四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

文字の大きさ
33 / 57
Chapter2

13:立浪医師

しおりを挟む
「はい、はい……ええ、お願いいたします」
 オジョーさんは通話を終えると、スマホをカメラに向けました。太郎丸を抱いた満面の笑みのオジョーさんの写真が待ち受けになっています。
 委員長が良い毛並みしてるぜ、と褒めるとオジョーさんは漫画に出てくるような満面の笑みを浮かべました。
 オジョーさんはお父さんこと、オトーさんに電話をしたとのことで、知り合いから市の下水道管理課に手を回してくれるそうです。
 オトーさんは僕らの番組のかなりのファンらしく、この町を飛び出してロケする時は是非声をかけてくれ、ツチノコを捕獲しよう、とメールをいただいた事もあります。
 委員長が立ち上がるとマンホールをガァンと踏みつけ、確かに臭いな、と言いました。
「ここに立ってると結構クル。なんか油みたいな匂いもする……けど、一昨日とか雨降ったし、その所為かもしんない」

 カメラに向かって片眉を上げる委員長からちょっとずつ離れて、声をかけます。
「今回はここまで、かな? 下は下水管理局の人じゃないと、どうにもできないし……」
 という僕の言葉を、委員長が手を挙げて遮りました。
「折角だから、もう一軒行こう」
 部長、もう飲めませんよと僕が言うと、キミィ、そんなんじゃ出世せんよぉと委員長が僕の肩に手を回し、山の上のF神社を指差しました。
 あ~、神社ですか、とオジョーさん。
 カメラを向けると委員長は、ちょい酔っぱらい演技を入れながら話し始めました。
「以前話したけど、この町に張られた結界に欠損が生じているというお告げ、みたいなあの怪光。あれの欠けた部分をこの前の占いマシーン、あ、これまだアップしてないんだっけ? まあ、そういうのがあるんですよ。でね、その占いマシーンが入ってるオタクビルを欠けた結界の一つとするなら、もう一つは、あの神社なんだなあ」
 先にも言いましたが、もう一つの組み合わせは、『図書館』と『何もない山の中』です。
 ちなみに『山の中』は、さっき後回しすると言ったボーナストラックの『あの屋敷』だったんですが、これは別の話です。

 僕達は移動を開始しました。
 細い道をダラダラと適当に歩くと目指すF神社である、なんて言ってみましたが、喫茶店を出てから僕達は早足でした。
 何か音がすると、結構時間が経ってるのに、安達が迫ってきてるんじゃないかとあちこちに目がいってしまいます。やや大きめな通りに出た時は、ホッとした感じが三人の中に流れました。
 F神社は我が町で一番――いや市で一番大きい神社です。
 大きな赤い鉄製の鳥居をくぐりますと、石畳の大きな広場があります。暑さの所為もあってか、お母さんたちは端の方のベンチに、子供達はあつーいあつーいと騒ぎながら、鉄製の鳥居に近くの水飲み場から手で持ってきた水をかけて遊んでいます。オジョーさんが手で庇を作りながら辺りを見回し、おかしいですね、と呟きました。
「この神社は鳩が多いんですけどね、全然見当たりませんね」
 委員長がふむ、と腰に手を当てると、山の上の方を見ながらぐっとのけ反りました。
「確かに……蝉の声もない――」
「おお、委員長ちゃん!」
 これ、繰り返しますが実際の会話ではちゃんと名前を呼んで……まあ、いいか。別にコイツに関しては色々言わなくてもね。で、まあ振り返ると、ふーふー言いながら広場の端から、背の低い中年の男が走ってきたのです。

 あの謎宇宙から帰ってきた時にベンチで寝ていたおっさん。郷土史研究会、清水と一緒に歩いていた医者。そして、先程まで僕の横で車を運転していた、きっと今は亡き『馬鹿野郎』こと立浪たつなみ医師です。

「やあ、偶然だねえ」

 この言葉が本当か嘘かはもう永遠に判らないでしょう。
 さっき僕は彼の隣で幾つかの質問をしましたが、そこから出てきた答えは、本当にどうでもいいもので……その後、多分僕の事も殺すつもりで襲いかかってきたんですが――まあ、これは後で話しましょう。

 立浪医師は委員長に馴れ馴れしく話しかけました。
 また撮影かい? お母さんの具合は? そりゃあ、大変だなあ云々。
 あの時の僕ときたら、暑いなあ、早く終わらないかなあなんて呑気な事を考えていました。
 オジョーさんは鉄製の鳥居をちょっちょっと素早く突きながら、あちっあちっと遊んでいました。
 立浪医師は、僕の方をちらりと見ると、意味ありげに笑いました。あの顔を思い出すたびに、頭に来て枕をどすどす殴ったもんで……と年寄りのような愚痴はこれくらいにしてですね、あの馬鹿野郎はこう言ったんですよ。

「実は僕の元患者、そう委員長ちゃんのお母さんと同じ、ある一家の母親なんだけどね、彼女がやっぱり同じように謎の昏睡になってしまってね。×××さんと言うんだけども」
 委員長が体をぎゅっと振り絞ったように見えました。僕は、なんで今そんな話を、と言いかけて委員長に手で制されました。
 オジョーさんが僕の後ろにピタリとつきます。
 立浪医師は僕らから目を逸らすと、委員長の顔をじっと見ながら話を続けました。
「ところでね、彼女には息子が一人いるんだ。会社員でね、社名は何だったか……まあ、ともかく彼は妙な物を見たって僕に言うんだよ」
「妙な――もの?」
 僕は委員長の背中にちょんと触れました。ですが、多分気づいていなかったと思います。
「ああ。彼女が倒れた晩に、家の二階から見たのだそうだ。僕は一応、聞かせてもらったんだけど、まあ、うん、ちょっとね」
「何を見たんですか?」
 語尾が少し震えている、と僕は一歩踏み出そうとしましたが、委員長がちらりとこっちを見て頷いたので、立ち止まりました。
 私は冷静よ、という目でした。
 僕としては、全然そう見えないよ、と思ったのですけどね。
「その――お化け、といったところかな? それで、彼はその――『母親をおこす方法』を見つけたって言うんだ。でも怖くて、できないってね。
 勿論妄想だろうとは思う。
 ただ、混乱しているのとは少し違うように感じる。
 彼はこのまま行けば精神科に入院だ。
 どうだろうか、君達はこの手の話に慣れているだろう? 彼の話を聞いてやってくれないかな」
 立浪医師はメモ用紙に何かを書きつけると、委員長の前に差し出しました。

 僕は、直感という奴でしょうか? 受け取るな、と思いました。
 委員長はゆっくりとそれを受け取り、僕の方に振り返りました。
「後で一緒に行ってくれる?」
 なんて間抜けなんでしょうか。この言葉に僕は安堵して、勿論! と元気よく答えたのです。


 立浪医師は笑っていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

処理中です...