幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃

文字の大きさ
2 / 15

しおりを挟む
「そこのお二方、ごきげんよう」

 突然人垣をかき分けて現れた女を見て私は内心溜め息をついた。
 高い生地をふんだんに使った派手な赤色のドレス。これでもかと巻かれた長い髪。そして周囲の人物、特に私たち二人を見下すような高慢な眼差し。

 実際に会うのは初めてだったが、おそらく名前は聞いたことがある。

 ジュリー・パウエル。パウエル伯爵家という裕福な貴族家のご令嬢なのだが、大規模なパーティーで会うと爵位が下の家の令嬢に絡んでくる、平たく言えばマウントをとってくる厄介令嬢として噂になっている。幸運なことに私は今まで会ったことはなかったが、ついに遭遇してしまったか。

「ご機嫌よう」

 一方のクレアは恐らくそんな噂も知らないのだろう、普通の初対面の相手だと思って普通に挨拶を返している。
 いくら相手が厄介令嬢だからとはいえ、目の前でクレアに「この人は厄介令嬢なのでさっさと逃げた方がいいですよ」と耳打ちする訳にもいかない。

「ご機嫌よう」

 仕方なく私も挨拶を返す。

「初めましてお二方、私はパウエル伯爵家のジュリーと言いますわ。以後お見知りおきを」

 そう言って彼女は私たちを見て笑みを浮かべる。純粋なクレアはただの初対面の笑みと思っているのかもしれないが、私には分かる。
 これは自分の家の方が爵位が高いと知っている人の目だ。
 彼女は私たちが子爵家の生まれだと知って声をかけているのだろう。

「私はダグラス子爵家のクレアと言います!」
「私はローラ・ケレットです」

 クレアが無邪気に自己紹介しているので、やむなく私もそれに追従する。

「まあ、お二人とも子爵家の方だったのですね」

 ジュリーはさも今知ったかのように言う。

「見てください、わたくしのこのドレス。お抱えの職人に頼んで特注で作っていただいたのですわ」
「わあ、すごいですね」

 明らかに自慢されているというのにクレアは無邪気に感心している。
 なんだかなあ、と思いつつもクレアが相槌してくれているおかげで私は何も言わなくても良さそうだったので、助かったと思いつつ私は黙っていることにした。

「特にこの部分は先代の王妃様が愛用していたドレスの意匠を参考にしたもので……」
「確かに、あ、もしかしてこの部分はバロニア時代の流行を参考にしています?」
「さすが、よく分かってらっしゃいますね」
「そんな昔の流行も取り入れているのはさすがですね」
「そうでしょう、何せこの私が特注で作らせたものですから」

 クレアの無邪気な感心にジュリーはどんどん気をよくしていく。
 うーん、しゃべらなくて済むのは楽だけどこのやりとりいつまで続くんだろう。
 私はあまり服飾に興味はないので二人が何を話しているのかさっぱり分からない。クレアに適当に話を打ち切るなんてことは出来ないだろうし……

 そう思った時だった。

「でも先代の王妃様が愛用していたのはどちらかというとセレニア文化の意匠ですよね? バロニア文化の意匠と同居しているのは不自然じゃないですか?」
「え?」

 先ほどまでの無邪気な賞賛と全く同じテンションで発せられたクレアの言葉に、ジュリーの表情が凍り付いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の薔薇

ここ
恋愛
公爵令嬢レオナン・シュタインはいわゆる悪役令嬢だ。だが、とんでもなく優秀だ。その上、王太子に溺愛されている。ヒロインが霞んでしまうほどに‥。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

私が彼から離れた七つの理由・完結

まほりろ
恋愛
私とコニーの両親は仲良しで、コニーとは赤ちゃんの時から縁。 初めて読んだ絵本も、初めて乗った馬も、初めてお絵描きを習った先生も、初めてピアノを習った先生も、一緒。 コニーは一番のお友達で、大人になっても一緒だと思っていた。 だけど学園に入学してからコニーの様子がおかしくて……。 ※初恋、失恋、ライバル、片思い、切ない、自分磨きの旅、地味→美少女、上位互換ゲット、ざまぁ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうで2022年11月19日昼日間ランキング総合7位まで上がった作品です!

処理中です...