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テッドとレーナ
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「おい、何てことをしてくれたんだ」
そのころ、シアラー家ではシェリーが去った後、テッドが頭を抱えていた。
そんなテッドにレーナは嬉しそうにほほ笑む。
「私を選んでくれてありがとう、テッド」
だがテッドはどちらにも嫌われたくなかったというだけで別にレーナを選んだつもりは全くなかった。
ただ、婚約している女性と自分を騙していた女性の二人がいてどちらを選ぶか決めかねていたら愛想を尽かされていた、というだけである。
「別に君を選びたかった訳じゃない! というかこれからどうするんだ!」
「どうもこうもないわ、お互いの両親に婚約を双子の姉と妹で入れ替えました、て報告すればいいだけでしょ?」
レーナはあっけらかんと言い放ち、テッドはさらに頭を抱える。
「おいレーナ……いくらそっくりな双子だからってそんな風に物を交換するみたいにうまく婚約を入れ替えるなんてことが出来る訳がないだろう」
「そんなことないわ。私の両親だって私たちが入れ替わっていても気づかないこともあるし、今あなたの家に私がシェリーとして入ってきても気づかれなかったでしょう? じゃあ私たちが入れ替わっても問題ないってことじゃない?」
「お前な……」
テッドはそれは違う、と説明しようとしたがうまく言葉が出てこない。
そしてテッドは考える。確かにレーナがこれまで日常的にシェリーと入れ替わりながら生きてきたのであれば、そういう間違った思考で育ってしまうのかもしれない。
「入れ替わっていても気づかないのと、文句を言うのとは別問題だろ?」
「入れ替わっても気づかない人に文句を言う資格はないと思うけど」
「いや、そういう問題じゃないだろ……」
「じゃあどういう問題なの?」
「大人には大人の事情があるだろ」
「それなら私がシェリーだったことにすればいいじゃん」
レーナは再びあっけらかんと言い放つ。だめだ、まるで会話がかみ合わない。
それを聞いて再びテッドは頭を抱えた。やはり双子の姉に成りすまして婚約者と会っていただけあってレーナは頭がおかしい。そうとしか思えない。
そして早くも、ちょっと彼女がシェリーよりも一緒にいて楽しかったからといって、先ほどの場面できちんと答えを出さなかったことを後悔した。
そこでガツンとレーナに言っていればこんな面倒なことにならなかったのに。
「とはいえ、もうなってしまったものは仕方ないし、気を取り直してお茶の続きをしようよ」
「仕方ないで済めば苦労はしない!」
これからのことを考えるだけで頭も胃も痛くなるというのに呑気にお茶なんかしている場合ではない。
「そんなこと言わずにお茶でも落ち着いて」
そう言ってレーナが紅茶を注いでくれる。
そんなレーナの姿を見てテッドはだんだんばかばかしくなってきた。何で彼女がこんななのに自分だけが思い悩まなければならないんだ。
シェリーをないがしろにしたことについて怒られたらレーナに騙されたとか適当なことを言って切り抜けよう、とテッドは決意する。それにシェリーのことだからあの時は気が動転していた、とか言って謝ればどうにかなるはずだ。
「分かった、じゃあとりあえずいただくよ」
そう言ってテッドはレーナが淹れてくれた紅茶を飲む。淹れてくれたといってもテッドの家の紅茶なのでいつもの味がするだけだが。
「ところで今度一緒に行きたいところがあるんだけど……」
テッドが落ち着いたと見るや、レーナはそんな話を始める。
確かに彼女のこういうところは一緒にいて楽しいな、と思いながらテッドは話を合わせるのだった。
そのころ、シアラー家ではシェリーが去った後、テッドが頭を抱えていた。
そんなテッドにレーナは嬉しそうにほほ笑む。
「私を選んでくれてありがとう、テッド」
だがテッドはどちらにも嫌われたくなかったというだけで別にレーナを選んだつもりは全くなかった。
ただ、婚約している女性と自分を騙していた女性の二人がいてどちらを選ぶか決めかねていたら愛想を尽かされていた、というだけである。
「別に君を選びたかった訳じゃない! というかこれからどうするんだ!」
「どうもこうもないわ、お互いの両親に婚約を双子の姉と妹で入れ替えました、て報告すればいいだけでしょ?」
レーナはあっけらかんと言い放ち、テッドはさらに頭を抱える。
「おいレーナ……いくらそっくりな双子だからってそんな風に物を交換するみたいにうまく婚約を入れ替えるなんてことが出来る訳がないだろう」
「そんなことないわ。私の両親だって私たちが入れ替わっていても気づかないこともあるし、今あなたの家に私がシェリーとして入ってきても気づかれなかったでしょう? じゃあ私たちが入れ替わっても問題ないってことじゃない?」
「お前な……」
テッドはそれは違う、と説明しようとしたがうまく言葉が出てこない。
そしてテッドは考える。確かにレーナがこれまで日常的にシェリーと入れ替わりながら生きてきたのであれば、そういう間違った思考で育ってしまうのかもしれない。
「入れ替わっていても気づかないのと、文句を言うのとは別問題だろ?」
「入れ替わっても気づかない人に文句を言う資格はないと思うけど」
「いや、そういう問題じゃないだろ……」
「じゃあどういう問題なの?」
「大人には大人の事情があるだろ」
「それなら私がシェリーだったことにすればいいじゃん」
レーナは再びあっけらかんと言い放つ。だめだ、まるで会話がかみ合わない。
それを聞いて再びテッドは頭を抱えた。やはり双子の姉に成りすまして婚約者と会っていただけあってレーナは頭がおかしい。そうとしか思えない。
そして早くも、ちょっと彼女がシェリーよりも一緒にいて楽しかったからといって、先ほどの場面できちんと答えを出さなかったことを後悔した。
そこでガツンとレーナに言っていればこんな面倒なことにならなかったのに。
「とはいえ、もうなってしまったものは仕方ないし、気を取り直してお茶の続きをしようよ」
「仕方ないで済めば苦労はしない!」
これからのことを考えるだけで頭も胃も痛くなるというのに呑気にお茶なんかしている場合ではない。
「そんなこと言わずにお茶でも落ち着いて」
そう言ってレーナが紅茶を注いでくれる。
そんなレーナの姿を見てテッドはだんだんばかばかしくなってきた。何で彼女がこんななのに自分だけが思い悩まなければならないんだ。
シェリーをないがしろにしたことについて怒られたらレーナに騙されたとか適当なことを言って切り抜けよう、とテッドは決意する。それにシェリーのことだからあの時は気が動転していた、とか言って謝ればどうにかなるはずだ。
「分かった、じゃあとりあえずいただくよ」
そう言ってテッドはレーナが淹れてくれた紅茶を飲む。淹れてくれたといってもテッドの家の紅茶なのでいつもの味がするだけだが。
「ところで今度一緒に行きたいところがあるんだけど……」
テッドが落ち着いたと見るや、レーナはそんな話を始める。
確かに彼女のこういうところは一緒にいて楽しいな、と思いながらテッドは話を合わせるのだった。
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