メタモるフォーゼを君に捧げる

ゆうきぼし/優輝星

文字の大きさ
3 / 7

3 利害一致

しおりを挟む
「魁人と優也さんは仲が良いんですね」
「誰が!」
「良くない!」

「お前らいい加減にしろ。オレが話すよ」
 光士郎は落ち着いた雰囲気のある人でくっきりとした二重に高い鼻。がっしりとした筋肉質な体形で、どこから見てもアルファらしい容姿だった。若くしてA I 関連企業のCEOだと言う。いかにもお金持ちといった感じだ。しゃべり口調に少しインパクトがあると思ったら帰国子女らしい。


「莉生ちゃん、魁人の親御さんから接触があったんじゃないのか?」
「……それは」
「まさか莉生が急に就職すると言い出したのもそのせいなのか?」
 魁人から卒業後は助手になって欲しいと言われていたのを莉生は断っていた。


「どうせおばさんかおじさんの手先に魁人には婚約者がいるって言われたんじゃない?」
「それで優也の名前を聞いて青くなったのか?」
「…………」
 莉生はありのままにひと月前の出来事を話した。


「はは。魁人の家がやりそうなことだね」
 優也が髪をかきあげながらめんどくさそうに呟いた。

「莉生は僕の気持ちを疑ってたのか?」
「疑うとかじゃなくて! ただ、俺はベータだから先輩といても何の役にも立たないんだ」
「それは違う! 僕は本気なんだ。莉生がいいんだ」

「先輩。本当に? 俺はセフレじゃないの?」
「な? セフレだって? 誰がそんなこと言ったんだ! 僕らは恋人同士だろ? いや、そんなふうに思わせてしまった僕が悪いのか。はっきり口に出して言わなければいけなかったんだな」

「先輩ごめん」
「莉生。好きだ。ずっと一緒にいよう」
「でも、先輩には優也さんがいるじゃないか。嘘はもうつかないで」
「嘘じゃない! 僕には莉生だけなんだ」

「あ~。やめてよ。ボクには光士郎がいるもの。親が勝手に決めた婚約話だよ」
「オレも優也に関してはいくら魁人でも譲れないな」

「ほら。二人もこう言ってるだろ? だいたい許婚とか親が決めた婚約者とか考え方が古すぎるんだよ。僕の人生は僕のものだ。例え親でも勝手なことはさせない」
「先輩。本当に? 信じてもいいの? 俺。先輩が好きだ! でも。ううっ。俺はベータだし。先輩と釣り合わないってずっと思ってて」

「何言ってるんだ! 僕が好きなのは莉生だけだ」
「先輩っ。先輩っ。俺。先輩が大好きだ! 本当はずっと一緒に居たいんだ」

「……やっと言ってくれたな。その言葉が欲しかったんだ」

「ふふふ。莉生ちゃんはイイ子だね。容姿も可愛いし。でも中身は熱血タイプ」
「そうだ。そのギャップがいいだろう?」
「なにさ。今の魁人の顔! ムカつく!」

「莉生。就職するなら僕の元に永久就職してよ」

「うっわ! おっさんくさいセリフ。莉生ちゃん騙されちゃダメだよ。タダ働きさせられちゃうよ?」
「うんいいよ。俺、先輩のためなら一生懸命働くよ。うううっ」
 ぐずぐず泣く莉生の頭を魁人が優しく撫でる。

「いやいや、僕は莉生を働かせたいんじゃなくて本当は手元に置いて囲ってしまいたいくらいなんだよ」

「その気持ちはオレにもわかるな。オレも優也を独占したいからな」
「光士郎。ボクはどこにも逃げないよ」

「優也。心配なのはお前の周辺だ。最近魁人の親も絡んできてるしな」
「僕の親が? それはどういうことだ?」

「優也の親はアルファの種が欲しい。魁人の親はオメガが欲しい。双方の利害関係が一致してるからな」
「そんなの前からじゃないか? なんで今さら?」


「ボクが光士郎と結婚するって言いだしたからじゃない?」

「はあ? お前、ちゃんと親を説得したのか? またお前が暴走したんじゃないのか?」

「うっ。うるさいな! 光士郎の事を認めないボクの親が悪いんだ」
「親子喧嘩だけならいいが、お互いきつねと狸の親同士だからな。何かを企んでる気がする。その証拠に最近優也に尾行がついてるんだ。今日は途中で巻いてきたが、ここ数日続いている。昨日は部屋の前までついて来られたらしく、今はオレの元で匿ってる」

