パーティーから追放する側の俺が、もう遅いと言われる事態になる前に、マイナス思考の最強弓術士を必死に引き止める話

鯨井イルカ

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 うちのパーティーは、王都でも最強と謳われている。そのおかげで、国王から直々に依頼を受けることもあり、入団希望者が後を絶たない。だから、レギュラーで出撃するメンバー以外にも、多数の者が在籍しているわけだが……。

「お前は本日付で解雇だ」

 ……当然、その中には役に立てずクビになる奴もいる。

「そ、そんな!?」

 今日も俺の目の前では、気弱そうな魔術師の青年が目を見開いて驚愕している。こんなやりとりも、今日で何回目だろうか。

「なぜなんですか!? リーダー!」

「なぜも何も、お前はうちのパーティーには必要無いからだ」

 そう伝えると、青年は口をつぐんで俺を睨みつけた。

「一応、言いたいことがあれば、聞いてやるぞ」

 とは言ってみたものの、何を言われるかは大体分かっている。

「お言葉ですがリーダー、僕が役に立てないのは、他の面々が僕の固有スキルをうまく扱えないからじゃないですか!」

 ……ほらな。

「お前の固有スキルは、怯み無効化、だったよな?」

「ええ。たしかに地味ですし、最近流行のスキルではありませんが、どんな攻撃を受けても痛みを感じずに怯まず詠唱を続けられま……」

「そのスキルに頼りすぎた戦い方をした結果、前回の狩りで何があった?」

 問いただすと、青年は再び口をつぐんだ。

「お前は、魔力に敏感なモンスターが多い場所だからメインの攻撃は弓術師に任せてサポートに徹しろ、という命令を無視して、強力すぎる魔術を詠唱した。そのおかげで、ターゲットの大型モンスターどころか、少し離れた場所にいた中型モンスターの敵視まで全てお前に向いた」

「でも、それは……タンクであるリーダーが、もっとしっかり敵視管理をしていれば……」

「たしかに、敵視を集めて攻撃職や回復職に攻撃がいかないようにするのは、タンクである俺の仕事だ。だから、装備や日々の訓練で、高い防御力や体力を維持しているさ。だがな、限度があるんだよ。さすがに、想定外に引き寄せられた中型モンスター二十匹の敵視までこっちに集めたら、保つわけないだろ」

「だから……リーダーの方には……中型モンスターを向かわせなかったじゃないですか……」

「向かわせなかったんじゃなくて、敵視を放せなかっただけだろ。ターゲットの敵視だって、やっとの思いで引き剥がしたんだぞ」

「で、でも、結果的には無傷のうちに、僕の一撃でターゲットを倒したじゃないですか!」

「それは弓術師のルクスが、咄嗟に狙いを中型モンスターに変えたのと、回復術師のアンリが高度な保護魔法をかけてくれたおかげだろ。二人がいなければ、お前は詠唱が終わる前にズタズタになって、モンスターの胃袋の中だったろうな。それに、同行したのがルクスじゃなければ、保護魔法の効果があるうちに中型を倒し切れたかどうか……」

「そんなこと言うなら、僕なんて放っておけば良かったじゃないですか……」

「あのな、パーティーで死人なんか出したら、遺族への補償やら、ギルドへの申請やらで、手続きが死ぬほど面倒なんだぞ。それに、評判も下がって、依頼も受注しにくくなる。だから、自分が死んだり、仲間を死なせたりしないことを最優先にするってのが、このパーティーの掟なんだよ。入団するときに、俺が直々に説明したろ?」

「……」

 青年は反論を止めて、悔しそうな表情で下を向いた。
 やれやれ、ようやく納得してくれたか。
 
「俺からは以上だ。法律に則り、三ヶ月分の基本給料はまとめて支払うし、各種事務手続きも速やかに行う。だから、早く新しいところへ……」

「だって……仕方ないじゃないですか」

「ん?」

 納得したと思った青年は、いつの間にか涙目でこちらを睨みつけていた。

「僕だってあんな戦い方したくないですけど、スキルを活かすためには、あれしかないんですよ!」

 ……知らんがな。
 と、言いたいところだが、それは我慢しておこう。

「だったら、スキルや魔術師という職にこだわらず、別の職になれば良かったじゃないのか? 別に、この国では生まれながらに職業を強制されてるわけじゃないだろ」

「うっ……」

「本当のところはスキルがどうこうじゃなく、物理系の攻撃職やタンクだと身体を鍛えるのが辛い、回復術師だと人命に関わるという重責に堪えられない、そんな理由で魔術師を選んだんだろ。違うか?」

「……うるさい! うるさい! ともかく、僕のことを認めないお前らが悪いんだ! 僕がいなくなってパーティーが壊滅状態になっても、もう戻ってやらないんだからな!」

 青年は顔を赤くしながら早口で叫び、部屋を出ていった。

「……お前がいないくらいで壊滅するようなパーティーなら、もうとっくに壊滅しているさ」

 そんな独り言を呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「入れ」

 声をかけると、ドアは小さく音を立てて開き、うちのパーティーのサブリーダー、弓術師のルクスが現れた。

「ベルム、ちょっと良いか?」

「うん、どうした?」
 
 問い返してはみたが、大体の予想はついていた。

「ああ、辞表を持ってきたんだ」

 ……やっぱりな。
 そもそも、うちのパーティーが王都最強と謳われる理由は、コイツの弓の腕が凄まじいからだ。それなのに、コイツはことあるごとに、パーティーを辞めたがる。その上、なぜ辞めたがるかというと……。

「だって、俺がいると迷惑がかかるから……」

 ……自分が周りに迷惑をかけている、という勘違いからがほとんどだ。

「一応、なぜそう思ったのか、話を聞こうか」

「だって、ほら、弓術師って地味だし……」

「たしかに、地味かもしれないが、お前は敵の弱点を瞬時に見抜く固有スキルと、それを活かせるだけの弓の腕を持ってるだろ?」

「でも、なんかそれってズルくないだろうか? そんな能力があれば自分だって最強になれるのに、って新入りが拗ねちゃって意欲を無くして辞めたりしてないか?」

「固有スキルを活かせるようになるまで厳しい訓練を積んで、今もなおそれを続けている奴の何がズルいんだよ。それに、そんな理由で意欲を無くして辞めていった奴は、今まで一人もいないぞ」

「それは、ほら、俺が最強だとか言われてるから、みんな遠慮してるだけだったりしないか?」

「だったりしない。それで、周りのことは置いておいて、お前は本心で辞めたいと思っているのか」

「いや、別に辞めたいわけじゃないんだが、迷惑がかかるくらいなら……」

 ……たしかに、自信過剰も問題がある。しかし、自信がなさすぎるのも面倒だ。
 こうなったら、固有スキルを使うしかない。

「ええい! もう、まどろっこしい! いいから、俺の目を見て今から言うことを復唱しろ!」

「え? あ、うん」

「俺は、このパーティーに、必要な、人間です。はい! 繰り返せ!」

「俺は、このパーティーに、必要な、人間です」

 ルクスは俺の言葉を繰り返すと、しばし間を置いてから頷いた。

「うん、それもそうだな。急に時間をとらせて悪かった。トレーニングに戻るよ」

「ああ、そうしてくれ」

 俺の返事を聞くと、ルクスは軽く会釈して部屋を出ていった。
 俺の固有スキル、絶対説得、は一日一回しか使えないというのに、ほとんどあいつを引き留めるためだけに使っている。使い方によっては、依頼の報酬を吊り上げたりもできるはずなのに……。
 いや、どうにもならないことを嘆いていないで、ギルドへ従業員解雇の手続きをしにいこう。
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