笑いです。
「でも『笑う影女』は一味違いますよ。
一人で道を歩いていると、前方の暗がりに髪を振り乱した女が立っている。女は真っ黒なシルエットで、こっちに向かって笑うんだそうです。で、驚いているといつの間にか女は目の前から消えている。壁に吸い込まれた、なんて証言もありますね」
委員長の説明に、こわっ! とヒョウモンさんがオジョーさんにしがみつきました。
「それって、夜なんでしょうか? だとしたら、その――不審者の可能性が」
オジョーさんの疑問に、委員長が指を立てて、ちっちっちっ、と否定しました。
「それがね、昼間に見たって人もいるんです。高速道路の高架下らしいんですが、空は晴れていたそうです。なのに、その女は真っ黒だったそうで……」
僕は、次はそれにしたいな、と言うとヒョウモンさんがあたしはパスで、と手を挙げました。
オジョーさんが、えー、ヒョウモンさんも行きましょうよーとか誘っています。
ばーちゃんがよしよし、そこまで、キリが無いと言いました。
僕も頷くと他に誰か、これだけは今言わなくちゃってのありますか? と聞きました。
皆が顔を見合わせる中、委員長がすいません、と手を挙げました。
「……実は昨日の事なんだけどね」
全員が委員長に顔を向けました。委員長は、ええっと、と珍しく言葉を選んでいるようです。ヤンさんがおいおい、と声をかけます。
「どうした、らしくねえな? ズバッと言ってくれよ」
委員長が、うーんと髪をかき上げて眼鏡を直しました。
「その――これ、本当の話だからね? 信じてよ?」
ヒョウモンさんがぶんぶん頷き、オジョーさんもぶんぶんぶんと頷きました。
「病院で、その……スーツを着た人達、ええっと――眼帯を付けたザ・変人とか、いかにも刑事ーって感じのゴツイ人とかに色々聞かれたの。お母さんの症状とか、その……何か見なかったか? とか」
何だそれは、と僕はばーちゃんの顔を見ました。
ばーちゃんは渋い顔をしています。
それって、行き逢い神の事を知っているんじゃないのか? と、僕。
委員長は首を捻りました。
「かもしれない。でも、私は何も言わなかった。いや、こんな事、みんなにしか言えないしね……。で、その、眼帯を付けた変な人なんだけど、その――政府も動いてるって言ってたの。だから、解決は近いとか」
ヤンさんも、なんだそりゃ? と声を上げました。
「じゃあ、委員長の母ちゃんは治るのか?」
「……私もそう聞いたんだけど、『そんな事は言ってない』って」
続けとばかりにヒョウモンさんも、なんだそりゃ、と呆れた声を出しました。
「私もなんだそりゃっ、て言ってから、凄くムカついたんで、向こうに行ってもらえますって言ったら、いかにも刑事のゴツイ人がとんできて、失礼したって眼帯の人を殴って引っ張っていっちゃった」
「それは、なんともはや……」
オジョーさんは目をぱちくりさせ、ゆっくりとばーちゃんの顔を見ました。ばーちゃんは額を掻きました。
「……そういう話は聞いた事があるよ。あたしは会った事が無い。だけど、例えば、警察がそういう事件を捜査する場合、協力を仰ぐ連中がいるってね。あれだ、メンインブラック日本版」
それは、何と言うか――ちょっとカッコいいなと僕は思いました。
「……会ってみたいな」
ばーちゃんが鼻を鳴らしました。
「撮影許可も放映許可も多分でないねえ」
委員長が僕の肩を叩きました。
「というか、番組の性質上……向こうから会いに来るんじゃない?」
前言撤回、色々面倒くさそうだな、と思いました。
こわっ! とヒョウモンさんがヤンさんの右腕に抱き着きました。
なるほどねえ、とヤンさんがオジョーさんの右腕に抱き着きます。
えーっと、失礼します、とオジョーさんがばーちゃんの右腕に抱き着きました。
ばーちゃんが動き出す前に委員長が、いや結構、と両手で拒否を鮮明に打ち出しました。
僕は立ちあがると、皆を見渡しました。
「というわけで、ボケはそこら辺でよしとして、外来種である『アレ』を――」
「仮称、『行き逢い神』とでも呼ぼうか」
ばーちゃんの提案に僕は頷きました。
「というわけで、僕達は『行き逢い神』『落書き』そして『ゆきのうしろをあゆむもの』関連の情報を集めるのを番組の裏目的とします。
具体的には今までと同じく噂等の情報収集、番組の収録と同時に、聞き込みです。なお、警察等には異常があればすぐに通報する。
他に何かありますか?」
オジョーさんが手を挙げました。
「郷土史研究会の方ですが、姉が言うにはやはり部室に集まってないそうです」
理由は判りますか? という僕の問いにオジョーさんはまた、しょぼんとした顔になりました。
「……その、大規模なイベントの準備で合宿をしているそうです。場所とかはわからないのですが、周りの人達にはそう言っていたそうです……」
オジョーさんは自分が見た『動く落書き』はプロジェクションマッピングかもしれない、と皆に話しました。
ヒョウモンさんは成程! と納得しています。
ばーちゃんは、うーん、そうかもしれないけど、と首を捻っています。
オジョーさんはギャグ漫画でしか見たことが無い、唇を尖らせて人差し指をツンツンやりながら目をしょぼつかせました。
「実は最近『落書き』の噂って全然聞かないんです。もしかしたら彼女達はゲリラ的に色々な場所で上映して、今はアップグレードの最中なのかも……」
消え入るようなオジョーさんの声を、ヤンさんが遮りました。
「おいおい、何言ってんだよ!
