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ディングレーの家庭の事情
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ローフィスはディングレーが気を利かせてくれて、シェイルをグーデンから庇い、食堂から出て行く姿を、ほっとして見た。
オーガスタスがその様子を見て、声を落として囁く。
「で、シェイルとはあの後話したのか?」
ローフィスが、振り向く。
その真顔で、オーガスタスは察して呟く。
「…気まずい、まんまか」
ローフィスは顔を背け、独り言のように言った。
「…もうディングレーに世話になる必要も無いから…今夜俺だけ自室に戻っちゃ…マズいと思うか?」
オーガスタスは肩すくめて言った。
「シェイルに聞けば?」
ローフィスはそう言ったオーガスタスの顔をじっ、と見、その後大きなため息を吐き出した。
午後の三年の講義は乗馬で。
オーガスタスはローフィスに併走し、後ろをぶっちぎりがんがんぶっ飛ばすローフィスに付き合った。
講師すら置き去りにし、目的地の草地に着くと、ローフィスは馬から飛び降り…馬が水を飲める川縁に繋ぐと、側の草むらに仰向けで倒れ込む。
オーガスタスも隣に横たわると、一緒に斜陽の…赤く染まる雲を眺めた。
「で、この先ディングレーにシェイルの護衛を一任する?」
ローフィスは大きなため息を吐いて、無言。
だからオーガスタスは代わりに言った。
「グーデンのヤツ、もっとゆっくりしてくりゃいいのに?」
ローフィスは、頷く。
オーガスタスは更に言った。
「あいつに渡すぐらいなら、先に俺が頂こう?」
ローフィスは即答する。
「それは無い」
「だがシェイルはそうすればうんと、安心する。
例えこの先また、グーデンに拉致られようが」
「それは阻止する」
オーガスタスは…頷いて問う。
「この先、ずっと?」
ローフィスはまた、ため息吐くと、気の進まない様子で呻く。
「ディアヴォロスに頼もうと思ったのに…そっちが姿をさっさと消して、グーデンの糞が姿を見せる」
「最悪だな?」
そう聞くと、ローフィスは大きく、頷いた。
一年は歴史の講義で、教室内の殆どが上の空。
なので講師はため息と共に、『教練』がいつ設立されたのか。
剣の練習試合はいつから開催されたのか。
を次々指しては生徒に答えさせていた。
「では下級ながら勝ち上がった例は、どれだけあるか?
シュルツ」
「…ええと…最初がギルムダーゼンの大公子息で、二年ながら三年を下した。
それから…「左の王家」の伝説のデルドムンドが…一年ながら最上級生を打ち負かした。
デルドムンドはディアヴォロス同様、光竜をその身に降ろした者と言われている…。
ええと後は…シュテインザインの大公子息が三年で四年を下した。
ええと…」
「では近年では?」
シュルツはぱっ、と顔を上げて即答した。
「一年のディアヴォロスが最上級生「右の王家」アルファロイスを下した!」
けれどその時、他の生徒の声が飛ぶ。
「違うだろう?
シェンダー・ラーデン大公子息ローランデが、二年、三年を下した!」
全員が、どっ!と湧く。
だが講師は、続けて尋ねる。
「勝者の特徴は?
フィンス」
がたん。
フィンスは立ち上がると、答え始める。
「「左の王家」の、光竜降ろす者か、「右の王家」の者。
最上級でディアヴォロスに負けたアルファロイスは、一年の時最上級生を下しています。
その後も勝ち続けてる。ディアヴォロスに負ける、までは。
…もしくは、地方大公子息。
「左の王家」の者は光竜降ろす者と、ほぼ限定されているけれど、「右の王家」の者と地方大公子息は、時に飛び抜けて強い者が存在する」
「模範解答だ。
飛び抜けて強い者は二通りある。
天性の才能があり、剣を握るために産まれて来た者。
これは主に、「右の王家」の者を指す。
時に地方大公子息にもあてはまる。
が、「左の王家」の光竜降ろす者、また地方大公子息は、必要によって普通の人間が、音を上げる程の鍛錬を行い、その絶対的な強さを不動の物とする。
だが両者に共通するのは、普通の騎士らとは、剣を握ってる時間が圧倒的に長い点だ。
…ただ握ってりゃいいって事じゃ無い。
その点は、分かってるな?
