Trade Secret R ～ やがて、あの約束へ ～

第4幕 無駄なアナログ感は正確に伝わるだろう

第2章 財閥家のツアーと冬はこれ②

冬の昼下がり――。

橘家たちばなけの東ひがしの対たいのさらに奥、寝殿造しんでんづくりの離れには、しんと冷えた空気と、どこか張りつめた静けさが漂っていた。

畳の上には白い紙が積まれ、窓越しには雪の気配。

千年の時を感じさせる屋敷の奥で、友人同士の手には、紙とハサミ。

古いにしえの人達もこうやって準備していたのだろうか。

伝統行事の影に、少しだけ非日常の高揚感が混ざる午後だった。


「サルヴァ、どうだ？　出来そうか？」


侑斗ゆきとが台所からコーヒーやらジュースなど飲み物を取ってきて、部屋に入ると、彼に話しかけた。


「ああ、こんなものだろ」


サルヴァトーレは自信たっぷりにドヤ顔で作った形代かたしろを放り投げた。


「なんだよ、これ」


「上手いけど、形が絶妙に人間ぽくてリアルね」


早馬と遥がまじまじとサルヴァトーレが作った形代を見て感想を述べる。

予想外の反応に、サルヴァトーレは表情こそ冷静だが、内心はムッとしていた。

賞賛しょうさんされると思ったらしい。


「お前達はどうなんだ？」


「見本通り作ったわよ、ほら」


「俺も」


「……日本の“正解”は、つくづく型にはまってる。お前達の感性にはそもそも期待はしていない」


所詮、伝統行事だ。

異国のアーティスト性や創造性は求められていないらしい。