お前はビルの間で見たんだろう?
そんな狭い場所で上映できんのか?
しかも血を吸う音を聞いたんだろう?
犬の干からびた死体を見たんだろう?
俺は犬猫の虐待事件を追っている。それはリンクするんじゃないか?
その『落書き』は――どんどんでかくなって、最初は血の一滴二滴で良かったのが、全部吸い尽くさなきゃならなくなっちまって――」
段々興奮してきたヤンさんをばーちゃんが、よーし、そこまでそこまで、と止めました。
「今はまだ情報を集めてる段階だ。答えを決めてかかると、辿りつけなくなるぞ」
ヤンさんは鼻を鳴らすと、すまねえと頭を下げました。
オジョーさんも申し訳ありませんと頭を下げました。
僕はまとめノートを広げました。
確かに最近は『落書き』の噂はぱったり途絶えています。代わりに新しい噂が幾つか出てきました。代表としては『足掴み』と『笑う影女』。
オジョーさんがちょっと上ずった声で、どういう噂なんでしょうか、と聞いてきました。場の空気を換えようと考えての事でしょうが、まだちょっとショックが抜けてないようです。
委員長が素早く会話に入ってきました。
「説明しよう!
『足掴み』とは、文字通り足を掴んでくる何者かの噂なのだ!
『笑う影女』も同じく、シルエットの笑う女を見た、という噂なのだ!」
ゲームのトリビアコーナーかお前は、とヒョウモンさんがツッコんで皆がちょっと笑います。何となく明るい感じになってきました。
委員長がまとめノートを僕から受け取りますと、眼鏡を直すと詳細を話し始めました。
『足掴み』は主に夜に体験されています。道を歩いていると、いきなり足を掴まれたような感触があって前につんのめる。吃驚して足元を見てみると、何もない。だけども足には何かが掴んだような赤い痣が残っている……というものです。
「うーん、転ぶだけ、か。この番組向きと言えば、そうかもしれねえなあ」
ヤンさんが麦茶をぐびりと飲んで、でも、ただの勘違いの可能性の方が高いなあ、と言いました。全員がまあねえ、と苦笑いです。
「でも『笑う影女』は一味違いますよ。
一人で道を歩いていると、前方の暗がりに髪を振り乱した女が立っている。女は真っ黒なシルエットで、こっちに向かって笑うんだそうです。で、驚いているといつの間にか女は目の前から消えている。壁に吸い込まれた、なんて証言もありますね」
委員長の説明に、こわっ! とヒョウモンさんがオジョーさんにしがみつきました。
「それって、夜なんでしょうか? だとしたら、その――不審者の可能性が」
オジョーさんの疑問に、委員長が指を立てて、ちっちっちっ、と否定しました。
「それがね、昼間に見たって人もいるんです。高速道路の高架下らしいんですが、空は晴れていたそうです。なのに、その女は真っ黒だったそうで……」
僕は、次はそれにしたいな、と言うとヒョウモンさんがあたしはパスで、と手を挙げました。
オジョーさんが、えー、ヒョウモンさんも行きましょうよーとか誘っています。
ばーちゃんがよしよし、そこまで、キリが無いと言いました。
僕も頷くと他に誰か、これだけは今言わなくちゃってのありますか? と聞きました。
皆が顔を見合わせる中、委員長がすいません、と手を挙げました。
「……実は昨日の事なんだけどね」
全員が委員長に顔を向けました。委員長は、ええっと、と珍しく言葉を選んでいるようです。ヤンさんがおいおい、と声をかけます。
「どうした、らしくねえな? ズバッと言ってくれよ」
委員長が、うーんと髪をかき上げて眼鏡を直しました。
「その――これ、本当の話だからね? 信じてよ?」
ヒョウモンさんがぶんぶん頷き、オジョーさんもぶんぶんぶんと頷きました。
「病院で、その……スーツを着た人達、ええっと――眼帯を付けたザ・変人とか、いかにも刑事ーって感じのゴツイ人とかに色々聞かれたの。お母さんの症状とか、その……何か見なかったか? とか」
何だそれは、と僕はばーちゃんの顔を見ました。
ばーちゃんは渋い顔をしています。
それって、行き逢い神の事を知っているんじゃないのか? と、僕。
委員長は首を捻りました。
「かもしれない。でも、私は何も言わなかった。いや、こんな事、みんなにしか言えないしね……。で、その、眼帯を付けた変な人なんだけど、その――政府も動いてるって言ってたの。だから、解決は近いとか」
ヤンさんも、なんだそりゃ? と声を上げました。
「じゃあ、委員長の母ちゃんは治るのか?」
「……私もそう聞いたんだけど、『そんな事は言ってない』って」
続けとばかりにヒョウモンさんも、なんだそりゃ、と呆れた声を出しました。
「私もなんだそりゃっ、て言ってから、凄くムカついたんで、向こうに行ってもらえますって言ったら、いかにも刑事のゴツイ人がとんできて、失礼したって眼帯の人を殴って引っ張っていっちゃった」
「それは、なんともはや……」
オジョーさんは目をぱちくりさせ、ゆっくりとばーちゃんの顔を見ました。ばーちゃんは額を掻きました。
「……そういう話は聞いた事があるよ。あたしは会った事が無い。だけど、例えば、警察がそういう事件を捜査する場合、協力を仰ぐ連中がいるってね。あれだ、メンインブラック日本版」
それは、何と言うか――ちょっとカッコいいなと僕は思いました。
「……会ってみたいな」
ばーちゃんが鼻を鳴らしました。
「撮影許可も放映許可も多分でないねえ」
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