若き騎士達の危険な日常

あーす。

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感覚の共有

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 湯から上がるローフィスは、背後に振り向く。

シェイルは熱さのためか、頬をリンゴ色に染めて、潤んだ瞳で。
けれど嬉しそうな微笑を浮かべてた。

ローフィスは改めて、感じる。

幼い頃から、シェイルをいつも全身で抱き止めてきた。

だからシェイルは大人の…愛を分け合う行為でも、それを求めてる…。

全身で…抱き止めて欲しいと。
ひな鳥のような、邪気の無い透明な瞳で。

見つめて来る…。

ローフィスは内心吐息を吐いて、シェイルの手を取り、繋ぐ。

シェイルはローフィスに手を繋がれて、嬉しそうに湯から上がり、黄金彫刻の棚の前に来る。

ローフィスから布を手渡されてそれで体を拭き、次にガウンを放られて、受け取って身を包む。

ガウンを着たローフィスが浴室の扉を開けるから…シェイルは下げたローフィスの手に、自分の手を滑り込ませて、繋ぐ。

ローフィスに、手を握り返され、シェイルは至福の感情を味わった。

けれど浴室を出て、寝台に顔から突っ伏すと…くら…と目が眩む。

ローフィスは…シェイルが、のぼせたのかな?
と、寝台から足をはみ出したまま、布団に顔を突っ伏してるシェイルを伺う。

「…シェイル?」
「…ん…」

けれどそれが最後。
次にシェイルは、すーすーと…寝息を立てている。

「…………………………………」

ローフィスが、目を見開き固まってると。

脳裏にくすくすくす…と笑い声が聞こえ、次にワーキュラスの荘厳な声音が響いた。

“疲労の限界で、彼は休んでる。
『光の里』の、光の影響だ"

ローフィスは暫くナリを潜めてた…くすくす笑いの神聖騎士と、ワーキュラスの存在を思い返し、頭の中で呟く。

“もしかしてずっと…見てた?”

“感じていた。
と言う方が正しい。
大丈夫。
私からは君たちは、色の塊にしか見えてなかったから”

神聖騎士が、補足するように囁く。

“ワーキュラス殿は、生体エネルギーとして君たちを感知してるから。
色で見えてる”

その時、神聖騎士から…自分の勃ってた時。
ぼやけた自分の姿の、性器の部分だけが真っ赤に色が被さって見えて、ローフィスは黙り込む。

神聖騎士の親切で、ワーキュラスがどう見えてるのか。
をきっと、視覚的に教えてくれたんだろう。

が…。

“つまり、体温が上がってる部分は、赤に見えると言う事か?”

神聖騎士とワーキュラスが頷いた気がして、ローフィスは内心感じた。

“そこ赤いと、もっと恥ずかしく感じるんだけどな…”

神聖騎士とワーキュラスは互いを見つめ、神聖騎士が先に、ぼそっと囁く。

“失礼。
我々は互いの体験を感覚的に共有することは、当たり前の事でプライバシーは殆ど無く、常に互いの体験を、感じ合ってるが…。

君ら人間は、感覚の共有は。
肌をぴったり合わせたりした時などの、限定的な、直接的接触の時にしか、起こらないんだったな?”

“…思い出してくれて、ありがとう…”

ワーキュラスが、笑ってるように感じた。

“我々は常に親しい者とは、感覚の共有を自然と行うが。
君ら人間は互いが隔絶されているから…。
一度、共有出来る瞬間が訪れると。
その感動は我々の比ではなく、とても美しい”

その時…自分とシェイルが互いを分けあった時。

ワーキュラスの目からは、美しいパールがかった虹色の輝きに彩られ…。
ローフィス自身も、その色の醸し出す光景が、とても美しいと。

認めざるを得ない程、輝いてた。

“こんな風に…見えてるのか?”

