12 / 55
1章 再生の時
第12話 期待と落胆
しおりを挟む
守梨が晩ごはんを食べ終え、2階のキッチンで洗い物をしていると、インターフォンが鳴った。時間的に祐ちゃんだろうか。守梨は慌てて手を洗い、インターフォンを受けた。
「はい」
「俺、祐樹」
「すぐ行くわ」
守梨はインターフォンを切ると、1階に降りて玄関を開ける。立っていた祐ちゃんは守梨の顔を見て、少しほっとした様に息を吐いた。
「顔色、ようなったな」
「え、私そんな顔色悪かった?」
守梨が意表を突かれて慌てると、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「少しな。あんま食べてへんかったやろ」
「……うん、まぁ」
今度は守梨が苦笑する番だった。祐ちゃんの前で取り繕うつもりは無かったが、あまり心配を掛けたく無いと言う思いもある。自分はそんなに酷かったのかと、情けない気持ちが沸き上がる。
「祐ちゃん、いつもごめん」
「何が? それより邪魔してええか?」
「あ、うん、もちろん」
祐ちゃんは何も無かった様に言うと、スニーカーを脱いで上がって来る。
「おやっさんとお袋さんと話したいから、店の方、ええか?」
「うん。でも話って」
「うん、ちょっとな」
守梨は首を傾げながらも、祐ちゃんと連なってお店の方に向かう。住居エリアとお店は廊下で繋がっていた。普段は施錠しているドアを開けると、厨房に出た。サンダルが置かれているので、ふたりはそれを履く。
祐ちゃんは厨房をぐるりと見渡し「こっちや無いな」と呟き、フロアに向かう。守梨も続いた。
そしてフロアに出てすぐ「あ、いてはった」と、顔を綻ばせた。祐ちゃんの目線の先は厨房と繋がるドアの付近。昨日両親がいると祐ちゃんが教えてくれたところと変わらなかった。
どうやら両親は昨日からそこを動いていない。守梨が昨日今日と話しかけていた場所には、両親がいてくれたということだ。どこにいても両親はきっと話を聞いてくれていただろうが、、守梨はほっとする。
祐ちゃんは両親がいると言う場所に話しかけている。時々相槌を打ちながら。そして。
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げた。どういうことだ。祐ちゃんは幽霊が見えても、声は聞こえないと確かに言っていたはずだ。なのに今、祐ちゃんは両親と会話をしていた様に見える。
祐ちゃんが右手をお父さんに憑依させ、しんどい思いをしていたのはまだ記憶に新しい。そうしてやっと意思疎通が成り立つのだと思っていたのだが。
守梨が呆然と祐ちゃんを見ていたからか、祐ちゃんは守梨を安心させるかの様に口角を上げた。
「実はな、先生にこれ作ってもろて来てん」
そう言って祐ちゃんが青いシャツの胸ポケットから出したのは、濃紺のお守り袋だった。
「中は開けられへんけど、これがあったら、俺でも幽霊と話できんねん」
「先生って?」
祐ちゃんだって社会人なのだから、学校などの先生のことでは無いだろう。
「霊能者の先生。俺が幽霊見えるって分かってから、何かあった時には世話になってんねん。大国町に住んではる」
「初めて聞いた……」
なんとなくショックを受けて呟くと、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「何や言うたら引かれると思ってな」
「引かへんよ。当たり前やん」
そう思われることが心外だった。秘密のひとつやふたつぐらい、誰にだってあるだろう。だが、守梨は祐ちゃんが幽霊を見ることができることを知っている。なら霊能者と呼ばれる人と関係があっても驚きやしない。
それと同時に、祐ちゃんには自分が知らないところで苦労があったのだろうと察せられた。守梨はこれまで色んな話を祐ちゃんに聞いてもらっていたのだが、祐ちゃんにはきっと守梨に言えないこともあったのだろう。それはきっと、守梨に嫌な思いをさせないためだ。
