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幼子たちからの洗礼(2)
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「とはいっても、プラネタリウムに並んでたガキ共が企画展の方に流れてくるのは予想できるな……」
扉の内側、ステノの『中の人』の待機スペースで、三人は機材のチェックをしながら話をしていた。
「子供、容赦ねーからな……正直俺は自信ねえよ」
圭吾がつぶやいた。実は圭吾は一時期塾講師をしたのだが、子供たちを制御する事ができずに辞めてしまった事がある。
「あー、あれ、滝宮さんが忙しくなるからって後任探してたやつ、立候補したのお前だったのか」
登弥は圭吾が塾講師をしていた事を知らなかった。
「二回でギブったやつだろ? 結局今も滝宮さんが続けてるって聞いたけど」
「……言うな、だって生徒たち皆ショーコ先生の方がいいとか言い出すしさあ」
滝宮晶子は女子寮である千錦寮の方に住む学生で三年生、学業を優先する為、塾講師のバイト(中学生の数学と、小学生の理科)の後任を探していた。場所が少し遠い事と、理系科目という事で、千錦寮内では見つからず、男子寮である一刻寮の方にも話が回ってきた。特別美味しいバイトというわけでは無かったが、定収にはなる。隣町まで通う脚力か、アシ(滝宮晶子はバイクで通っていたらしい)があれば、というところで、なかなか決まらない、という事だけは譲二も聞いていたのだが……。
「あー、それはへこむなあ」
そこそこ無理をして始めたバイト先で前任の方が良かったと言われるのは堪えるだろう。相手が子供だけに、そういう配慮は無かったのかもしれない。
「だろ? 俺が見てたのは小学校五年生だけど、こんな事を言ったら相手は傷つくだろうな、とか思わないからな、あいつら」
「自分だってガキの頃はそうだったろうに」
登弥が見透かしたように言うと、圭吾はぐ……とうなって無言になった。
「塾ってあそこだろ? 三光学院 隣町の」
「そそ、チャリで30分」
「下手したら来るんじゃね? その、元教え子達、五年生くらいだったらチャリの行動範囲だろ、このあたり」
譲二の言葉に圭吾の顔色が変わった。
「アテンドで出てたらバレるかもな」
登弥が続くと、圭吾は泣き出しそうに顔を歪めた。
「したら、じゃあ圭吾はコッチ側固定だな」
どういうわけかうれしそうに登弥が言うと、反撃、とばかりに圭吾が言い返した。
「そうか、じゃあ、昨日のお姉さんとおしゃべりするのも俺って事だな」
「いやまて、それはダメだ、紅緒さんは『俺に』会いに来るんだから」
「違うな、あの人が会いに来るのはあくまで『ステノ』であってお前じゃない、ガンプラの話をするなら俺の方が詳しい」
またしても言い合いになっている二人を見て譲二があきらめたように言った。
「……とりあえず、俺がアテンド固定になりそうなのは間違いないのかな、まあどっちでもいいんだけどさ、外は俺が引き受けるから、中の二人は仲良くやってくれよ」
こうして、初日は細かく時間を区切ってやっていた各人の持ち時間を、今日は長めにとる事に決めて、話し合いは終わり、少年少女科学館のオープン時間がやってきた。
遠くの方で、子供たちのはしゃぐ声が聞こえている。恐らくはプラネタリウムの方に人が殺到しているのだろう。
多分、アテンドの方が楽だ、そう思いながら、登弥と圭吾が自ら『中の人』に立候補してくれたのはありがたい事ではあった。
譲二は、まばらではありながらも、昨日の閑古鳥の鳴きまくった会場に比べて活気が満ちていく館内に、身を引き締めるように背筋を伸ばした。
扉の内側、ステノの『中の人』の待機スペースで、三人は機材のチェックをしながら話をしていた。
「子供、容赦ねーからな……正直俺は自信ねえよ」
圭吾がつぶやいた。実は圭吾は一時期塾講師をしたのだが、子供たちを制御する事ができずに辞めてしまった事がある。
「あー、あれ、滝宮さんが忙しくなるからって後任探してたやつ、立候補したのお前だったのか」
登弥は圭吾が塾講師をしていた事を知らなかった。
「二回でギブったやつだろ? 結局今も滝宮さんが続けてるって聞いたけど」
「……言うな、だって生徒たち皆ショーコ先生の方がいいとか言い出すしさあ」
滝宮晶子は女子寮である千錦寮の方に住む学生で三年生、学業を優先する為、塾講師のバイト(中学生の数学と、小学生の理科)の後任を探していた。場所が少し遠い事と、理系科目という事で、千錦寮内では見つからず、男子寮である一刻寮の方にも話が回ってきた。特別美味しいバイトというわけでは無かったが、定収にはなる。隣町まで通う脚力か、アシ(滝宮晶子はバイクで通っていたらしい)があれば、というところで、なかなか決まらない、という事だけは譲二も聞いていたのだが……。
「あー、それはへこむなあ」
そこそこ無理をして始めたバイト先で前任の方が良かったと言われるのは堪えるだろう。相手が子供だけに、そういう配慮は無かったのかもしれない。
「だろ? 俺が見てたのは小学校五年生だけど、こんな事を言ったら相手は傷つくだろうな、とか思わないからな、あいつら」
「自分だってガキの頃はそうだったろうに」
登弥が見透かしたように言うと、圭吾はぐ……とうなって無言になった。
「塾ってあそこだろ? 三光学院 隣町の」
「そそ、チャリで30分」
「下手したら来るんじゃね? その、元教え子達、五年生くらいだったらチャリの行動範囲だろ、このあたり」
譲二の言葉に圭吾の顔色が変わった。
「アテンドで出てたらバレるかもな」
登弥が続くと、圭吾は泣き出しそうに顔を歪めた。
「したら、じゃあ圭吾はコッチ側固定だな」
どういうわけかうれしそうに登弥が言うと、反撃、とばかりに圭吾が言い返した。
「そうか、じゃあ、昨日のお姉さんとおしゃべりするのも俺って事だな」
「いやまて、それはダメだ、紅緒さんは『俺に』会いに来るんだから」
「違うな、あの人が会いに来るのはあくまで『ステノ』であってお前じゃない、ガンプラの話をするなら俺の方が詳しい」
またしても言い合いになっている二人を見て譲二があきらめたように言った。
「……とりあえず、俺がアテンド固定になりそうなのは間違いないのかな、まあどっちでもいいんだけどさ、外は俺が引き受けるから、中の二人は仲良くやってくれよ」
こうして、初日は細かく時間を区切ってやっていた各人の持ち時間を、今日は長めにとる事に決めて、話し合いは終わり、少年少女科学館のオープン時間がやってきた。
遠くの方で、子供たちのはしゃぐ声が聞こえている。恐らくはプラネタリウムの方に人が殺到しているのだろう。
多分、アテンドの方が楽だ、そう思いながら、登弥と圭吾が自ら『中の人』に立候補してくれたのはありがたい事ではあった。
譲二は、まばらではありながらも、昨日の閑古鳥の鳴きまくった会場に比べて活気が満ちていく館内に、身を引き締めるように背筋を伸ばした。
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