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Ⅲ
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「ですから、この部分はセレニア文化で流行した意匠なのに、別の部分ではバロニア文化で流行した意匠が使われています。もちろんいくつかの文化の意匠を混在させるというのが必ずしもいけないと言う訳ではありませんが、もしそうするならそれと分かるようにしなければ、例えば……」
そう言ってクレアは意気揚々と話しているが、クレア以外は皆気づいているように彼女がしゃべればしゃべるほどジュリーの顔が真っ赤になっていく。
それはそうだ、彼女からすればせっかく自分のドレスを格下の貴族相手に自慢しようとしたのに、かえって無知を指摘するようなことを言われたのだから。
しかしクレアは他の貴族令嬢とは違って、特にジュリーを陥れようとかそういうことを全く考えずにしゃべっているものだからジュリーも反応に困っているのだろう。
「あの、クレア」
「ごめんローラ、今いいところだから」
さすがに見かねた私が割って入ろうとしたが押し返されてしまった。
普段はこんな感じじゃないクレアが何でこんなに熱っぽく話しているのだろうと思ったが、そう言えばクレアの実家、ダグラス家の領地では服飾産業が盛んなのだった。
基本的に腕のいい仕立て屋は貴族に服を売るため王都に集まることが多いのだが、地方の貴族や裕福な商人向けに服を仕立てる職人たちは王都にいる必要はない。そしてそれがクレアの実家の領地であるという訳である。
女でも領地で盛んな産業ぐらいは知っておけという教育方針だったようで、クレアは幼いころから王族や公爵家の人が着るようなドレスを見せられて育ったらしい。
そのため、自分が高いドレスを持っている訳ではないが知識だけは人一倍あるらしかった。
一度、
「きれいなドレスを見せてもらえるのは嬉しいけど『一か所でもほつれさせたらあなたは一生借金を背負うのよ』て言うぐらいなら見せないで欲しい」
と笑うに笑えない愚痴をクレアが笑いながら言っているのを聞いて、聞いた私がひえっ、と思ったものだ。
一方のジュリーは最初こそ口数が多かったが、クレアに変なところを指摘されてからは急に口数が減ったところを見ると、深い知識がある訳ではなかったのだろう。
普段高慢なジュリーが普段から純真なクレアに言い負かされているのを見るのが爽快とでも思ったのか、いつの間にか私たちの周りには他家のご令嬢たちで人垣が出来ていた。
大勢の前でジュリーが言い負かされているのを見る愉快さと、この後どうなるんだろうという不安が私の脳内をぐるぐると渦巻く。
「……と言う訳なのですが、どうでしょう?」
が、クレアはそんな状況を全く考えずにジュリーに問いかける。きっとクレアは自分たちの会話を大勢の野次馬たちに聞かれていることにも気づいていないのだろう。
これだけ相手の間違いを指摘して今更どうでしょうも何もない。
案の定、ジュリーは大勢の前で無知を晒されて顔を真っ赤にしている。
そして向こうもこれだけの人に囲まれてしまえば体面というものがある以上退くに退けなかった。
「……まあそれはそうかもしれませんわね。ところであなたの婚約者はどこのどなたでしたっけ?」
ドレスの知識で言い負かされたことはどうにもならないと悟ったのか、唐突に彼女は話題を変えたのだった。
そう言ってクレアは意気揚々と話しているが、クレア以外は皆気づいているように彼女がしゃべればしゃべるほどジュリーの顔が真っ赤になっていく。
それはそうだ、彼女からすればせっかく自分のドレスを格下の貴族相手に自慢しようとしたのに、かえって無知を指摘するようなことを言われたのだから。
しかしクレアは他の貴族令嬢とは違って、特にジュリーを陥れようとかそういうことを全く考えずにしゃべっているものだからジュリーも反応に困っているのだろう。
「あの、クレア」
「ごめんローラ、今いいところだから」
さすがに見かねた私が割って入ろうとしたが押し返されてしまった。
普段はこんな感じじゃないクレアが何でこんなに熱っぽく話しているのだろうと思ったが、そう言えばクレアの実家、ダグラス家の領地では服飾産業が盛んなのだった。
基本的に腕のいい仕立て屋は貴族に服を売るため王都に集まることが多いのだが、地方の貴族や裕福な商人向けに服を仕立てる職人たちは王都にいる必要はない。そしてそれがクレアの実家の領地であるという訳である。
女でも領地で盛んな産業ぐらいは知っておけという教育方針だったようで、クレアは幼いころから王族や公爵家の人が着るようなドレスを見せられて育ったらしい。
そのため、自分が高いドレスを持っている訳ではないが知識だけは人一倍あるらしかった。
一度、
「きれいなドレスを見せてもらえるのは嬉しいけど『一か所でもほつれさせたらあなたは一生借金を背負うのよ』て言うぐらいなら見せないで欲しい」
と笑うに笑えない愚痴をクレアが笑いながら言っているのを聞いて、聞いた私がひえっ、と思ったものだ。
一方のジュリーは最初こそ口数が多かったが、クレアに変なところを指摘されてからは急に口数が減ったところを見ると、深い知識がある訳ではなかったのだろう。
普段高慢なジュリーが普段から純真なクレアに言い負かされているのを見るのが爽快とでも思ったのか、いつの間にか私たちの周りには他家のご令嬢たちで人垣が出来ていた。
大勢の前でジュリーが言い負かされているのを見る愉快さと、この後どうなるんだろうという不安が私の脳内をぐるぐると渦巻く。
「……と言う訳なのですが、どうでしょう?」
が、クレアはそんな状況を全く考えずにジュリーに問いかける。きっとクレアは自分たちの会話を大勢の野次馬たちに聞かれていることにも気づいていないのだろう。
これだけ相手の間違いを指摘して今更どうでしょうも何もない。
案の定、ジュリーは大勢の前で無知を晒されて顔を真っ赤にしている。
そして向こうもこれだけの人に囲まれてしまえば体面というものがある以上退くに退けなかった。
「……まあそれはそうかもしれませんわね。ところであなたの婚約者はどこのどなたでしたっけ?」
ドレスの知識で言い負かされたことはどうにもならないと悟ったのか、唐突に彼女は話題を変えたのだった。
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