幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃

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「何か騒ぎになっているが、一体何があったんだ?」

 そう言って、アイザックと入れ替わりにやってきたのはクレアの婚約者、ジャックであった。
 ラブラブな婚約者の姿を見てクレアはほっとする。

「良かったジャック、実はこの人が何か婚約者の自慢をしてきたと思ったらアイザックさんが来て色々大変だったの」
「さっぱり説明が要領を得ないんだが……」

 クレアの説明にジャックは苦笑する。
 というか、本人が横で座り込んでいるというのに、よくそんな大きな声でそんな会話が出来るな、と私は内心で感心する。まあそれはそれでおもしろいから言わないけど。

「でも彼女……確か有名なジュリー嬢だろう? 彼女に婚約者なんていたっけ?」
「ううん、ジュリーさんは婚約者だと思い込んでいたけど婚約者じゃなかったの」
「え、どういうことだ?」
「だから、ジュリーさんはアイザックと婚約している同士だと思い込んでいただけで、実際はそうじゃなかったの!」
「ああ、そういうことか。婚約してないのに婚約していると思い込むなんてある訳ないと思っていたから一瞬理解出来なかったよ」

 ようやく納得いったようにジャックは頷く。
 ちなみにその間も会話はジュリーには普通に聞こえていたせいか、彼女は自分の名前が出るたびに肩をぴくぴくさせていた。

 そして周囲に残っているご令嬢たちはそんなクレアとジャックの会話に肩を震わせて笑っている。

 というか、ジャックを実際に間近で見るのは初めてだが、クレアに負けず劣らず純粋だな。
 ジャックの雰囲気を見る限りわざとではないのだろうが、的確にジュリーに追い撃ちをかけるような会話をしている。

「でもそれでアイザックが来たなら彼女は大恥をかいたんじゃないか?」
「う、うん……でもジュリーさんがそれでも頑なに現実を認めないから、アイザックさんが怒って私も少し怖かった」
「そうか、それで何か大声が聞こえたのか。でももう僕が来たんだから大丈夫だ」

 そう言ってジャックは腕を広げる。するとクレアは彼の腕の中に飛び込んだ。そんな彼女をジャックは優しく慰めている。

 ジュリーは好き放題言っていたが、こうして見るとジャックもなかなかにいい男ではないか。今の会話を全部無意識にやっていたのであればちょっと天然すぎるとは思うけど。
 もっともそれはそれでクレアとは似た者同士だから相性がいいとも言えるけど。

 散々二人の天然な言動で刺された上に、隣で盛大にいちゃつかれたのがよほど屈辱だったのだろう、ジュリーは逃げるようにそそくさとその場を離れるのだった。

 それを見てようやく野次馬たちも解散していったのだった。
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