5 / 15
Ⅴ
しおりを挟む
「あらアイザック、ごきげんよう」
そんなアイザックの姿を見ると、ジュリーはそれまでの好戦的な表情を一転させ、相好を崩す。
「やあ、こんにちは」
アイザックはそう言ってジュリーや私たちに手を振ってみせる。
間近で見たアイザックはやはり他の貴族令嬢、令息とはオーラが違った。
彼の隣に立てば平民でも貴族令嬢に見えてしまう、と言ったが逆に彼の隣に立った貴族令嬢は彼の前ではかすんで見えてしまった。
先ほどまでジュリーに自慢されて嫌な気持ちになっていたであろうクレアも、アイザックを見て思わず見とれてしまっているようだった。
ジュリーがクレアに言い負かされているのを見て内心あざ笑っていた者たちも、今はそんなアイザックと婚約者であると言っているジュリーを羨まし気に見つめている。
「やっぱりアイザックは今日も格好いいわ」
「おいおい、皆して何の話だ?」
ジュリーの言葉にアイザックは苦笑して首をかしげる。
「実はさっきからアイザックはとても格好いい、という話をしていましたの」
「そうか。それはありがたいな。とはいえ、穏やかでない雰囲気を感じたが?」
「だって彼女ったら自分の婚約者がアイザックほど格好いいと勘違いしていたみたいだからちょっと現実を教えてあげようと思いまして」
「いえ、私は別に……」
別にクレアはそんなことは一言も言っていないが、ジュリーの脳内では勝手に彼女のストーリーが出来上がっているようであった。
「残念ながらジャック程度では、容姿、武術の腕、性格どれをとってもアイザックには敵わないというのに。だってアイザックは……」
そう言ってジュリーは得意げにアイザックとの思い出を語り始める。どうやら前のパーティーで出会った時、アイザックは特別にジュリーをエスコートしてくれたらしい。
それを聞いている私たちは静まり返っていた。
ジュリーに対して敗北感を感じていたから一言もしゃべれなかったから……ではない。
ジュリーがしている話が嘘か本当か分からないからコメント出来なかったから……でもない。
ジュリーの隣にいるアイザックの雰囲気がどんどんぴりぴりしたものに変わっていったからだ。
最初は笑顔で現れたアイザックはジュリーが一言話すごとに少しずつ真顔になっていく。
あの鈍感なクレアですらそれに気づいて、心なしか私の後ろに隠れようとしている。
そんな中、ジュリーだけは恐らく全く気付いていないのだろう。
「……ということがあったのですわ」
と、得意げに話を終える。
そして同意を求めるようにアイザックを見て、そこでようやく異変に気付いたのか、ひっ、と短い悲鳴を上げて凍り付いた。
「僕を引き合いに出して他人の悪口を言うのは感心しないな」
アイザックの声は静かだが、はっきりと不快の感情が込められていた。
そんなアイザックの姿を見ると、ジュリーはそれまでの好戦的な表情を一転させ、相好を崩す。
「やあ、こんにちは」
アイザックはそう言ってジュリーや私たちに手を振ってみせる。
間近で見たアイザックはやはり他の貴族令嬢、令息とはオーラが違った。
彼の隣に立てば平民でも貴族令嬢に見えてしまう、と言ったが逆に彼の隣に立った貴族令嬢は彼の前ではかすんで見えてしまった。
先ほどまでジュリーに自慢されて嫌な気持ちになっていたであろうクレアも、アイザックを見て思わず見とれてしまっているようだった。
ジュリーがクレアに言い負かされているのを見て内心あざ笑っていた者たちも、今はそんなアイザックと婚約者であると言っているジュリーを羨まし気に見つめている。
「やっぱりアイザックは今日も格好いいわ」
「おいおい、皆して何の話だ?」
ジュリーの言葉にアイザックは苦笑して首をかしげる。
「実はさっきからアイザックはとても格好いい、という話をしていましたの」
「そうか。それはありがたいな。とはいえ、穏やかでない雰囲気を感じたが?」
「だって彼女ったら自分の婚約者がアイザックほど格好いいと勘違いしていたみたいだからちょっと現実を教えてあげようと思いまして」
「いえ、私は別に……」
別にクレアはそんなことは一言も言っていないが、ジュリーの脳内では勝手に彼女のストーリーが出来上がっているようであった。
「残念ながらジャック程度では、容姿、武術の腕、性格どれをとってもアイザックには敵わないというのに。だってアイザックは……」
そう言ってジュリーは得意げにアイザックとの思い出を語り始める。どうやら前のパーティーで出会った時、アイザックは特別にジュリーをエスコートしてくれたらしい。
それを聞いている私たちは静まり返っていた。
ジュリーに対して敗北感を感じていたから一言もしゃべれなかったから……ではない。
ジュリーがしている話が嘘か本当か分からないからコメント出来なかったから……でもない。
ジュリーの隣にいるアイザックの雰囲気がどんどんぴりぴりしたものに変わっていったからだ。
最初は笑顔で現れたアイザックはジュリーが一言話すごとに少しずつ真顔になっていく。
あの鈍感なクレアですらそれに気づいて、心なしか私の後ろに隠れようとしている。
そんな中、ジュリーだけは恐らく全く気付いていないのだろう。
「……ということがあったのですわ」
と、得意げに話を終える。
そして同意を求めるようにアイザックを見て、そこでようやく異変に気付いたのか、ひっ、と短い悲鳴を上げて凍り付いた。
「僕を引き合いに出して他人の悪口を言うのは感心しないな」
アイザックの声は静かだが、はっきりと不快の感情が込められていた。
802
あなたにおすすめの小説
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
私が彼から離れた七つの理由・完結
まほりろ
恋愛
私とコニーの両親は仲良しで、コニーとは赤ちゃんの時から縁。
初めて読んだ絵本も、初めて乗った馬も、初めてお絵描きを習った先生も、初めてピアノを習った先生も、一緒。
コニーは一番のお友達で、大人になっても一緒だと思っていた。
だけど学園に入学してからコニーの様子がおかしくて……。
※初恋、失恋、ライバル、片思い、切ない、自分磨きの旅、地味→美少女、上位互換ゲット、ざまぁ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうで2022年11月19日昼日間ランキング総合7位まで上がった作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる