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第1章
第75話 ファミリア・カード
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『テイプルネフガの大量発生・・あれね、君が女王蛾の真王核を持ってるから起こるんだよ? 君達が斃した最初の1体だね』
呆れ顔で言ったのは、少年の姿をした神様だった。もうすっかりお馴染みの神様による喚び出しである。
「そうなんですか?」
シュンは左手の表示へ眼を向けた。
テイプルネフガのドロップ品と妖毒羽根、ネフガの真核がずらりと並んでいる中に、クィーンネフガの真王核という物があった。
「・・ありますね」
『うん、あるよね。稀少で危険でヤバイ品なんだけどね』
「確か・・カーミュがとても珍しいような事を言っていました」
あの時、カーミュはテイプルネフガと言っただけで、クィーンネフガとは言わなかった気がするが・・。
『この世に1個しかないよ』
「凄いですね」
『凄いですねじゃないよ。君達、ネフガ虐殺し過ぎでしょ? 羽根はあるけど色っぽい美女だよね? ほぼ人間じゃない? どうして、あんなに殺しちゃうの?』
少年神が呆れ顔で訊ねる。
「いえ・・ポップしたものですから」
『君が女王蛾の真王核なんて採っちゃうからだよ』
「・・魔物ですから」
シュンが溜め息をついた。
『何?何か暗い顔してる?君でも気が重かった?』
「さすがに、結構な数でしたし・・ほぼ人間の姿ですから」
気が滅入ったのは事実だ。
『ふうん、まあ・・とにかく、女王蛾の真王核は返納して貰うよ』
「分かりました」
シュンは、ポイポイ・ステッキの収容物から、女王蛾の真王核を取り出した。
『テイプルネフガは1体で経験値1000ポイントね』
「ずいぶん多いですね」
『多いかな? まあ、ネフガは特殊条件下でしか発生しない魔物だから・・』
少年神が苦笑した。何か事情がありそうだったが、それ以上は何も教えてくれなかった。
「蛇龍王というのを仕留めたのですが大丈夫でしたか?」
ポイポイ・ステッキの中身を見ながら訊いてみた。黒霧から襲ってきた三つ首の大蛇は、カーミュが教えてくれたとおり、蛇龍王という大袈裟な名前が付いていたのだ。
『ああ、そいつは好きにして良いよ。女ばっかり狙う迷惑な蛇で、ネフガを追いかけ回してた奴なんだ。哀れにも、双子ちゃんに粉々にされたみたいだね』
「ええ、破片も残らず・・」
『あの子達の神聖術って、いい加減おかしな事になってるけど・・蛇龍王は300階前後の中層域を徘徊する魔物だ。少しでも肉片が残れば、そこから再生してしまうような魔物だから、双子ちゃんの斃し方が正解だったのさ。ええと・・蛇龍王の討伐報酬は何か規定してあったかなぁ?』
少年神が腕組みをして首を傾げる。何を見ているのか、あちこちへ視線を配っていたが、途中で諦めたらしい。
『それより、テイプルネフガの氾濫を抑えきったので、1レベルアップするよ。真核はリビング・ナイトの強化に使うか、換金するかだけど?』
「リビング・ナイトを強化して下さい」
『言うと思ったよ。もう、君のはリビング・ナイトとは別ものだよね』
少年神が呆れ声を出す。
『ネフガの真核は2万8867個あるけど・・』
「全部強化に使って下さい」
シュンに迷いは無い。
『・・はい。例によって、能力値がマックス突破・・げっ! 進化しちゃうよ、これ・・どうすんの?』
「リビング・ナイトが何か?」
『う~ん、これって、良いのかなぁ・・駄目って規則は無いんだけど、さすがにちょっとマズくね?』
少年神が唸っている。
「是非、強化をお願いします」
『ええと、ちょっと待ってね。これ、保留で・・レベルアップだけ済ませちゃおう。あと、ああ・・蛇龍王は1レベルアップと討伐賞金が出るな』
シュンの目の前に、500本の棒金が浮かび上がった。
「ありがとうございます」
『あっ、これでレベル20を超えるのか。なら、ついでにレベル20のイベントまで終了しちゃおう』
「・・はい」
慌てた様子の少年神を、シュンは訝しげに見守っていた。
どうやら、リビング・ナイトの進化というのがちょっとした問題になっているらしい。規則に違反していないなら、速やかに進化させて欲しいのだが・・。