ウッテンベルク!」
指されたウッテンベルクは項垂れる。
「俺今夜から、剣握って寝ようとか、思ってた」
どっ!
一斉に、笑いが湧いた。
鐘が鳴ると、講師は宿題を出し、皆本を持って講堂の席を立つ。
入り口にディングレーが姿を現し、シェイルは俯く。
また…グーデン一味に狙われる身となった事を、痛感して。
ディングレーは項垂れて目前にやって来る、シェイルを見て尋ねる。
「…講師に指されてなんか、とんまな返事して、みんなに笑われたのか?」
一緒に来たローランデとヤッケルが、そう問うディングレーを呆れて見上げる。
結局ヤッケルが、王族相手にも怖じずに、言って退けた。
「当然グーデンの生っ白いニヤケ顔見て、気分を害してる。
俺の兄貴があいつみたいなコトしたら、俺だったら殴りかかるけど」
ディングレーはそれを聞いて、苦しげに顔を歪めた。
そして囁く。
「…父と母はどっちも王族だが…母の実家の方が格上で、グーデンは母のお気に入りだ」
「…だから…殴れない?」
ディングレーは、頷いた。
一行はディングレーの私室に向かう。
歩きながらもヤッケルは、尚も聞く。
「…で、お父上はよく、ロクデナシを可愛がる奥さんと離婚しないんだな?」
フィンスとローランデは、まだそう家庭環境を尋ねるヤッケルに、ハラハラしながら後ろを歩き、見守っていた。
が、ディングレーは俯いたまま小声で答える。
「とっくに別居してるから。
離婚も同然だ。
母は、父や俺のようなゴツい男は苦手で、グーデンのような優男が好みだから」
「…それでなんで、結婚したの?」
「だよな。
俺も親父にそう聞いた。
威厳の塊で凄く近寄り難いし話しかけにくいが。
どーしても知りたくて、餓鬼の頃」
「…ディングレーは、お父さん似なんだな?」
「そうか?
俺は話しやすいし近寄り難くないぞ?」
背後でローランデとフィンスは顔を下げ、こっそり囁いた。
「ディングレーって…」
ローランデが言うと、フィンスも頷く。
「…自分のこと、分かってませんよね」
「それで?
お父さん…なんて言ったの?」
シェイルが我慢出来ずに話を促す。
「政略結婚で、親父はそれでもお袋が、自分に惚れるとうぬぼれてた自分が馬鹿だったと。
それで俺に…例え政略結婚だろうが、相手が自分に惚れてた場合だけ、結婚しろと」
「……………………………………」
シェイル、フィンス、ローランデ。
更にさっきまで喋ってた、ヤッケルまで黙り込むので、ディングレーはつい四人を、凝視した。
「…親父なりの、精一杯の忠告だと思うが?」
「親父さんってディングレーと顔とか、そっくり?」
シェイルに聞かれて、ディングレーは頷く。
「親戚の婆さんはそう言うな。
俺、将来あんなゴツくなるのかな?」
聞かれても、ディングレーの父親を見た事無い皆は、頷くことも否定も出来ない。
「…お父さんとは…あんまり一緒じゃ無いの?」
シェイルに問われ、ディングレーは頷く。
「高等法院にいるから。
仕事で出ずっぱり。
一度俺、親父の妹に当たる叔母さんから…そこら中の親戚に、聞いて回った。
お袋が嫌で帰って来ないんじゃ無いのか?って」
「…そしたら?」
シェイルに聞かれ、ディングレーは肩すくめる。
「違うらしい。
法院内でも激務の部署で、東の聖地の監督官もしてるから。
東の聖地って西の聖地と違って、光の王の従者の末裔が住んでるだろう?
