厄災の申し子と聖女の迷宮 (旧題:厄災の迷宮 ~神の虫籠~)

ひるのあかり

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第1章

第250話 ピノンの仇討ち!

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「やはり、すでに移民を進めていたか」

 シュンは、画面に映し出された無数の移民船を見ながら呟いた。

 五隻の巨大移民船が、下半分を地面に埋めた状態で、等間隔に円を描いて並んでいた。
 円の中央には、大きな塔が建設されている。まだ仕上がりは半分ほどだろうか。周囲を、飛行する壺が無数に飛び交い、鋼材などを吊して運んでいた。

『ボッス、"P号"使う?』

『ボッス、3分で配達』

 ユアとユナが"護耳の神珠"で話し掛けてきた。
 2人はすでにルドラ・ナイトを出し、"U3号"の格納車両内で待機している。

「"P号"は視界を悪くする。異界神に逃げられる怖れがある」

 シュンは、巨大移民船や飛行する壺、建設中の塔を観察しながら答えた。

 移民船は下部を地面に埋めた上に、船の錨を想わせる物で地面に固定してあった。
 箱状の建物を無数に積み重ねたような上半分には、無数の照明が灯っていたが動きは見られない。

「すべて、打ち合わせた通りに行う。変更は無い」

『アイアイ』

『ラジャー』

 ユアとユナがいつもの返事で応えた。

「ミリアム、ジニー、ディーン、"U3号"を任せる」

「了解です」

「頑張るわ!」

「留守くらい守ってみせるよ」

 "ガジェット・マイスター"の3人が引き締まった表情で頷いた。ジニーとディーンが身を翻して、機関車両へと走る。ミリアムだけが指揮車に残った。

「よし・・」

 シュンは、霊気機関車の全車両に通じる車内放送用の通話器を手に取った。
 左手に、ユアとユナから託された台詞帳を握る。

『"ネームド"のシュンだ。これより、作戦名"ガジェット・パーティ"を開始する。本作戦は"狐のお宿""竜の巣"そして"狩人倶楽部"によるカテナ・レギオン戦だ。各人は、各パーティのリーダー、各レギオンの長に指示を仰いで行動せよ』

 シュンは、台詞帳を捲った。

『本作戦の概要は、すでに各レギオンの長から伝えられているだろうが、改めて全員に伝えておく。我々は、敵中央へ"U3号"で突入し、ルドラ・ナイトを投下。敵のドールを排除しつつ、異界の全施設を破壊する』

 シュンは、台詞帳を捲った。

『敵については、異界から侵攻して来ているという事実以外、何も分かっていない。しかし、奴等こそ、多くの神々を洗脳し、地上世界に大いなる災いをもたらした元凶である』

 シュンは、台詞帳を捲った。

『元から暮らす地上の人々を排除し、異界から移民船で侵入して、力尽くで入植を行っている異界の者達の暴虐を、これ以上許すわけにはいかない。本作戦をもって、異界からの侵入者達を粉砕し、散って行った神々、多くの罪の無い人々の無念を晴らす』

 シュンは、台詞帳を捲った。

『第一目標は、移民船。第二目標は、中央塔。邪魔をする敵ドールや飛行物体はすべて破壊しろ。帰投の合図は"U3号"の警笛だ。戦いに夢中になって聞き逃すなよ』

 シュンは、台詞帳を捲った。白紙だったので閉じた。
 半身に振り返って見守っていたミリアムに、軽く頷いて見せる。

『では・・"ガジェット・パーティ"を開始しよう。これより、敵中央へ突入する』

 シュンは通話器を置くと、転移筒へ向かった。

隠密装置ステルス・ヴェール解除。全霊気機関点火・・5、4、3、2・・フルスロットル。霊気機関マーブル・ワン点火・・マーブル・ツゥ点火・・急降下します』

 ミリアムが物静かな声音で状況を伝え始める。

 霊気機関車"U3号"は、異界の移民船団を見下ろす遙かな高高度から、真っ直ぐに急降下を開始した。存在を隠蔽していた全ての装置を切り、降下速度と防護壁に霊力を集中している。