『レベルが20になると、これまでとは色々な部分が変化するよ。新しい技能が追加されるし、ステータスで確認できる能力項目も変化する。加えて、ボクの銘入りのファミリア・カードが発給されるから・・これは、かなり特殊なカードで、持ち主が意識しないと具現化しない。加工できない。偽造できない。盗難できない。もちろん紛失もできないという神具の一種』
「はあ・・」
そんな妙なカードの話よりも、リビング・ナイトの進化について訊きたいのだが・・。
『カード所持者は、各地に設置の掲示板、石碑などの使用権限が与えられる。さらに、カードには名前、所属パーティの他に、討伐記録、到達階層が記される。そしてカードの特殊機能として、迷宮の何処からでも街に帰還転移で戻れるようになる』
「・・それは凄い」
より大胆な探索が可能になるということだ。
『ただし、1度転移をしたら、1度神殿に行ってお布施をしないと転移機能が停止する。これ、ケチって全滅しちゃうパーティが結構いるから気をつけてね』
「・・緊急時の脱出に使えるんですね?」
『そういう事。まあ、発動まで5秒もかかるし、閉鎖領域とかで阻害しちゃう魔物が居るから使えない時もあるけどね』
少年神が注意点を口にする。
「使用の度にお布施をすれば、カードが壊れるような事は無いのですか?」
『回数に制限は無い。強いて言えば、使用者が生きている事・・かな。発動途中で死んじゃうと、未発動で終わるよ』
「・・このカード、ユキシラにも?」
『もちろん、ちゃんと支給してあげる。あれはもう君の従者なんだし、ボクの作品だからね。ちょっぴり急場しのぎ的な何かだけど』
少年神が腕組みをして言った。
「・・その従者というのは、迷宮の外で言う従者とは違うのですか?」
『そうだねぇ・・影者と言った方が相応しいのかな? 主人である君が死ぬと、ユキシラも滅びる。主人が生きていれば、ユキシラは不死だから』
「他の異邦人・・パーティには言えませんね」
『う~ん、まあ低層に留まってる連中は驚くかも? でも、上を目指してる連中は似たような・・従魔だったり、アンデッドの使い魔を操ってるから、あんまり気にしないと思うよ?』
「・・なるほど」
精霊などを使役している者も居るという話だったし、あまり気にしなくても良いのかも知れない。
『ああ、言い忘れたけど、ファミリア・カードに記載される討伐記録ね。あれ、カードを取得してからの記録だから。過去分は含まれない。そして、個体名だけで数は載らない。色々やらかしちゃってる君達も、真っ新な状態から始められるってわけさ』
「・・そうですか」
それにどういう意味があるのか分からないが・・。
『20階から転移する街は、迷宮最後の街だ。人間の街が・・って意味ね? 君達が紛れ込んじゃったようなムジェリの村とかあるんだけど・・この先、人間が多く住んでいる街はもう無いってこと』
「それで、転移ですか?」
『それもあるけど・・まあ、20階層まで来る子は、だいたいレベル25に到達しているから、迷宮の外に行けるようになるからね』
「ああ・・そうか、異邦人はレベル25で外に出られるんでした」
わざわざ迷宮内でなくとも、外に出れば街はいくらでもある。迷宮探索をするにしても、無理をして上層階を目指さなくても良くなるのだ。だから、上の階には異邦人の街が無いのだろう。
『そういうこと。君の場合は3年縛りがあるからまだ出られないけど』
「しかし、ユアとユナは・・ああ、レベルが足りませんね」
レベル20になるだけでも大騒ぎだったのに、この先、5レベルも上げるとなると・・。
『練度が増し増しになってるからねぇ・・あ~あぁ、可哀相にぃ~、双子ちゃんが泣いちゃうねぇ~』
少年神が意地悪そうに笑い、シュンの顔を下から覗き込んでくる。
「仕方がありません。きちんと話し合って、全力で経験値を稼ぐ努力をしてみます」
『・・迷宮を壊さないでね? 何気に、君達やらかし過ぎなんだからね? 焦る必要無いし?』
「そうですね。私としては、どのみち年季が残っていますから・・でも、ユアとユナは急ぎたいのかも知れません」
2人が急ぐようなら、テイプルネフガの氾濫のようなレベルアップが報酬となるイベントを探すしか無い。
『君は年季が明けたらどうするんだい?』
少年神が頭の後ろで手を組んだまま宙へ浮かび上がった。
「一度、故郷へ挨拶に行って、また迷宮に戻って来ようと思っています」
外に出ることが出来たら、アンナに無事なことを報告してから迷宮へ戻るつもりだった。
『・・へぇ? 珍しいね』