「それは怖いですね」

「我が親ながら否定はできない。莉生には言ってなかったが僕の親、いや祖父はアルファの血を増やすことに執拗でね。そのためには手段を選ばないところがある。両親は力のある祖父に頭があがらないのさ。これを言うと莉生が嫌がって僕から逃げてしまうんじゃないかと思って言えなかったんだ」

「そんなことありません。もう逃げるのはやめました!」
 莉生が魁人の手を握り絞めると魁人がまぶしいものを見るように莉生を見つめる。

「莉生っ。ありがとう……」


「とにかく。魁人とつきあってる莉生くんにも接触してきてるということは気を付けた方が良い。さすがにオレには手を出せないみたいだがな」
「ふぅ。光士郎のとこの親は僕のところより格上だからな。僕の親もさすがに手は出せないとみえるな」
 光士郎の実家はアルファの名門のかなり裕福な家らしい。身なりも隙なくダークスーツを着こなしている。ただ、少し光士郎は影が薄い気がした。魁人のような目を引く何かが足りないのだ。


「あの。どうしてアルファの光士郎さんの事を優也さんの親御さんは反対してるのですか?」

「…………莉生」

「知らな~い。ボクの両親の頭が固いからじゃないかなあ」
「……オレは優也の親から嫌われてるのさ」

「そんな。子供は親の道具じゃない。俺はオメガのばあちゃん似だけどバース性はベータだ。見た目だけでいろいろ言われるのも嫌だし、自分の事を棚に上げるようだけど、オメガやアルファや家柄とか関係なく好きな人と一緒になりたいって気持ちを否定されたくはない!」


「そうか莉生くんの肉親にオメガがいたのか。だからオメガ寄りのベータなんだね」
「オメガ寄り? って?」
「オメガの因子を持っていると言う事だよ。莉生は外見にかなり特徴が出てる」

「はんっ! オメガなんてロクなもんじゃないよ。ヒートの時の辛さはたまったもんじゃない。アルファが欲しくて堪らなくなる。自分が自分でなくなるんだ。嫌になるよ!」

「先輩は俺がオメガの方が良かったですか?」

「……僕は……莉生が好きなんだ。僕だけを見て欲しい。莉生は自分がベータだから平凡な容姿だと思い込んでるが実際はそうじゃない。今にも誰かにさらわれそうで心配なんだ」


「へぇ。魁人の口からそんな惚気た言葉が聞けるなんて。本気なんだね。じやぁ、ボクも応援するよ」

 それから4人で話し合ってなるべく一人にはならない。常に連絡を取りながら行動をしようという事になった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事

虎ノ威きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。 幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。 成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。 そんな二人のある日の秘め事。 前後編、4000字ほどで完結。 Rシーンは後編。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【短編】劣等αの俺が真面目くんに付き纏われているのはなぜだ? 〜オメガバース〜

cyan
BL
ダイナミクス検査でαだと発覚した桐崎賢斗だったが、彼は優秀ではなかった。 何かの間違いだと言われ、周りからαのくせに頭が悪いと馬鹿にされた。 それだけが理由ではないが、喧嘩を繰り返す日々。そんな時にクラスメイトの真面目くんこと堂島弘海に関わることになって……

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?

爺誤
BL
気づいたら美女な妹とともに監獄行きを宣告されていた俺。どうも力の強い魔法使いらしいんだけど、魔法を封じられたと同時に記憶や自我な一部を失った模様だ。封じられているにもかかわらず使えた魔法で、なんとか妹は逃したものの、俺は離島の監獄送りに。いちおう貴族扱いで独房に入れられていたけれど、綺麗どころのない監獄で俺に目をつけた男がいた。仕方ない、妹に似ているなら俺も絶世の美形なのだろうから(鏡が見たい)

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

処理中です...