Trade Secret R ~ やがて、あの約束へ ~

あたか

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第2幕 女は怖い

第3章 女心を察しろ②

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「学費ね……。帳簿上は“教育投資”だが、実態は“理事たちのランチとゴルフ”。
それが“品位ある教育機関”の中身ってわけだ」


「え?」


「そうなのか?」


一瞬、空気が固まった。

遥と早馬が足を止め、無意識にサルヴァトーレの方を見やる。

――冗談にしては、目が笑っていなかった。


「特に――あの理事長の仮面かぶった狸ジジイ。
一見、温厚で“人格者”ぶってるが……笑わせるな。
偽善者ほど、そういう顔をしてるもんだ。あの顔から漂ってくるのは、俗世にまみれた特有の臭いだ。
アイツなら、絶対やる。証拠なんてないが――断言できる。
何なら賭けてもいい」


そうして、顔だけ振り返って三人に皮肉を込めてそう言うと、彼らに背中を向けて歩き出した。

はるかは目を見開いたまま言葉を失い、早馬はやまは深いため息をついた。


「……」


「……なあ、侑斗ゆきと。アイツ、何者だ? 
あんなふうに、迷いなく毒と皮肉を垂れ流せる奴、この蛍雪けいせつにはいなかっただろ。
俺には無理だ。正直、仲良くなれる気がしない。いい加減、たらし込む相手は選んでくれよ」


サルヴァトーレは、爆弾をどこに落とすかなんて考えもしない。

火の粉が飛んできて、自分まで“同類”に見られたら――たまったもんじゃない。

早馬はやまの中で、彼はすでに“想定外のリスク要因”に分類されつつあった。


「そう言うな、早馬はやま。あれでも根はいいやつだぞ」


「俺は、お前ほど心は広くないんだ」


「ふふ、すぐに彼の良さが分かるよ」


ただし、侑斗ゆきとだけはサルヴァトーレの魅力にいち早く気付いていた。

その笑顔は、恋に落ちた少女のように無邪気で――見ている早馬はやまが頭を抱えるほどだった。


「あれ、あの人――」


「どうしたんだ、はるか?」


はるかの何かを見つけたような声に、早馬はやまが即反応した。


「あの人、雰囲気違うけど、尾埜先生おのせんせいじゃない?」


「ああ、本当だ。でも、なんだろ……なんか、影のありそうな感じになったな」


「うん……あの様子だと話しかけにくいね」


彼らの視線の先には、目の焦点が定まらず、虚空こくうを見つめるように歩道を彷徨っている二十代後半くらいの女性がいた。

歩き方もおぼつかない。

まるで、自分の世界に閉じこもっているかのようで、声をかけることをためらわせる空気だった。

そして、その後ろから侑斗ゆきとも観察していた。

財閥家御用達ざいばつごようたしのティーサロンで、修羅場を繰り広げていた登場人物は、どこかで見覚えのあったのだ。


「そうか! あの場にいたのは尾埜先生おのせんせいだったのか」


「お前達の顔見知りか?」


サルヴァトーレは知らない。

彼は高等部から、特待生として蛍雪高校に入学してきたからだ。


「ああ、俺達が中等部にいた頃、蛍雪けいせつに教育実習に来ていた尾埜先生おのせんせいだ」


「ほう、あの修羅場のヒロインか」


「修羅場?」


サルヴァトーレの声に、はるかが反応するが、侑斗ゆきとが努めて笑って、それ以上の言葉を塞ぐ。

まるで、「サルヴァ、お前は余計なことを言うな」と言いたげな態度だ。


「何でもないよ、はるか


「……あっそ!」


そう言ってはるかは顔を背ける。

どこか気まずさを感じたのか、あるいは、自分だけ蚊帳の外にされたことが気に食わなかったのか――

彼女の足取りがわずかに速くなる。

するとサルヴァトーレが侑斗ゆきとに近づき、何かを言おうとする。
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