上下逆さまに浮かんでいた少年神が軽く眼を見開いた。
「そうですか?」
『そうさ。普通は二度と戻りたくないって言うんだけど?』
「"文明の恵み"のおかげで極めて快適に生活できていますから・・正直、外に行って、どんなにお金を積んだとしても、あれほど快適な風呂は手に入りません!」
シュンはきっぱりと言った。
『・・やれやれ、君って・・どんだけ風呂好きなんだい?』
少年神が苦笑した。
「魔物を狩り、素材を得て、創作をする。今はこの生活に満足しています」
『まあ・・確かに、これ以上無いほど馴染んじゃってるよね』
けらけらと笑い声を立てつつ少年神がシュンの目の前に下りてくる。
「・・それで、リビング・ナイトの事なのですが?」
シュンは正面に神様を見つめて切り出した。
『ぅ・・ああ、そうだったね。うん・・ええとね、確かに規則には違反していないんだけど、ちょっと規格外過ぎるって言うか・・』
少年神の歯切れが悪い。
「神様、駄目なら駄目と仰って下さい。私は規則を破ってまで何かを求めようとは考えていません」
『規則通りなんだよ・・破ってないんだよ・・なんだけども、良いのかなぁ? まあ、良いのかも?・・だって、規則違反してないんだからね?』
何やら自問自答をやっていた少年神だったが、ややあって決心した顔で大きく頷いた。
『はい。降参・・もう後の事とか知りません。迷宮規則に定めた通り、君の要求に応じます。リビング・ナイトにネフガの真核2万8867個をぶっ込んじゃいます』
「ありがとうございます」
シュンは深々と頭を下げた。
『これにより、リビング・ナイトはあれやこれやを飛び越えて、アルマドラ・ナイトに進化するよ。いつものように、どんなものかは頭に刷り込まれるから』
「はい」
『レベル20になっての諸々の変化は、街にある神器に登録をすると知識として与えられるから心配いらない。ああ・・最後に一つだけ』
「はい?」
『カードの所有者は、時々強制招集されるからね?』
「迷宮戦のようにですか?」
『その通り。魔物の討伐だったり、他の依頼事だったり・・まあ様々さ』
どうやら、神様のイベントが色々と用意されているらしい。
「分かりました」
『・・後は、街に行ってからのお楽しみだ』
「街には名前が?」
シュンが訪ねると、
『エスクードさ』
少年神がひらひらと手を振った。
呆れ顔で言ったのは、少年の姿をした神様だった。もうすっかりお馴染みの神様による喚び出しである。
「そうなんですか?」
シュンは左手の表示へ眼を向けた。
テイプルネフガのドロップ品と妖毒羽根、ネフガの真核がずらりと並んでいる中に、クィーンネフガの真王核という物があった。
「・・ありますね」
『うん、あるよね。稀少で危険でヤバイ品なんだけどね』
「確か・・カーミュがとても珍しいような事を言っていました」
あの時、カーミュはテイプルネフガと言っただけで、クィーンネフガとは言わなかった気がするが・・。
『この世に1個しかないよ』
「凄いですね」
『凄いですねじゃないよ。君達、ネフガ虐殺し過ぎでしょ? 羽根はあるけど色っぽい美女だよね? ほぼ人間じゃない? どうして、あんなに殺しちゃうの?』
少年神が呆れ顔で訊ねる。
「いえ・・ポップしたものですから」
『君が女王蛾の真王核なんて採っちゃうからだよ』
「・・魔物ですから」
シュンが溜め息をついた。
『何?何か暗い顔してる?君でも気が重かった?』
「さすがに、結構な数でしたし・・ほぼ人間の姿ですから」
気が滅入ったのは事実だ。
『ふうん、まあ・・とにかく、女王蛾の真王核は返納して貰うよ』
「分かりました」
シュンは、ポイポイ・ステッキの収容物から、女王蛾の真王核を取り出した。
『テイプルネフガは1体で経験値1000ポイントね』
「ずいぶん多いですね」
『多いかな? まあ、ネフガは特殊条件下でしか発生しない魔物だから・・』
少年神が苦笑した。何か事情がありそうだったが、それ以上は何も教えてくれなかった。
「蛇龍王というのを仕留めたのですが大丈夫でしたか?」
ポイポイ・ステッキの中身を見ながら訊いてみた。黒霧から襲ってきた三つ首の大蛇は、カーミュが教えてくれたとおり、蛇龍王という大袈裟な名前が付いていたのだ。
『ああ、そいつは好きにして良いよ。女ばっかり狙う迷惑な蛇で、ネフガを追いかけ回してた奴なんだ。哀れにも、双子ちゃんに粉々にされたみたいだね』
