空の六等星。二つの空と僕――Cielo, estrellas de sexta magnitud y pastel.

第21章 空を追って

第134話 空の様々な表情に思いを馳せる裕樹

　シャッターが開くまで駅入り口に座り込み、それが開いたら待合室で時間を潰した。

　コンビニでおにぎりを買うが食欲が湧かず持て余す。朝一の新幹線に乗り東京へ向かった。そこではずっと空さんのことばかり考える。

　初めて会った時の美しくとも虚ろで儚はかなげな眼と表情。死ぬことばかり考えていて抜け殻のような空さんがシエロを通じて次第に生気を取り戻し、駈歩かけあしに成功した時に見せた初めての笑顔。グランピングで僕にフラッシュバックが出た時に僕を気遣きづかった時の眼。僕が廃寺はいじの材木に押しつぶされそうになった時、もう自分からは絶対に死なないと訴えかけてきた時の必死の表情。診療所での付き添い時の慈愛に満ちた眼。炎上する廃倉庫の中でひしと抱き合った時の震える肩。空さんの細い腕を掴んだ時の悲し気なほほ笑み。

　僕はバッグから2枚の名刺を取り出す。空さんを連れ帰った車の男女の名刺だ。事務室からこっそりくすねて来たその名刺を眺める。さてどちらを通したら空さんに繋がりやすいか。僕は決めあぐねていたが、空さんのことを義姉ねえさんと呼んでいた女性の方がより空さんに近い存在に思えた。名前は高月こうづき七恵ななえ。新幹線の車内でルート検索をする。東京都千代田区内の僕でも聞いた事のある大手出版社に勤めているようだ。


【次回】
第135話　怒りと拒絶と侮蔑