空の六等星。二つの空と僕――Cielo, estrellas de sexta magnitud y pastel.

永倉圭夏

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第18章 二人と亡霊

第107話 大的中

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 パドックを早々に後にすると僕らは予想を立てる。競馬なんて久しぶりの僕は記念程度に、と単勝と馬連の一番人気を買ってみた。無難すぎる。空さんはというと、驚いたことに三連単をシートに記入していた。

「えっ、どうやって予想したんですか?」

「勘」

「勘?」

 こともなげに言う空さん。だがその顔は真剣そのものだ。3-8-7が空さんの勘による予想だった。僕には勝てるような投票には到底思えなかった。

 いよいよ出走馬がゲートに入る。そこでアナウンスが聞こえた。

「どうしたの?」

「僕の賭けた馬が出走停止になってしまいました」

「あらら、じゃあ賭けたお金は戻ってこないの?」

「いや、もちろん払い戻しはされます。でも、本気で賭けたわけでなくてもなんだか悔しいなあ」

「残念だったね」

 空さんが僕を慰めるや否やゲートから一斉に馬たちが飛び出す。9番と2番が大きく出遅れたほかは横並びでいい勝負に見える。

 このとき僕はぼんやりして昨晩の海崎さんとムネさんの様子を思い出していた。ムネさんのあんな表情、何かを怖がるような顔は見たことがなかった。そしてあの時なぜ空さんをちらりと見たのだろう。僕には理解できなかったが、どこかしらいやな、そう、胸騒ぎのようなものを感じた。

 ふと気が付くと空さんが血走った目でOROビジョンを見つめていた。

「あああああ、3-8-7、3-8-7、あと少し、頑張って8頑張って……」

「なんだって!」

 仰天した僕はOROビジョンとコースを交互に見つめる。7-4-3で第四コーナーに入ったと同時に猛追する八番は一位に躍り出る。8-4-3からストレートで最終的に3-8-7でゴールした。

 当たった。空さんの勘の予想が当たった。

「やったっ!」

「きゃーっ!」

 僕たちは歓声を上げて抱きあった。まだ少し焦げ臭い、でも甘い空さんの香り、薄くて細いのにふわっとした抱き心地に僕は軽くめまいがした。ふと気が付いた僕らは少し赤くなって身体を離す。

「さ、さあ、配当見なくちゃ……」

「……うん」

 名残惜し気に身を離す僕たち。僕はOROビジョンに目をやる。三連単とはいえ意外と配当が少ないことが多い。だが僕はビジョンを見て絶句した。

「どうしたの?」

「98,650円……」

「えっ」

「98,650円ですよっ! ほぼ10万馬券ですっ!」

「これが…… 10万……」

 空さんは呆然とした表情で自分の勝ち馬投票券を眺めている。

「今すぐ払い戻しましょう!」

「そうね」

 こうして空さんは意外な臨時収入を得たのだが、そうそう神通力が通用するわけもなく、この後は全敗で、僕も220円を当てたに過ぎなかった。

「ねえ」

 OROパークから駐車場へ向かうところで空さんが声をかけてきた。

「ひろ君の体調次第だけれど、お茶しに行かない? あの払戻金で」


【次回】
第108話 パステルのプレゼント
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