Trade Secret R ～ やがて、あの約束へ ～

第2幕 女は怖い

第3章 女心を察しろ①

それから数日が経った、真夏の午後。

この日、授業が終わると、サルヴァトーレと侑斗ゆきと、そして侑斗ゆきとの中学時代からの友人である佐伯早馬さえきはやまと九条遥くじょうはるかの四人は、一緒に帰路に就いていた。

真夏の暑さの中、口を開いたのは、遥はるかだった。


「ふぅ……。毎日、暑いね」


「ホントに。エアコンくらい設置して欲しいよな。タダでさえお金持ってる学校のはずなのに。
伝統と称して、校舎もいつまでも古いままだし。一体、俺達の親が払ってる学費はどこに使われてるんだ。
侑斗ゆきと、何か知らないか？　お前、生徒会長だろ？」


「さあ、どうだろう。俺に降りてくる情報には、そんな話はないな」


侑斗ゆきとが歩きながら、返事をすると、遥はるかが話題を移す。


「そういや、うちの生徒会、抜本的に制度見直すんだっけ？」


「ああ、確か大企業や政治家のOBが名誉顧問になって、大人顔負けの経営や政治の実務を生徒に叩きこむ方針にするらしい」


「まあ、私達はしがない現場で働く医者志望だし、関係ないけどね。これから来る後輩達が大変そう」


「確かにな。侑斗ゆきとお前も命拾いしたな。冷房はないが、学校まで政まつりごとや経営のことなんて考えなくていいなら安いもんだろ」


早馬はやまの言葉に侑斗ゆきとが軽く笑って言った。


「ああ、確かに」


他の高校と同様に、蛍雪高校けいせつこうこうの生徒会も、校則の見直し、行事の運営補佐、部活動の予算調整、生徒間の秩序維持、さらにはPTAや教職員会議との連携などを担う。

だが、方針転換により、蛍雪けいせつはやがて「教育の先進モデル校」として、その名を広く知られることになる。

学費・設備投資・行事予算に関する模擬的な立案や決算報告、生徒数百人規模の合意形成の経験、さらには校内監査制度の導入など、まるで企業の経営そのものだ。

生徒会選挙にはマニフェスト制度が導入され、票集めや人脈作り、政策立案能力せいさくりつあんのうりょくが求められる。

名誉顧問として政治家や企業OBが関与し、実社会さながらの実践の場となっていく――

そんな構想が、水面下で進行していた。

上流階級出身の三人は、特にそれ以上、今の学校の体制や方針に不満は愚痴っても、それを特定の誰かや特定の何かに敢えて表立って何か言うことはなかった。

だが、そのどこか上品に話を収おさめようとする空気を、サルヴァトーレがあっさりと壊す。