ローフィスは不思議に思って、そう尋ねる。

ワーキュラスは頷く。

“滅多に無い…美しい光景だ”

ローフィスはその時…シェイルと過ごす一時が、泣きたいほど暖かく、懐かしく…切なくてそして、幸せだと、改めて感じ、目が潤んだ。

神聖騎士がその時、囁いた。

“我々ですら…互いを思う時、こんな感情が湧き出でる事は、ほぼ無い”

後を追うように、ワーキュラスの声も響く。

“至上の宝石のように綺麗だから…。
その…。
覗かれて恥ずかしいと…そう思う必要は、無いと思うんだが…。

けれど人間の感情は我々とは違っているから…。

…もし、恥ずかしいと感じるなら、失礼した”

ローフィスは神に“失礼した”と言われ、くすっ…と笑った。

けれどつい、好奇心で尋ねる。

“ディアヴォロスの時も、いっつも覗いてるのか?”

ワーキュラスは躊躇い、囁く。

“君の言わんとする『覗き』の意味とは、まるで違う。
感覚の共有で、いつも見えてる。
とても強く意識してそれを見るか。
感覚を遠ざけて、ぼやけて見るか。
の違いだ”

神聖騎士も、頷く。
“ワーキュラス殿は、どんな物もディアヴォロスと繋がってる以上、感覚的に『見えてしまう』から。
君の言う、下世話で好奇心丸出しの、人間の行う『覗き』とは、まるで意味が違うと。
そう、おっしゃりたいんだ”

ローフィスは暫し沈黙し、頭の中で囁き返した。

“下世話ってか、『下品』って。
言いたかったんだろう?本当は。
けど人間で言う『覗き』ってのは、大抵が好奇心丸出しな感情の時、行うもんで…。

悪かったな。
下賤げせんな人間で”

ちょいフテ気味で、でも諦め気味で、ローフィスがそう呟くと。
神聖騎士はやっぱり、くすくす笑った。

“その開き直りは、とても可愛い”

ワーキュラスは戸惑った後、囁いた。

“新鮮な感想だ。
覚えておくよ”

けれどそこでローフィスはふと。
気づいてしまった。

“「左の王家」の、ディングレーですらワーキュラスとは話せない。
と言ってるのに…何で俺は、話せてるのかな?

…神聖騎士のお陰?”

その時、ワーキュラスが優しい声音で説明してくれた。

“長くシェイルを狙う、『闇の第二』の“気”と無意識に戦っていた君だ。
君の心の中に、無意識だろうが“目に見えない存在”が強く、刻み込まれてる。

そういう目に見えない物を、強く認識してるから…私とも回路が通じやすい”

“ディングレーは…してない…と?”

神聖騎士が囁いた。

“例えば灰色狼を見た事の無い者は、一度相まみえると、ただただ、びっくりするだけ。
戦い方は、まるで分からない。
けれど戦い慣れた者は、それが現れただけで。
どう戦えば良いか、知り尽くしてる。

そんな、違いだ”

“ディングレーは…『影』だとか『光の民』との、面識が薄い…?”

神聖騎士は頷いた。

“幾ら「左の王家」だろうが…。
『影』や『光の民』の専門家である、神聖神殿隊付き連隊騎士の方が。
余程『影』や『光の民』が分かってる。
ただ、王家の者は接触が無くても。
また、学ばなくとも潜在的に血筋に、『光の民』や『影』を感知する能力が、他の人間よりとても強い”

ローフィスは、顔を揺らした。

“それが…王家の人間…”

ワーキュラスが囁く。

“「右の王家」も「左の王家」も…始祖は、アースルーリンドに降り立った『光の民』と交わった混血。
遠い血だが、代々『光の民』の血を濃く継ぐ者が、中心となって栄えてきた一族だから”

ローフィスはようやく…それで、納得した。

王家の者が、感覚的に普通の人間より、優れてると感じる理由が。

言葉では言えない。
だが…こちらの普通の感覚を軽く飛び越えて…別次元の感覚を、見せつけてくる。

『敵わない』

そう…普通の人間に感じさせ、自然にひれ伏させる…。

改めて…ローフィスは問うてみた。

“王家の人間は、『光の民』の近い?”

神聖騎士も、ワーキュラスですら、頷いた。

けれどワーキュラスはこう、フォローしてくれた。

“だから君のように、王家の感覚と離れ、とても人間的な感覚の者と話せるのは、とても楽しい”

ローフィスは暗に
“君はとっても、普通の人間”

と遠回しに言われ、がっくり、首を垂れた。


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