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第19章 シエロ殺処分
第121話 2人の空、2人の夢
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その涙を隠そうとしたのか、海崎さんは上空を見上げる。青空にぽかりぽかりと小さな雲が浮かぶのどかな天気だった。海崎さんは穏やかな天上を見上げたまま空さんに声をかける。
「あんた、『空』って言うんだったな」
「はい」
緊張を維持したまま空さんは返答する。一方で海崎さんの表情は先ほどよりこの天気のように少しのどかに見えた。
「こいつもな『空』って言うんだ」
「えっ」
僕は驚いたが、空さんは無言で海崎さんを見つめたまま小さくうなずく。
「まあ正しくは少し違うがな。『コレドールシエロ』はスペイン語で『空のランナー』という意味だ。『コレドール』がランナーで『シエロ』が空。空を駆けるくらい速い馬になって欲しいとの願いを込めてつけられた名前だ。ま実際の文法上は違う言葉になるんだがよ」
少し真剣な顔で空さんに視線をやる海崎さんは続ける。
「あんたとシエロは同じ『空』、同じ名前を持つ者だ。同じ名前を持つ者同士だからこそ、どこかで何かしら繋がっているのかも知れねえな」
空さんは緊張した表情を崩さず小さくうなずき、海崎さんの言葉に耳を傾ける。
「あんた、こいつを引き取りたいと言ってたな」
空さんはうなずく。海崎さんはかすかな、そして寂しそうな笑みを浮かべる。
「わかった。こいつをあんたにやろう」
空さんは一瞬で目を輝かせた、が硬い表情は崩さず深くうなずく。
「ただし1,200百万。これ以上は負からん。俺はこれを債務に当てなくてはいかん。こっちとしちゃこれ以上はないお値打ち価格だ」
空さんはまた深くうなずく。
「シエロはもう競走馬じゃねえ。ただの馬だ。その点所有権の移転手続きにそう面倒はねえ。こちらで一応ちゃんとした形の所有権譲渡書を用意する。完成したらまたあんたを呼ぼう。その時金を持ってきてくれ」
「はい」
「よし、これで仮契約成立だ。あとは俺からの連絡を待っててくれよ。なあに、そんなには待たせん」
「判りました」
空さんは一歩海崎さんの前に出る。
「あの」
「なんだ」
「本当に、ありがとうございます」
空さんは真剣な表情で深々とお辞儀をした。海崎さんはそっぽを向く。その視線の先にはシエロがいた。
「よせやい。言ったろ。俺あもともと慰労のためにこいつをここへ預けたんだ。その筋を曲げちゃいかん。そう言ったのはあんただろうが」
空さんからそっぽを向いたまま、また雲の浮かんだ青空を見上げる海崎さん。
「ありがとよ。あんたがそう言ってくれなかったら俺あこいつを殺しちまうとこだった」
海崎さんは視線をシエロに戻す。海崎さんは慈しむような眼でシエロを眺める。
「俺の夢、俺たちの見た夢が一山いくらの馬肉になってたまるもんかよ。なあ?」
海崎さんはしばらく愛おし気にシエロを見つめていた。僕たちはそのわびしく寂しげな背中を見つめていた。
【次回】
第122話 夢の終わり
「あんた、『空』って言うんだったな」
「はい」
緊張を維持したまま空さんは返答する。一方で海崎さんの表情は先ほどよりこの天気のように少しのどかに見えた。
「こいつもな『空』って言うんだ」
「えっ」
僕は驚いたが、空さんは無言で海崎さんを見つめたまま小さくうなずく。
「まあ正しくは少し違うがな。『コレドールシエロ』はスペイン語で『空のランナー』という意味だ。『コレドール』がランナーで『シエロ』が空。空を駆けるくらい速い馬になって欲しいとの願いを込めてつけられた名前だ。ま実際の文法上は違う言葉になるんだがよ」
少し真剣な顔で空さんに視線をやる海崎さんは続ける。
「あんたとシエロは同じ『空』、同じ名前を持つ者だ。同じ名前を持つ者同士だからこそ、どこかで何かしら繋がっているのかも知れねえな」
空さんは緊張した表情を崩さず小さくうなずき、海崎さんの言葉に耳を傾ける。
「あんた、こいつを引き取りたいと言ってたな」
空さんはうなずく。海崎さんはかすかな、そして寂しそうな笑みを浮かべる。
「わかった。こいつをあんたにやろう」
空さんは一瞬で目を輝かせた、が硬い表情は崩さず深くうなずく。
「ただし1,200百万。これ以上は負からん。俺はこれを債務に当てなくてはいかん。こっちとしちゃこれ以上はないお値打ち価格だ」
空さんはまた深くうなずく。
「シエロはもう競走馬じゃねえ。ただの馬だ。その点所有権の移転手続きにそう面倒はねえ。こちらで一応ちゃんとした形の所有権譲渡書を用意する。完成したらまたあんたを呼ぼう。その時金を持ってきてくれ」
「はい」
「よし、これで仮契約成立だ。あとは俺からの連絡を待っててくれよ。なあに、そんなには待たせん」
「判りました」
空さんは一歩海崎さんの前に出る。
「あの」
「なんだ」
「本当に、ありがとうございます」
空さんは真剣な表情で深々とお辞儀をした。海崎さんはそっぽを向く。その視線の先にはシエロがいた。
「よせやい。言ったろ。俺あもともと慰労のためにこいつをここへ預けたんだ。その筋を曲げちゃいかん。そう言ったのはあんただろうが」
空さんからそっぽを向いたまま、また雲の浮かんだ青空を見上げる海崎さん。
「ありがとよ。あんたがそう言ってくれなかったら俺あこいつを殺しちまうとこだった」
海崎さんは視線をシエロに戻す。海崎さんは慈しむような眼でシエロを眺める。
「俺の夢、俺たちの見た夢が一山いくらの馬肉になってたまるもんかよ。なあ?」
海崎さんはしばらく愛おし気にシエロを見つめていた。僕たちはそのわびしく寂しげな背中を見つめていた。
【次回】
第122話 夢の終わり
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