メタモるフォーゼを君に捧げる

ゆうきぼし/優輝星

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4ベータ

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 数日後、莉生は教授から頼まれた資料を返却するために国立図書館に来ていた。あれから魁人は毎日のように莉生を送り迎えしている。念のためしばらく魁人のマンションで匿ってもらう事になりアルバイトもやめることにした。魁人からはこのまま研究所で働けるように打診をすると言われている。

「働き先ぐらいは自分で探さないとな」

 何もかも魁人に任せてしまうわけにも行かない。自分で出来る事は自分でしていかないといけないと莉生は考えていた。今後魁人の親がどう出てくるかはわからない。だからなるべく魁人自身に迷惑をかけないようにしたかったのだ。

 分厚い資料を数冊返却すると魁人に連絡をいれる。最近は連絡を入れないと心配して何度も電話がかかってくるからだ。嬉しいけれど、ちょっと過保護な気もする。

 図書館に併設してるカフェには光士郎が待機している。その後、魁人の研究室まで送ってもらう予定だ。大学から図書館までは徒歩でほんの30分程度。魁人がついて来ると言ったが、ちょうど光士郎が近辺まで来ていると連絡があったので魁人にはそのまま研究に没頭してもらうように説得してきた。

「あれ? 待ち合わせってここのカフェじゃなかったっけ?」
 待ち合わせのテーブルに向かうが席には誰も座ってなかった。
「お連れ様ですか? ここに座ってたお客様なら今トイレに行かれてますよ」
「ありがとうございます」

 テーブルには飲みかけのコーヒーと白い粉が落ちていた。なんとなく気になりそのままトイレに行くと中で光士郎がうずくまっている。苦しそうに肩で息をしている。

「大丈夫ですか!」
 莉生が駆け寄ると光士郎が顔をあげた。顔面真っ青だ。

「あぁ……。吐けばマシになるんだが」
「ええ? じゃあ指突っ込んで吐いてしまいましょう!」
 莉生は迷うことなく光士郎の口の中に指を突っ込んだ。
「え? ちょっ……ぐおっうぇっ……」

「どうですか? まだやります?」
「いや。も、もぉいい。げほっ……ったく君って子は……ふっふふふ」

 光士郎が突然笑い出したのを見て莉生はとまどった。咄嗟に光士郎の口に指を突っ込んで吐かせたのが悪かったのだろうか? と。

「すみません。出過ぎた真似をしてしまって」
「いや、いいさ。助かったよ。これはプロテインの過剰摂取のせいなんだ。」

「過剰摂取ですか?」
 莉生は以前ホテルのレストランで魁人が光士郎に言っていた言葉を思い出した。
『摂取過ぎると体を壊すぞ』

「どうしてそんなに摂取するのですか?」
「君なら言っても良いかな。……オレはさ。本当はベータなんだよ」
「え?光士郎さんも俺と同じなんですか?」

「はは。外見だけでは気づけないくらいまで鍛えているからね。どうしてもアルファと比べられるのが嫌で肉体改造の為にプロティンを飲み続けている。それもかなりの量だと自覚しているさ。だが怖くてやめられないんだ。つい必要以上に摂り過ぎてしまう。仕事も実戦じゃなくてCEOなんて肩書だけなんだ。本当に働いたらアルファと差が出てしまうからな」

「そんな、本当にベータなんですか? こんなにカッコいいのに」
「ぷはっ。それはどうも。でもこの目も鼻も整形なんだよ」
 光士郎の言葉に莉生が固まる。ベータとして産まれたのにアルファになろうとして整形までした事実に驚いたのだ。

「そんな。……何故なんですか? 優也さんのため?」
「オレ自身のためかな? アルファの家系の中で何故かオレだけベータだったんだ。優也はありのままのオレが好きだと言ってくれた。だけどオレはアルファでいたかった」

「それは優也さんがオメガだったからですか?」
「それもある。君はヒートの時のオメガを見たことがある? あのフェロモンにはベータでもおかしくなる。一番癒してあげられるのはアルファのフェロモンなんだ。首を噛んで番にしてやることなんだ。優也をなんど掻き抱いてもオメガが求めるモノをあげれない虚しさは居たたまれないのさ」


 話しを聞いてやっと優也の親が有能な家系の光士郎を認めないわけが理解できた。莉生はバース性だけを重視してる親たちに無性に腹が立ってきた。この世界は理不尽であふれている。


「光士郎さん。もし、俺が本当にオメガに近いベータなら、光士郎さんはアルファに近いベータなんじゃないですか? 俺たち因子を持ち合わせてるなら、何かをきっかけに変異することもあるかもしれない」

「気休めだよ」

「いえ、生物って強い危機感や飢餓感に襲われると本能に従って変化することもあるんですよ。実例もあります」
 他のバース性からオメガになるのがビッチング。逆に他のバース性からアルファになるのがスタンディングだ。


「生物学を学んでる莉生くんが言うとそんな気になるから不思議だな。でも現実は甘くないよ。充分に気を付けて行こう。なんてオレが言っても説得力はないけどね」
「はい。身辺を整えて好戦していきましょうね」
「はは。試合にでも行くみたいだな。君はまったく、面白い子だねえ。魁人が気に入ったのがわかる気がするよ」
「そうですか?俺はいまだに信じられないです」

「どうして? 莉生君はしっかりしているよ。常に自立しようとしているし、さっきだって咄嗟の行動力が凄い。普通は他人の口にいきなり指を突っ込んだりしないさ」
「あれは、反射的にそうしただけで。誰にでもしませんよ」

「ふはは。そうだね」
「今日は優也さんはご自宅ですか?」
「あの日からずっとオレの元にいる。マンションのセキュリティは万全だから何かあればすぐオレに連絡がくる」
「セキュリティが万全ってすごいですね」

「何言ってるんだ。君が居る魁人のところもそうだろう?」
「そうですが、居候させてもらってるのが心苦しくて」
「ぷは!居候って……君本当にそう思っているの?」
「え?はい。働くようになったら家賃は払おうかと思ってます」
「……魁人は同棲できたと喜んでいたけど?」
「ど、同棲?え?本当ですか?……え?同棲っだったのか」

「これは二人の認識に誤差があるようだね。魁人はさ、なんでも出来てしまうから自分本位で行動してしまうところがあるんだよ。勝手にこれぐらいなら理解してもらえると判断してしまう。莉生くんは恋愛には奥手なんだね?」
「そうかもしれません。魁人以外につきあった人がいなくて」
「……マジか。それは。あいつが大事にするはずだ」
「大事になんか……その」
「ははは。照れると可愛いな。さてそろそろ帰らないと魁人に怒られそうだ」
「はい。行きましょうか」

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