聖地の結界内だと能力使いたい放題な上、荒っぽい能力者ばっかで、しょっ中能力使っての喧嘩が絶えないから、毎度大騒ぎ起こして大変なんだそうだ。
空間から火出して、喧嘩相手は氷出して。
そこらが凍り付いたり、大火事になったりするらしい…。
将来俺は絶対そんな奴らを監督する仕事は嫌だ」
「…ここの、三年みたい?」
ぼそっ…とシェイルが尋ねると、ディングレーは声も無く笑った。
「かもな!」
フィンスとローランデは顔を見合わせ合い、ヤッケルも振り向いて二人に加わり、三人一緒に呆れ果てた。
オーガスタスがその様子を見て、声を落として囁く。
「で、シェイルとはあの後話したのか?」
ローフィスが、振り向く。
その真顔で、オーガスタスは察して呟く。
「…気まずい、まんまか」
ローフィスは顔を背け、独り言のように言った。
「…もうディングレーに世話になる必要も無いから…今夜俺だけ自室に戻っちゃ…マズいと思うか?」
オーガスタスは肩すくめて言った。
「シェイルに聞けば?」
ローフィスはそう言ったオーガスタスの顔をじっ、と見、その後大きなため息を吐き出した。
午後の三年の講義は乗馬で。
オーガスタスはローフィスに併走し、後ろをぶっちぎりがんがんぶっ飛ばすローフィスに付き合った。
講師すら置き去りにし、目的地の草地に着くと、ローフィスは馬から飛び降り…馬が水を飲める川縁に繋ぐと、側の草むらに仰向けで倒れ込む。
オーガスタスも隣に横たわると、一緒に斜陽の…赤く染まる雲を眺めた。
「で、この先ディングレーにシェイルの護衛を一任する?」
ローフィスは大きなため息を吐いて、無言。
だからオーガスタスは代わりに言った。
「グーデンのヤツ、もっとゆっくりしてくりゃいいのに?」
ローフィスは、頷く。
オーガスタスは更に言った。
「あいつに渡すぐらいなら、先に俺が頂こう?」
ローフィスは即答する。
「それは無い」
「だがシェイルはそうすればうんと、安心する。
例えこの先また、グーデンに拉致られようが」
「それは阻止する」
オーガスタスは…頷いて問う。
「この先、ずっと?」
ローフィスはまた、ため息吐くと、気の進まない様子で呻く。
「ディアヴォロスに頼もうと思ったのに…そっちが姿をさっさと消して、グーデンの糞が姿を見せる」
「最悪だな?」
そう聞くと、ローフィスは大きく、頷いた。
一年は歴史の講義で、教室内の殆どが上の空。
なので講師はため息と共に、『教練』がいつ設立されたのか。
剣の練習試合はいつから開催されたのか。
を次々指しては生徒に答えさせていた。
「では下級ながら勝ち上がった例は、どれだけあるか?
シュルツ」
「…ええと…最初がギルムダーゼンの大公子息で、二年ながら三年を下した。
それから…「左の王家」の伝説のデルドムンドが…一年ながら最上級生を打ち負かした。
デルドムンドはディアヴォロス同様、光竜をその身に降ろした者と言われている…。
ええと後は…シュテインザインの大公子息が三年で四年を下した。
ええと…」
「では近年では?」
シュルツはぱっ、と顔を上げて即答した。
「一年のディアヴォロスが最上級生「右の王家」アルファロイスを下した!」
けれどその時、他の生徒の声が飛ぶ。
「違うだろう?
シェンダー・ラーデン大公子息ローランデが、二年、三年を下した!」
全員が、どっ!と湧く。
だが講師は、続けて尋ねる。
「勝者の特徴は?
フィンス」
がたん。
フィンスは立ち上がると、答え始める。
「「左の王家」の、光竜降ろす者か、「右の王家」の者。
最上級でディアヴォロスに負けたアルファロイスは、一年の時最上級生を下しています。
その後も勝ち続けてる。ディアヴォロスに負ける、までは。
…もしくは、地方大公子息。
「左の王家」の者は光竜降ろす者と、ほぼ限定されているけれど、「右の王家」の者と地方大公子息は、時に飛び抜けて強い者が存在する」
「模範解答だ。
飛び抜けて強い者は二通りある。
天性の才能があり、剣を握るために産まれて来た者。
これは主に、「右の王家」の者を指す。
時に地方大公子息にもあてはまる。
が、「左の王家」の光竜降ろす者、また地方大公子息は、必要によって普通の人間が、音を上げる程の鍛錬を行い、その絶対的な強さを不動の物とする。
だが両者に共通するのは、普通の騎士らとは、剣を握ってる時間が圧倒的に長い点だ。
…ただ握ってりゃいいって事じゃ無い。
その点は、分かってるな?
