厄災の申し子と聖女の迷宮 (旧題:厄災の迷宮 ~神の虫籠~)

ひるのあかり

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第1章

第240話 緊急指令! 女神を救出せよ!

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 マーブル主神曰く、"ややこしい空間"に、輪廻の女神が入り込んでいるのだという。

『闇ちゃんがその気なら簡単に出て来ることが出来るんだけど・・』

「何らかの連絡手段は?」

『無いよ』

 マーブル主神が首を振った。

「・・無い?」

『神力を極限まで減衰させる空間なのさ』

 マーブル主神が溜め息を吐きながら肩を竦めた。

『君の身体に宿っている子達も君から出られない』

「ジェルミーやカーミュ、マリンも?」

 シュンの顔が曇る。

『そうだね』

「サヤリやリールはどうなるんですか?」

 ユアナが訊ねた。どちらも、シュンから力を得ることで存在している。

『もって、10日くらいかな』

「・・そんな!」

 ユアナが顔色を変えた。

『いや、心配要らない』

「神様が何か助けて下さるんですか?」

『ボクには無理』

 マーブル主神が顔の前で手を振った。

「・・はい?」

『10日で戻れなかったら、いくらシュン君でも死んじゃいます』

 マーブル主神が、ぺろっと舌を出した。

「神様・・?」

 ユアナの双眸が冷え冷えと底光りする。

『おっと・・ちゃんと聴こうか? まだ話の続きがあるんだからね?』

 マーブル主神が大急ぎで、オグノーズホーンの後ろへ逃げ込んだ。

「その空間の広さはどの程度です?」

 シュンは、オグノーズホーンに訊ねた。

「果ては無い・・とされている」

 オグノーズホーンが答えた。この場の誰にも正確な空間の規模は分からないらしい。こうしている間にも、変容しているのだという。

「呼吸は可能ですか?」

「この世界より、少し瘴気が強いだけだ。呼吸はできる」

「それで、どうして10日で死ぬことに?」

 シュンは首を傾げた。仮に空気が無い場所でも、工夫次第で10日以上は生存できるが・・。

「空間自体が滅する・・消えて無くなるまでの期限が10日ほどなのだ」

 オグノーズホーンが言った。

「・・なるほど」

 空間そのものの寿命が10日程度ということか。

『そういうこと。なので、10日・・まあ安全を見て7日以内に、闇ちゃんを見つけて連れ帰ってくれないといけない』

「居場所の手掛かりは無いのですか?」

『無いんだ』

「魔導具は使えるのですか?」

『う~ん・・すぐに魔力が薄れて消えちゃうからねぇ。神力ほどじゃないけど・・あ、霊力も似たようなものだからね?』

「ずいぶんと不便な空間ですね」

『虚空・・って呼ばれる由縁だねぇ。厳密には、虚空寸前って感じだけど』

「虚空ですか・・」

 シュンは思案顔で口を噤んだ。

「ファミリア・カードみたいなもので、女神様に手紙を届けられないんですか?」

 ユアナが訊ねる。

『神具は、普通の魔導具より機能しないね』

 マーブル主神が首を振る。

「輪廻の女神様は、凶神と戦闘中なのですか?」

『それも分からない。ただ、このままだと、闇ちゃんが空間ごと消されちゃう』

「・・分かりました」

 シュンは頷いた。

『君なら、そう言ってくれると思ったよ。正直、君以上に適性がある者は居ない・・というより、ぶっちゃけ頼める相手が居ません』

 マーブル主神が苦笑する。神々は信用できない上に、神力が使えない空間に行かせる事は出来ない。となると、オグノーズホーンか、シュンか、どちらかに命じるしかないのだった。

「空間内に存在しているのは、輪廻の女神様と凶神だけなのですね?」

『他に居たらビックリだよ』

「それなら・・居所を見つけることは難しくありません。後はどうやって呼ぶか・・」

『近付いて声を掛けるしかないと思うけど?』

 マーブル主神が無責任な事を口にする。その顔を、ユアナがじろりと睨んだ。

「・・魔導具は、一瞬なら機能するのですね? 魔法も・・数秒しか効果を保てないのですか?」

『そうだね。もし、アルマドラ・ナイトの事を考えているなら・・やっぱり3秒くらいじゃないかな』

「そうですか」

 3秒あれば、アルマドラ・ナイトによる一撃を放つことは出来るが、それでは救出にならない。

「魔力を用いない物はどうでしょう?」

『それは大丈夫。問題無いよ』

 魔力を使用せずに、手で握って動かす武器や道具なら虚空の影響を受けないらしい。

「・・主神様も、女神様の救出を手助けして頂けるのですか?」

 シュンは、マーブル主神の眼を見つめた。

『も、もちろんさ! できる限りのことはやるよ! ただ、正直なところ、ボクが向こうへ行っても役立たずなんだ! あっという間に神力を失ってしまうからね?』

「まだ考えが纏まっていませんが・・何らかの助力をお願いするかもしれません。輪廻の女神様をお救いするために・・もちろん、主神様の身体に危険が及ばない範囲での事です」

『任せてよ! 闇ちゃんを救出するためだ! 協力は惜しまないよ!』

 マーブル主神が言った。

「さすがは主神様です。後は・・」

 シュンはオグノーズホーンを見た。

「何か、儂でも手伝える事があるのか?」

 オグノーズホーンが、わずかに笑みの浮かべて問いかけた。シュンとマーブル主神のやり取りを愉しんでいるようだった。

「虚空への入口を作ることはできますか?」

「できる。ただし、維持できるのは十数秒といったところだな」

 オグノーズホーンの答えを聴いて、シュンはほっと安堵の息を吐いた。

「十分です」

「どうすれば良い?」

「合図で空間を裂き、用意の魔導具を虚空へ投げ入れて下さい」

「その程度なら問題無い」

「よろしくお願いします」

 シュンは、オグノーズホーンに向かって頭を下げた。

「シュンさん、私も何か手伝える?」

 ユアナがシュンの袖を引いた。

「やって貰いたいことがある」

「何をすれば良い?」

 ユアナが表情を明るくした。

「1つは魔導具造りだ。これはムジェリにしか頼めない。もう1つは・・いや、細かな打合せは魔導具が完成してからだな」

 シュンは考えを纏めながら言った。

『大丈夫? あんまり時間が無いよ?』

 マーブル主神が落ち着かない様子で訊ねる。

「間に合わせます。今日中に魔導具を完成させ、明日には決行します。準備が整った時に連絡をしますので、私とユアナを神界に招いて下さい」

『分かった。ごめんね、急に虚空化しちゃって・・こんなに時間が無いって分からなかったんだ。本当はもっと余裕があるはずだったから・・何だか焦っちゃって』

 マーブル主神が謝罪を口にした。

「確認しますが、輪廻の女神様にこちらの世界へ戻って来て頂ければ良いのですね? 凶神などはそのまま放置で?」

 シュンは念を押すように訊ねた。

『もちろんさ! 闇ちゃんさえ、無事に戻ってくれれば何の文句も無い! 使徒シュン! 主神として命じる! あらゆる手立てを講じて、虚空を彷徨う輪廻の女神を救出せよ! そのためには、ボクはどんな協力も惜しまない! あらゆる手を尽くして闇ちゃんを救出するんだ!』

 マーブル主神が勇ましく宣言した。



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