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第2幕 女は怖い
第2章 胸が高鳴る恋④
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その取引が始まろうとした瞬間、女性のものと思われる金切り声がそのカフェに響き渡った。
「どういうことよっ?!!」
「ちょっと、お前……静かにしろ!」
その声に、侑斗とサルヴァトーレが、声のした一般客のエリアにパーティション越しに顔を覗かせる。
「遊びだったの?! 奥さんと別れるって言ったじゃない!」
「だから……こっちにも都合があるんだ。分かってくれ」
「いつになったら結婚してくれるのよ?! もう三年よ!」
「分かってる……静かにしてくれ。みんな見てる」
好奇と冷ややかな視線が、その声を上げた二十代後半と思わしき女性と一緒にいる四十代後半の中年男性に注がれる。
そして、この高校生達二人もちゃっかり一部始終見ていた。
「おお、紅茶とスコーンの肴がいるぞ。もっと近くで見ようぜ」
不敵に笑って修羅場に近づこうとする“俗物紳士”のサルヴァトーレに対し、やはりここは“お坊ちゃま精神”の常識人である侑斗がすかさず彼の背中越しに手を伸ばし、肩を引き止める。
「やめろ、見世物じゃない」
「皮肉を肴に紅茶とスコーンをたしなむのが俺達イギリス人なんだろ?
お前が先日の企業研修で俺に放った言葉だ。いい機会だ。
祖国の文化を教えてやる」
「誰が目の前の修羅場を肴に優雅なティータイム過ごすんだよ?
お前、本当にイギリス人か? 出身地詐称してるだろ」
「黙れ。久しぶりに胸が高鳴る。これが恋かもしれない」
「お前が黙れ。正気の沙汰じゃない」
イギリス人きっての野次馬と日本人きっての常識人が暫し、“修羅場”を目の前に、再び、異文化交流という名の静かな応酬を続けている。
すると、ついに、グラスの音を立てて席を立ったのは、若い女性の方だった。
「もういい! 二度と連絡してこないで!!」
涙を堪えながら叫ぶその姿は、怒りとも悲しみともつかない激情に包まれている。
ハンドバッグを肩にかけ、つかつかと出口に向かって歩き出すその後ろ姿を、店中の客が息を呑んで見守る中――
「おい……会計は……」
と、気まずそうに立ち上がる中年男。
「……払えよ、紳士だろ?」
ぼそりと嘲笑を込めてその様子を見物しながら、呟いたのはサルヴァトーレだった。
その声に、「どこが紳士だよ」と言葉にはしないが、侑斗も苦笑いで呆れて笑っている。
ただ、侑斗は、女性の方には確かに見覚えがあった。
(どこかで――、誰かに似ているような)
「どういうことよっ?!!」
「ちょっと、お前……静かにしろ!」
その声に、侑斗とサルヴァトーレが、声のした一般客のエリアにパーティション越しに顔を覗かせる。
「遊びだったの?! 奥さんと別れるって言ったじゃない!」
「だから……こっちにも都合があるんだ。分かってくれ」
「いつになったら結婚してくれるのよ?! もう三年よ!」
「分かってる……静かにしてくれ。みんな見てる」
好奇と冷ややかな視線が、その声を上げた二十代後半と思わしき女性と一緒にいる四十代後半の中年男性に注がれる。
そして、この高校生達二人もちゃっかり一部始終見ていた。
「おお、紅茶とスコーンの肴がいるぞ。もっと近くで見ようぜ」
不敵に笑って修羅場に近づこうとする“俗物紳士”のサルヴァトーレに対し、やはりここは“お坊ちゃま精神”の常識人である侑斗がすかさず彼の背中越しに手を伸ばし、肩を引き止める。
「やめろ、見世物じゃない」
「皮肉を肴に紅茶とスコーンをたしなむのが俺達イギリス人なんだろ?
お前が先日の企業研修で俺に放った言葉だ。いい機会だ。
祖国の文化を教えてやる」
「誰が目の前の修羅場を肴に優雅なティータイム過ごすんだよ?
お前、本当にイギリス人か? 出身地詐称してるだろ」
「黙れ。久しぶりに胸が高鳴る。これが恋かもしれない」
「お前が黙れ。正気の沙汰じゃない」
イギリス人きっての野次馬と日本人きっての常識人が暫し、“修羅場”を目の前に、再び、異文化交流という名の静かな応酬を続けている。
すると、ついに、グラスの音を立てて席を立ったのは、若い女性の方だった。
「もういい! 二度と連絡してこないで!!」
涙を堪えながら叫ぶその姿は、怒りとも悲しみともつかない激情に包まれている。
ハンドバッグを肩にかけ、つかつかと出口に向かって歩き出すその後ろ姿を、店中の客が息を呑んで見守る中――
「おい……会計は……」
と、気まずそうに立ち上がる中年男。
「……払えよ、紳士だろ?」
ぼそりと嘲笑を込めてその様子を見物しながら、呟いたのはサルヴァトーレだった。
その声に、「どこが紳士だよ」と言葉にはしないが、侑斗も苦笑いで呆れて笑っている。
ただ、侑斗は、女性の方には確かに見覚えがあった。
(どこかで――、誰かに似ているような)
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