任せてもいいですかーあなたとモーニングキスがしたいー

也菜いくみ

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 篠山の口からでたアルバイトという言葉に、肩を揺らして顔をあげた。
「あの……」
「仕事のあとに毎晩バイトに行っているんだろ? お前のスマホにはいった連絡を遼太郎がとったんだよ。無断欠勤は迷惑がかかるだろ? で、昨日も、今日もだけど、お前のかわりに行かせているヤツがいるから、バイト先にはさほど迷惑はかかっていないはずだよ。だからお前はなにも気に病まなくていい」
「あ……」
「ということで、シルバーウィークあけるまでは、お前には時間がたっぷりあるから。ちょっとゆっくりしてみ?」

 さっきから時間が進むにつれ重苦しくなっていた胸が、嘘のように軽くなっていた。
「よし、じゃあ、お前の事情はまた明日にってことで。大阪から帰ってきて疲れただろうし風呂にもはやく入りたいだろ? メシはあとにしてさきにさっぱりしようか」
「……え?」
 彼が一度部屋を出ていったのは湯張りのためだったらしく、すぐに戻ってきた篠山は神野の衣服を脱がしにかかる。
「ちょ、ちょっと」
「男がさ、服を贈るってのは、脱がせたいって下心があるからだとか聞いたことない?」
 楽しそうに笑った彼は、神野が着ていたベージュのアウターをするっと剥いで床に放った。

「やめてくださいっ、て――」
「お前はしばらく他人に世話されていろ。はい、ばんざーいっ」
 抵抗もむなしく上だけボタンを外した濃紺のシャツがすぽっと頭から抜きとられると、ソファーから掬われるようにして抱きあげられた。

「やっ、離してっ」
「はい、あかちゃん抱っこですー。あはははっ。暴れると落っこちるぞ」
 篠山の胸を押し、なんとか離れようとやっきになっていると、今度は揺さぶりあげられて肩に担がれる。
 天地が逆になってしまい血の気の下がる不快感に目を瞑った神野は、不安定な体勢に恐怖を感じて、落ちてはかなわないとぎゅっと篠山の腰にしがみついた。


                 *


 翌朝、神野は出勤まえの篠山に起こされた。
 彼は紺色のVネックのニットのセーターに、黒のパンツをあわせたカジュアルな姿でベッドに乗りあげてきた。背後にまわった彼にだるい身体を起こされて、抱きこむようにされる。いわゆる恋人座りだ。
「……寒い」
 肌を晒したままの神野が呟くと、篠山は「俺に凭れろ」と云いながら羽毛布団を肩まで引きあげてくれた。そして神野の膝のうえに通帳を開いてみせる。

「で、お前の出費について知りたいんだけど、この毎月カミノヤヨイさんに送金している七万円ってなんだ? 親への仕送りか?」
「……はい」
 観念してぼそりと返す。
「お前まだ二十二だろ? その歳でこの金額って多いだろ。実家の所得は低いのか? 母子家庭だとか?」
「父がいなくて母だけの収入になっています。実家にはまだ学生の弟がいるので、余裕がないらしいです」
「母親は実家に頼ったりはできないのか? 同居はしている?」
 神野は首を横に振った。
「……母が祖母を嫌っているんで。いっしょに住むどころか……、数年前に祖母が家を買ったです。そしたらそれに母が張りあってしまって、ローンを組んで新築の家を買ってしまいました。送金している七万はそのローンの返済に当てられていると思います」

「なんだそりゃ……。息子に寝るまもなく働かせておいて、本人は見栄のために新築の家って……」
「はい。困ったひとです。祖母もそういう母に腹を立てていますので、経済的には援助は求められません」
「だな。家さえ手放せばいいんだからな」
「じゃぁ、このタジマユミさんへの不定期的な送金は? これもずいぶん金額がでかいけど?」
「そのひとは伯母です。いまは長期入院しているんですが、入院給付金で足りなかったぶんを私がだしています」
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