「ええ、破片も残らず・・」
『あの子達の神聖術って、いい加減おかしな事になってるけど・・蛇龍王は300階前後の中層域を徘徊する魔物だ。少しでも肉片が残れば、そこから再生してしまうような魔物だから、双子ちゃんの斃し方が正解だったのさ。ええと・・蛇龍王の討伐報酬は何か規定してあったかなぁ?』
少年神が腕組みをして首を傾げる。何を見ているのか、あちこちへ視線を配っていたが、途中で諦めたらしい。
『それより、テイプルネフガの氾濫を抑えきったので、1レベルアップするよ。真核はリビング・ナイトの強化に使うか、換金するかだけど?』
「リビング・ナイトを強化して下さい」
『言うと思ったよ。もう、君のはリビング・ナイトとは別ものだよね』
少年神が呆れ声を出す。
『ネフガの真核は2万8867個あるけど・・』
「全部強化に使って下さい」
シュンに迷いは無い。
『・・はい。例によって、能力値がマックス突破・・げっ! 進化しちゃうよ、これ・・どうすんの?』
「リビング・ナイトが何か?」
『う~ん、これって、良いのかなぁ・・駄目って規則は無いんだけど、さすがにちょっとマズくね?』
少年神が唸っている。
「是非、強化をお願いします」
『ええと、ちょっと待ってね。これ、保留で・・レベルアップだけ済ませちゃおう。あと、ああ・・蛇龍王は1レベルアップと討伐賞金が出るな』
シュンの目の前に、500本の棒金が浮かび上がった。
「ありがとうございます」
『あっ、これでレベル20を超えるのか。なら、ついでにレベル20のイベントまで終了しちゃおう』
「・・はい」
慌てた様子の少年神を、シュンは訝しげに見守っていた。
どうやら、リビング・ナイトの進化というのがちょっとした問題になっているらしい。規則に違反していないなら、速やかに進化させて欲しいのだが・・。
『レベルが20になると、これまでとは色々な部分が変化するよ。新しい技能が追加されるし、ステータスで確認できる能力項目も変化する。加えて、ボクの銘入りのファミリア・カードが発給されるから・・これは、かなり特殊なカードで、持ち主が意識しないと具現化しない。加工できない。偽造できない。盗難できない。もちろん紛失もできないという神具の一種』
「はあ・・」
そんな妙なカードの話よりも、リビング・ナイトの進化について訊きたいのだが・・。
『カード所持者は、各地に設置の掲示板、石碑などの使用権限が与えられる。さらに、カードには名前、所属パーティの他に、討伐記録、到達階層が記される。そしてカードの特殊機能として、迷宮の何処からでも街に帰還転移で戻れるようになる』
「・・それは凄い」
より大胆な探索が可能になるということだ。
『ただし、1度転移をしたら、1度神殿に行ってお布施をしないと転移機能が停止する。これ、ケチって全滅しちゃうパーティが結構いるから気をつけてね』
「・・緊急時の脱出に使えるんですね?」
『そういう事。まあ、発動まで5秒もかかるし、閉鎖領域とかで阻害しちゃう魔物が居るから使えない時もあるけどね』
少年神が注意点を口にする。
「使用の度にお布施をすれば、カードが壊れるような事は無いのですか?」
『回数に制限は無い。強いて言えば、使用者が生きている事・・かな。発動途中で死んじゃうと、未発動で終わるよ』
「・・このカード、ユキシラにも?」
『もちろん、ちゃんと支給してあげる。あれはもう君の従者なんだし、ボクの作品だからね。ちょっぴり急場しのぎ的な何かだけど』
少年神が腕組みをして言った。
「・・その従者というのは、迷宮の外で言う従者とは違うのですか?」
『そうだねぇ・・影者と言った方が相応しいのかな? 主人である君が死ぬと、ユキシラも滅びる。主人が生きていれば、ユキシラは不死だから』
「他の異邦人・・パーティには言えませんね」
『う~ん、まあ低層に留まってる連中は驚くかも? でも、上を目指してる連中は似たような・・従魔だったり、アンデッドの使い魔を操ってるから、あんまり気にしないと思うよ?』
「・・なるほど」
精霊などを使役している者も居るという話だったし、あまり気にしなくても良いのかも知れない。
『ああ、言い忘れたけど、ファミリア・カードに記載される討伐記録ね。あれ、カードを取得してからの記録だから。過去分は含まれない。そして、個体名だけで数は載らない。色々やらかしちゃってる君達も、真っ新な状態から始められるってわけさ』
