感染。

1章〜はじまり〜

悲劇

「あー。今から話してやるよ僕の地獄の様な体験をきっと脳裏にまでへばりついて離れなくなるよ」

 「それでも聞きたいって言うのなら自己紹介から始めるよ」


「ありがとうございましたー」
といつもの調子で言ったのは、なんの個性もなくただ夜に週5でコンビニバイトを入れて暮らしている男。
里宮竜久……。そう僕だ。
さきほどにも言ったように僕にはなんの個性もなくこれといった特技もない 地味な男でたとえるのならまさに他にない存在だ。
コンビニのバイトも夜は客が少ないからという理由で入れている。
でもそんな僕にも気になってる人がいる
今まさに品物棚に商品を癒しの笑顔でならべている彼女である
彼女の名前は藤波美里。
彼女とは昔からの幼なじみ、小さい頃は手を繋いだりして砂場でお城とか作ってた記憶がある。
今じゃ無縁だけどね…はぁ。
そんな事を考えてボッーとしていると
「なにボッーとしてんだっ！」
と後ろから大声で叱られた。
絶対に後頭部あたりに唾が飛んだであろうほどの大声を僕にぶつけたこの人
矢川さとるは、この店の店長だ
「す…すぃませぇ」
僕は驚いて蚊の泣くような声で謝罪した。 
その時すでに僕の地獄のような物語は始まってしまったのかもしれない。
ピポピポーンｯ
自動ドアの開く音だ、ふと目をやるとそこには血だらけの女が突っ立ていた。
今思えば良心など捨てて裏口から早く逃げていれば良かったのかもしれない。
店長がとっさに「大丈夫ですかっ?!」と近寄った、すると女はなんの返答もなく
……。ガジュッ…ピチャｯ…ゴリュｯ
鈍い音が店の中に響いた。 
女は店長に噛み付いたのだ。
いや、噛み付いたという表現よりか噛みちぎったという方が近いかもしれない。 
店長は店の外にも響いたであろう程の大声を上げているように見えたのだが、僕はそんな声も耳にはいらないほどに頭が真っ白になっていた。

この時幸いにも美里は既に上がっていてこのグロテスクな意味がわからない状況を見せなくて済んだ。 

と思ったのもつかの間だった…。


僕は見てしまったその女がはめている特注ネックレス、美里のお気に入りのネックレスと全く一緒だったのだ。

この時僕は店長が食われている状況の中何故か冷静だったのを覚えている。

血まみれで引きちぎられたと思われる顔を見ただけではわからなかった。
特注ネックレスでやっと確信づいたのだ

あの女は美里…だ。