 黄金光に包まれた巨大な霊気機関車は、地上に見える異界船団めがけて凄まじい速度で急降下をすると、錐もみ状に回転しながら中央塔めがけて突っ込んだ。


 ゴオォォォン・・


 重い衝撃音と共に、霊気機関車が揺れる。

『急速上昇っ!』

 ミリアムの声と共に、粉砕した中央塔の残骸を飛び散らせながら、霊気機関車"U3号"が上空めがけて急上昇を開始した。 
 中央塔への突入で失われたのか、"U3号"の後部5両が失われて短くなっていた。


 ポォォォォォォーーーー・・


 ポォォォォォォーーーー・・


 ポォォォォォォーーーー・・


 のんびりとした大きな警笛が3度鳴り響いた。 


 途端、格納庫が並んだ格納車両で、左右全ての開閉扉が開き、白銀のルドラ・ナイトが、一斉に飛び出した。陽光を浴びてキラキラと銀光を滑らせるルドラ・ナイトを残して、霊気機関車"U3号"が遙かな高空めがけて走り去って行く。



『おう! 取り残された奴はいねぇな?』

 アレクの呼び掛けに、

『"竜の巣"95体、確認しました』

 ロシータが答える。

『"お宿"一番隊150体、二番隊220体、三番隊215体、確認済みです』

 タチヒコが報告する。

 680体の全ルドラ・ナイトが、上昇する"U3号"からの出撃に成功していた。

 高度は、わずか500メートルほどだ。
 霊気機関車"U3号"の上昇速度が速すぎて、やや予想より高い位置になったが、ぶっつけ本番でやったわりに上手くいった方だろう。

『地上から例の光弾よ。敵のドールが出て来たわ。パーティ単位で散開して応戦っ!』

 アオイの指示が飛ぶ。

 飛行する壺のような乗り物に、異界の甲胄人形が並び立って、光弾を撃ちながら空中のルドラ・ナイトへ迫って来る。

 さらに、地上では大型の箱型の物体が次々に出現して、上空めがけて大型の銃器を向けて光弾を連射する。
 移民船の外縁部からも、茶褐色の甲胄人形が姿を現して、ルドラ・ナイトを狙って光弾を撃ち始めた。
 ルドラ・ナイトの方も、ぎりぎりで光弾を回避しながら撃ち返しつつ降下を続ける。

 その時、

『デック・ドール、出陣せよ~』

『デック・ドール、起動せよ~』

 カテナ・レギオンが共有する通話網に、ユアとユナの声が賑やかに聞こえてきた。

 "U3号"が中央塔に突入した際、地上へ投棄した車両の壁が弾け飛び、濃緑色のずんぐりとした体型の甲胄人形が現れた。かつて異界で鹵獲して持ち帰った甲胄人形をムジェリが改修したものだ。

 筒状の胴に半球形の頭部、両腕の先は光弾を放つ銃器があるだけ・・。酷く単純な造形の甲胄人形だった。
 元々丈夫に造られていた物をさらに頑丈に、装甲の厚みをひたすら増してある。
 中に詰まっていた異界人の"脳"は排除し、石人形ゴレムなどと同様、命令に忠実な魔導人形として動くようにしてあった。

 ユアがポイポイ・ステッキに収納していたデック・ドールを外へ出し、ユナがデック・ドールを起動させる。

 ほどなく、崩壊した中央塔の残骸を掻き分けて、大量の濃緑の甲冑人形が外へ溢れ出した。

 その数、999体×20。

 ユアとユナが、血涙を流さんばかりに恨み言を並べつつ、頑張って空けたポイポイ・ステッキに詰め込んで運んだ鹵獲人形・改が、敵中ど真ん中で一斉に排出された。

『ピノンの仇を討て!』

『ピノンの無念を晴らせ!』

 気合いの入った2人の声に圧され、地上に溢れ出したデック・ドールが一斉に光弾による攻撃を開始した。

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