空の六等星。二つの空と僕――Cielo, estrellas de sexta magnitud y pastel.

永倉圭夏

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第23章 空の賭け、裕樹の賭け

第141話 思い出、空の迷い

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「初めて会った時のこと覚えてる?」

「よく覚えてます」

「実は私あまりよく覚えてないの。何もかもが空っぽで灰色で、死ぬのにいい場所はないか、慶のもとに行くにはどうしたらいいか、そればかり考えてた。だけどひろ君の眼だけははっきりと覚えてる。あの苦しそうに切なそうに私を見つめる眼……」

「そんなに苦しそうでしたか」

「ええ。きっと私がお姉さんのように死にたがったいることに気付いていて、それがつらかったのね」

「はい、そのとおりです」

「実はその時から気にはなっていたの、ひろ君のことが」

「えっ」

「はじめは本当に私につきまとうだけの人だと思ってた。つかず離れず、まるでストーカーのように私のあとをついて回って最初は本当にうっとおしかった。そして私が慶のもとに行こうとするのをことごとく妨害する邪魔者」

「邪魔者はひどいなあ」

「ううん、でも、でもね、そのうちひろ君がそれだけ私のことを強く想ってるんだって判ってきたら…… 私みたいな罪人でも大事に想ってくれる人がいるんだって感じて、そしたら……」

「ええ」

「私の気持ちに少しずつ変化が生まれてきたの……」

「はい」

「でも私、ひろ君の足手まといになっていると思って、それで馬術乗馬部門に」

「はい」

大城おおきさんは優しくはしてくれたけれど、あれは下心があっての優しさでしょう。こうすれば女は喜ぶんだろう? みたいな。ひろ君のような無私の、人を慈しむ深い優しさじゃなかった」

「そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」

 いや、僕だって全く下心がなかったのかと言われれば、否定できないけれど。僕はなんだかくすぐったい気持ちだった。

「私が雨に打たれて低体温症になっていたのを救ってもらった時、慶とのことを全部聞いて貰ってすごく胸が軽くなった。私が背負った罪をあなたが許してくれたみたいな気がして」

「それはよかったです」

「私の喜びも苦しみも全て共有して支えることができる人はひろ君。あなたしかいない。その時そう思った。」

「僕だってそうです。姉を失った苦しみを分かち合っていけるのは空さんしかいないと思っています」

「やっと私も心の平穏を取り戻せそうになったら今度は私をかばって柱と梁の下敷きになって…… あの時は怖くて私まで死ぬかと思った。それでもっと強く自覚したの。あなたへの気持ち」

「ありがとうございます。下敷きになったかいがあったってものです」

「もう! 冗談でももうそんなこと言わないで。私本当に怖かったんだから…… あの人に続いてあなたまで私のせいで死んじゃうんじゃないかって」

「すいません」

「火の中に飛び込んでいったあなたを無我夢中で心肺蘇生した時あの人に言ったの『どうかお願いだからこの人は連れて行かないで』って…… あの人は救えなかったけど、あなただけでも救えたのはよかった」

「あの時は本当にありがとうございました。感謝しています」

「でもやっぱり…… わからなくて」

「何がです?」

「私一体どうしたらいいのか……」


【次回】
第142話 絡み合うふたつの想い
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