美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ

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番外編

 もう一度の再会 3

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 ◇

 ミュラリアを経って二週間、ハロルドの帰還の華々しい行列が王都の門をくぐり城に向かっていく。
 
「シアン、よくやってくれた」
「いえ、私は何も」
「ミュラリアとの和睦会議が荒れなかったのはお前の存在が大きい。賢明に、もてなしていただろう? あれは国力を見せつけるため。和平を結べば利があると俺に見せるため。何故だと思う?」
「恐ろしいからですか」
「あぁ、その通りだ。お前が恐ろしいからだ、シアン。是が非でも、和平を結びたかったのだろう。俺の機嫌を損ねれば、お前が王宮を火の海に沈めるとでも思っていたのだろうな」

 城までハロルドを送り届けると、ハロルドは上機嫌でシアンに声をかけた。

「ご苦労だった。しばらく休め。ラティスも寂しがっているだろう」
「感謝します」
「あの子は、元気か」
「はい。よく、笑います」
「そうか」

 ハロルドはそれだけ言うと、ルーベンスを引き連れて城に戻っていく。
 シアンは立礼をして、騎士団の者たちを連れて騎士団本部へと戻った。

「シアン様、陛下もああいっておりました。あとのことは任せて、ラティス様に顔を見せてあげてください。きっと心配していますよ」
「あぁ、悪いな」

 クラーヴの申し出をありがたく受け入れて、シアンはウェルゼリア家に戻ることにした。
 城を出た時には既に日が傾き欠けていた。
 夕暮れの街を馬に乗り、ウェルゼリア家に向かって歩かせる。
 王都の街で足を止めさせて街角の馬屋に預けると、少し考えて装飾品の店に入る。

 ミュラリアでは、土産を買う時間はなかった。ハロルドに常に付き従っていたからだ。
 王都で何かを買うというのも味気ないとは思うが──。

 シアンは誰かのために何かをかう、ということはしたことがない。
 家の采配は全てラティスに任せている。
 金も全て渡して、好きなようにしていいと伝えている。


 だが、一ヶ月以上留守にしていたのだ。何かプレゼントをしたい。
 あらためて何かを買うというのも難しいものだなと思いながら、シアンは装飾品店の扉をくぐった。

 ラティスには首飾りを、子供たちには髪飾りと飾りのある短剣を買い、シアンは帰路についた。
 アルセダたちには菓子を買った。
 シアンの姿を見て店員たちは恐縮していたが、その瞳には忌避も怯えもなかった。

 数年前とは──街も、人々も、かわりはじめている。
 
 幻獣の民と思しき黒い髪と赤い瞳をした者が、堂々と街を歩いている。
 すれ違うと、話しかけることこそしないが、シアンに深々と礼をしていく。

 ハロルドの行った改革と、幻獣の民を保護下においているシアンと、それから彼らに仕事を斡旋したり、生活の支持をしているラティスの努力が実になってきているのを肌で感じられた。

 もう──自分のような、子供は産まれないのだろうか。
 分からないが、そうであって欲しい。

 自分を哀れむつもりはない。
 シアンは十分、幸せだ。その幸せを自分でつかみ取った。
 否、そうではない。

 シアンの幸福は全てラティスが与えてくれた。

 会いたいと思う。

 会いたい。今すぐに会いたい。その可憐な声が聞きたい。笑顔が見たい。
 華奢な体を抱きしめたい。

 子供たちの声が聞きたい。

 ヨアセムたちの明るい声が聞きたい。

 こんな風に誰かを求めることはいままでなかった。
 ──家族に会いたい。

 ウェルゼリア家に辿り着いたときには既に日が沈んでいた。
 ヨアセムに帰還の時期を告げたが、それはおおよその日付だけだ。
 今日戻るとは言っていない。
 
 おおよそ一ヶ月と半月ぶりのウェルゼリア家は、妙に静かだった。
 もう、皆、眠っているのかもしれない。

 それにしては、少し早い気もするが。

 家に戻ると、侍女たちがすぐにやってきて上着を脱がせて剣などを外して持って行く。
 勤勉で寡黙な者たちが多い。「おかえりなさいませ」「ラティス様はお部屋にいらっしゃいます」と静かに言われたので、シアンはラティスの部屋に向かった。

 寝室を静かに開き、中に入る。
 するとそこには──ベッドの上でシアンの上着を抱きしめて丸くなっている、ラティスの姿があった。

 すうすうと、寝息を立てて眠っている。
 まるで愛しいものを抱くように、シアンの上着をぎゅっと抱きしめる様子は、幼子のようだ。

 もう、二十歳は過ぎている。
 ラティスは落ち着いていて品があり、淑やかな女性に成長した。
 
 けれどその姿は、寂しがり屋の子ウサギのようで、ひどく愛らしかった。


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