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第23章 空の賭け、裕樹の賭け
第140話 苦悩を共有するということ
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「それじゃあ――」
空さんはこちらを向きさっきよりははっきりした声で言う。
「でもさっきひろ君が言った『環境』の問題があるの。私はあの人への思いを捨ててそっちへはいけない」
「どうしてでしょう」
なにも慶さんへの想いを捨てずとも、そのままシェアトで生活したっていい。僕はそう思った。
「どうして? どうしてって……」
僕の問いかけに空さんは面食らった顔になる。
「それじゃあ慶さんとの思い出が整理できたら帰ってきてくれる。そういうことですね。それでしたら僕待ちます」
「待ちます? えっ? 待つって? 待つって何?」
「空さんが慶さんとの思い出を整理するまで待つ、という意味です」
「えっ、ちょっと待って。それはいつになるか判らないし、いや、そもそも私があの人との思い出を忘れられるわけがないじゃない」
空さんは慌てた顔で慌てた声になる。
「それでも僕は待ちます。それにシエロも待つと思います。シエロはすっかり落ち着かなくて見ていられないくらいです」
シエロの名を出されはっとした空さんは一瞬虚を突かれたようにこっちを向いたがまたすぐに俯いた。まるで叱られた子供のようだ。
「ずるい……」
「ずるくないです。本当のことですから。シエロはこれから何十年も死ぬまで空さんのことを待ち続けるでしょう。僕はいいんです。どうしてもだめだと諦めがついたら最悪次を考えられますから」
もちろんそんなつもりはない。
「だけどシエロはそういうことはできないと思います」
そう僕は畳みかけた。
「それに、空さんが慶さんのことを忘れられないのは当たり前のことじゃないでしょうか。罪の意識についても、理屈の上では以前僕が言った通りにしても、実際の気持ちの上ではそう簡単に拭い去れるものではないでしょう。だから僕はそれでいいんです」
「それで、いい……?」
「空さんはそのままの空さんでいいということです。僕はありのままの空さんをを否定したりはしません。改めろとも言いません。空さんの苦しみを、辛さを、悲しみを、喜びを、僕はただ全てを共有したいんです」
「共有」
「はい。そしてもしできるのであれば、その苦しみや辛さや悲しみを少しでも癒すお手伝いがしたい」
空さんはちらっと僕の眼を見た。そしてすぐに視線を床に戻す。
「ひろ君が、私を、癒す」
「はい」
空さんは腕組みをして俯いたままぽつりぽつりと呟く。
【次回】
第141話 思い出、空の迷い
空さんはこちらを向きさっきよりははっきりした声で言う。
「でもさっきひろ君が言った『環境』の問題があるの。私はあの人への思いを捨ててそっちへはいけない」
「どうしてでしょう」
なにも慶さんへの想いを捨てずとも、そのままシェアトで生活したっていい。僕はそう思った。
「どうして? どうしてって……」
僕の問いかけに空さんは面食らった顔になる。
「それじゃあ慶さんとの思い出が整理できたら帰ってきてくれる。そういうことですね。それでしたら僕待ちます」
「待ちます? えっ? 待つって? 待つって何?」
「空さんが慶さんとの思い出を整理するまで待つ、という意味です」
「えっ、ちょっと待って。それはいつになるか判らないし、いや、そもそも私があの人との思い出を忘れられるわけがないじゃない」
空さんは慌てた顔で慌てた声になる。
「それでも僕は待ちます。それにシエロも待つと思います。シエロはすっかり落ち着かなくて見ていられないくらいです」
シエロの名を出されはっとした空さんは一瞬虚を突かれたようにこっちを向いたがまたすぐに俯いた。まるで叱られた子供のようだ。
「ずるい……」
「ずるくないです。本当のことですから。シエロはこれから何十年も死ぬまで空さんのことを待ち続けるでしょう。僕はいいんです。どうしてもだめだと諦めがついたら最悪次を考えられますから」
もちろんそんなつもりはない。
「だけどシエロはそういうことはできないと思います」
そう僕は畳みかけた。
「それに、空さんが慶さんのことを忘れられないのは当たり前のことじゃないでしょうか。罪の意識についても、理屈の上では以前僕が言った通りにしても、実際の気持ちの上ではそう簡単に拭い去れるものではないでしょう。だから僕はそれでいいんです」
「それで、いい……?」
「空さんはそのままの空さんでいいということです。僕はありのままの空さんをを否定したりはしません。改めろとも言いません。空さんの苦しみを、辛さを、悲しみを、喜びを、僕はただ全てを共有したいんです」
「共有」
「はい。そしてもしできるのであれば、その苦しみや辛さや悲しみを少しでも癒すお手伝いがしたい」
空さんはちらっと僕の眼を見た。そしてすぐに視線を床に戻す。
「ひろ君が、私を、癒す」
「はい」
空さんは腕組みをして俯いたままぽつりぽつりと呟く。
【次回】
第141話 思い出、空の迷い
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