「・・そうですか」
それにどういう意味があるのか分からないが・・。
『20階から転移する街は、迷宮最後の街だ。人間の街が・・って意味ね? 君達が紛れ込んじゃったようなムジェリの村とかあるんだけど・・この先、人間が多く住んでいる街はもう無いってこと』
「それで、転移ですか?」
『それもあるけど・・まあ、20階層まで来る子は、だいたいレベル25に到達しているから、迷宮の外に行けるようになるからね』
「ああ・・そうか、異邦人はレベル25で外に出られるんでした」
わざわざ迷宮内でなくとも、外に出れば街はいくらでもある。迷宮探索をするにしても、無理をして上層階を目指さなくても良くなるのだ。だから、上の階には異邦人の街が無いのだろう。
『そういうこと。君の場合は3年縛りがあるからまだ出られないけど』
「しかし、ユアとユナは・・ああ、レベルが足りませんね」
レベル20になるだけでも大騒ぎだったのに、この先、5レベルも上げるとなると・・。
『練度が増し増しになってるからねぇ・・あ~あぁ、可哀相にぃ~、双子ちゃんが泣いちゃうねぇ~』
少年神が意地悪そうに笑い、シュンの顔を下から覗き込んでくる。
「仕方がありません。きちんと話し合って、全力で経験値を稼ぐ努力をしてみます」
『・・迷宮を壊さないでね? 何気に、君達やらかし過ぎなんだからね? 焦る必要無いし?』
「そうですね。私としては、どのみち年季が残っていますから・・でも、ユアとユナは急ぎたいのかも知れません」
2人が急ぐようなら、テイプルネフガの氾濫のようなレベルアップが報酬となるイベントを探すしか無い。
『君は年季が明けたらどうするんだい?』
少年神が頭の後ろで手を組んだまま宙へ浮かび上がった。
「一度、故郷へ挨拶に行って、また迷宮に戻って来ようと思っています」
外に出ることが出来たら、アンナに無事なことを報告してから迷宮へ戻るつもりだった。
『・・へぇ? 珍しいね』
上下逆さまに浮かんでいた少年神が軽く眼を見開いた。
「そうですか?」
『そうさ。普通は二度と戻りたくないって言うんだけど?』
「"文明の恵み"のおかげで極めて快適に生活できていますから・・正直、外に行って、どんなにお金を積んだとしても、あれほど快適な風呂は手に入りません!」
シュンはきっぱりと言った。
『・・やれやれ、君って・・どんだけ風呂好きなんだい?』
少年神が苦笑した。
「魔物を狩り、素材を得て、創作をする。今はこの生活に満足しています」
『まあ・・確かに、これ以上無いほど馴染んじゃってるよね』
けらけらと笑い声を立てつつ少年神がシュンの目の前に下りてくる。
「・・それで、リビング・ナイトの事なのですが?」
シュンは正面に神様を見つめて切り出した。
『ぅ・・ああ、そうだったね。うん・・ええとね、確かに規則には違反していないんだけど、ちょっと規格外過ぎるって言うか・・』
少年神の歯切れが悪い。
「神様、駄目なら駄目と仰って下さい。私は規則を破ってまで何かを求めようとは考えていません」
『規則通りなんだよ・・破ってないんだよ・・なんだけども、良いのかなぁ? まあ、良いのかも?・・だって、規則違反してないんだからね?』
何やら自問自答をやっていた少年神だったが、ややあって決心した顔で大きく頷いた。
『はい。降参・・もう後の事とか知りません。迷宮規則に定めた通り、君の要求に応じます。リビング・ナイトにネフガの真核2万8867個をぶっ込んじゃいます』
「ありがとうございます」
シュンは深々と頭を下げた。
『これにより、リビング・ナイトはあれやこれやを飛び越えて、アルマドラ・ナイトに進化するよ。いつものように、どんなものかは頭に刷り込まれるから』
「はい」
『レベル20になっての諸々の変化は、街にある神器に登録をすると知識として与えられるから心配いらない。ああ・・最後に一つだけ』
「はい?」
『カードの所有者は、時々強制招集されるからね?』
「迷宮戦のようにですか?」
『その通り。魔物の討伐だったり、他の依頼事だったり・・まあ様々さ』
どうやら、神様のイベントが色々と用意されているらしい。
「分かりました」
『・・後は、街に行ってからのお楽しみだ』
「街には名前が?」
シュンが訪ねると、
『エスクードさ』
少年神がひらひらと手を振った。
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