Trade Secret R ~ やがて、あの約束へ ~

あたか

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第2幕 女は怖い

第7章 ストーカーという純粋さ③

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「こんな女、遊びに決まってんだろ! 
男にほいほい付いてきて、色目使ってわがまま放題。若くなきゃ、価値もねぇよ。
使い捨ての雑巾同様だ!!」

その言葉は、ナイフよりも鋭く尾埜おのの胸をえぐった。

空気が凍る。

時間が止まったかのようだった。


「酷い……。私のことそんなふうに……思ってんだ」


彼女の声はまるで霧の中の迷子のように、行き場なく漂っていた。

信じていた“運命”は、あまりにもあっけなく踏みにじられた。

すると――

ガラッ、と控室の扉が無造作に開け放たれた。


「これは……一体」


「あなた、何してるの?」


現れたのは、校長、そして――議員と名乗った男の正妻とその代理人弁護士・真壁まかべだった。

静寂と緊張が交差する。

視線が交錯する。

崩壊の直前の空気は、どこか静かで美しかった。


「いや、その……」


狼狽する男が何かを言い訳しようとした、まさにその時だった。


「うああぁぁぁぁぁぁっぁぁん」


泣き叫ぶ声とともに、尾埜おのは突如として窓の方へ走り出す。

泣きじゃくる姿は、哀れで、悲しくて――痛々しかった。

彼女の運命という名の幻想は、こうして粉々に砕け散った。


そして、部屋に残った妻が弁護士に視線を向け、静かに言い放つ。


真壁先生まかべせんせい、気が変わりました。慰謝料は夫にだけ請求いたします。
あの女性に請求しても無い袖は振れません。回収費用の無駄遣いです。
学校に請求しても法的には勝ち目はないでしょうから。取れるところから取る方がいいでしょう?」


その言葉は、まるで裁きの鐘だった。


「賢明な奥様が依頼者で良かったです。
僭越せんえつながら、引き続き代理人としてご主人への慰謝料の請求手続、進めて参ります」


「それは頼もしいわ」


静かに笑みを交わす妻と弁護士。

その背後で、かつて“国を動かしている”と豪語した男は――床に崩れ落ち、


「……ゆ、許してくれ。どうかしてたんだ……」


もはや誰も、その声に耳を傾ける者はいない。

サルヴァトーレと侑斗ゆきとは、それを見届けていた。

その光景を見て、侑斗ゆきとは隣の相棒の名前を呼ぶ。


「サルヴァ」


「ああ」


視線が交わった瞬間、二人は何も言わずその場を後にした。

向かう先は――手にナイフを握ったまま、崩れゆく精神を抱えた尾埜おのという女。

この物語は、まだ終わっていない。
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