ウッテンベルク!」
指されたウッテンベルクは項垂れる。
「俺今夜から、剣握って寝ようとか、思ってた」
どっ!
一斉に、笑いが湧いた。
鐘が鳴ると、講師は宿題を出し、皆本を持って講堂の席を立つ。
入り口にディングレーが姿を現し、シェイルは俯く。
また…グーデン一味に狙われる身となった事を、痛感して。
ディングレーは項垂れて目前にやって来る、シェイルを見て尋ねる。
「…講師に指されてなんか、とんまな返事して、みんなに笑われたのか?」
一緒に来たローランデとヤッケルが、そう問うディングレーを呆れて見上げる。
結局ヤッケルが、王族相手にも怖じずに、言って退けた。
「当然グーデンの生っ白いニヤケ顔見て、気分を害してる。
俺の兄貴があいつみたいなコトしたら、俺だったら殴りかかるけど」
ディングレーはそれを聞いて、苦しげに顔を歪めた。
そして囁く。
「…父と母はどっちも王族だが…母の実家の方が格上で、グーデンは母のお気に入りだ」
「…だから…殴れない?」
ディングレーは、頷いた。
一行はディングレーの私室に向かう。
歩きながらもヤッケルは、尚も聞く。
「…で、お父上はよく、ロクデナシを可愛がる奥さんと離婚しないんだな?」
フィンスとローランデは、まだそう家庭環境を尋ねるヤッケルに、ハラハラしながら後ろを歩き、見守っていた。
が、ディングレーは俯いたまま小声で答える。
「とっくに別居してるから。
離婚も同然だ。
母は、父や俺のようなゴツい男は苦手で、グーデンのような優男が好みだから」
「…それでなんで、結婚したの?」
「だよな。
俺も親父にそう聞いた。
威厳の塊で凄く近寄り難いし話しかけにくいが。
どーしても知りたくて、餓鬼の頃」
「…ディングレーは、お父さん似なんだな?」
「そうか?
俺は話しやすいし近寄り難くないぞ?」
背後でローランデとフィンスは顔を下げ、こっそり囁いた。
「ディングレーって…」
ローランデが言うと、フィンスも頷く。
「…自分のこと、分かってませんよね」
「それで?
お父さん…なんて言ったの?」
シェイルが我慢出来ずに話を促す。
「政略結婚で、親父はそれでもお袋が、自分に惚れるとうぬぼれてた自分が馬鹿だったと。
それで俺に…例え政略結婚だろうが、相手が自分に惚れてた場合だけ、結婚しろと」
「……………………………………」
シェイル、フィンス、ローランデ。
更にさっきまで喋ってた、ヤッケルまで黙り込むので、ディングレーはつい四人を、凝視した。
「…親父なりの、精一杯の忠告だと思うが?」
「親父さんってディングレーと顔とか、そっくり?」
シェイルに聞かれて、ディングレーは頷く。
「親戚の婆さんはそう言うな。
俺、将来あんなゴツくなるのかな?」
聞かれても、ディングレーの父親を見た事無い皆は、頷くことも否定も出来ない。
「…お父さんとは…あんまり一緒じゃ無いの?」
シェイルに問われ、ディングレーは頷く。
「高等法院にいるから。
仕事で出ずっぱり。
一度俺、親父の妹に当たる叔母さんから…そこら中の親戚に、聞いて回った。
お袋が嫌で帰って来ないんじゃ無いのか?って」
「…そしたら?」
シェイルに聞かれ、ディングレーは肩すくめる。
「違うらしい。
法院内でも激務の部署で、東の聖地の監督官もしてるから。
東の聖地って西の聖地と違って、光の王の従者の末裔が住んでるだろう?
聖地の結界内だと能力使いたい放題な上、荒っぽい能力者ばっかで、しょっ中能力使っての喧嘩が絶えないから、毎度大騒ぎ起こして大変なんだそうだ。
空間から火出して、喧嘩相手は氷出して。
そこらが凍り付いたり、大火事になったりするらしい…。
将来俺は絶対そんな奴らを監督する仕事は嫌だ」
「…ここの、三年みたい?」
ぼそっ…とシェイルが尋ねると、ディングレーは声も無く笑った。
「かもな!」
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