「祐ちゃん、私、怖いこととかあれへんから、もし祐ちゃんが良かったらお話して欲しい。私ばっかり聞いてもろて頼って、悪いもん。私や頼り無いと思うけど」
守梨が訴えると、祐ちゃんは面食らった様に目を白黒させる。
「守梨を頼り無いなんて思ったことあれへんよ。ただ、幽霊の話なんか、聞いてもおもんないやろ」
「そんなこと無い。もちろんいちばん頼りになるんは、その「先生」やろうし、私は話を聞くことしかできひんかも知れんけど」
自分が幽霊のことに関して役立たずなんてことは百も承知だ。だが話をすることで、祐ちゃんが少しでも楽になったり気が晴れたりするのなら、それぐらいはできると思うのだ。
祐ちゃんはふわりと頬を和ませた。
「ありがとうな」
「……ううん」
お礼を言われたことが嬉しくて、守梨ははにかんだ。
「あ、ねぇ祐ちゃん、そのお守り、それがあったらお父さんとお母さんの声が聞こえる様になるってこと?」
「そうやで」
「じゃ、じゃあさ、それがあったら、私もお父さんお母さんと、お話できる様になるん?」
「どうやろ、俺は霊感があるからいけんねん。守梨には霊感が無いから、あかんかも知れへん」
「やってみて、ええ?」
「うん」
祐ちゃんはあっさりと守梨にお守りを渡してくれた。守梨は祈る様にお守りを両手で包み込み、両親がいるはずのところに目線を向ける。やはり姿は見えないが、せめて声だけでも聞くことができたら。期待と願いを込めて、守梨は両親を呼んだ。
「お父さん、お母さん……?」
だが、守梨の耳には何も届かない。響かない。やはり霊感の無い守梨には、お守りは意味が無いのか。守梨は落胆した。
「やっぱり……あかんかぁ……」
泣き笑いになってしまう守梨の肩を、祐ちゃんがそっと撫でてくれた。
「でも、守梨の話は聞いてくれてはるから。もしおやっさんたちが守梨に言いたいことがあったら、俺が伝えるから」
「……うん」
守梨は溢れて流れそうになった涙を、手の甲でそっと拭った。
「はい」
「俺、祐樹」
「すぐ行くわ」
守梨はインターフォンを切ると、1階に降りて玄関を開ける。立っていた祐ちゃんは守梨の顔を見て、少しほっとした様に息を吐いた。
「顔色、ようなったな」
「え、私そんな顔色悪かった?」
守梨が意表を突かれて慌てると、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「少しな。あんま食べてへんかったやろ」
「……うん、まぁ」
今度は守梨が苦笑する番だった。祐ちゃんの前で取り繕うつもりは無かったが、あまり心配を掛けたく無いと言う思いもある。自分はそんなに酷かったのかと、情けない気持ちが沸き上がる。
「祐ちゃん、いつもごめん」
「何が? それより邪魔してええか?」
「あ、うん、もちろん」
祐ちゃんは何も無かった様に言うと、スニーカーを脱いで上がって来る。
「おやっさんとお袋さんと話したいから、店の方、ええか?」
「うん。でも話って」
「うん、ちょっとな」
守梨は首を傾げながらも、祐ちゃんと連なってお店の方に向かう。住居エリアとお店は廊下で繋がっていた。普段は施錠しているドアを開けると、厨房に出た。サンダルが置かれているので、ふたりはそれを履く。
祐ちゃんは厨房をぐるりと見渡し「こっちや無いな」と呟き、フロアに向かう。守梨も続いた。
そしてフロアに出てすぐ「あ、いてはった」と、顔を綻ばせた。祐ちゃんの目線の先は厨房と繋がるドアの付近。昨日両親がいると祐ちゃんが教えてくれたところと変わらなかった。
どうやら両親は昨日からそこを動いていない。守梨が昨日今日と話しかけていた場所には、両親がいてくれたということだ。どこにいても両親はきっと話を聞いてくれていただろうが、、守梨はほっとする。
祐ちゃんは両親がいると言う場所に話しかけている。時々相槌を打ちながら。そして。
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げた。どういうことだ。祐ちゃんは幽霊が見えても、声は聞こえないと確かに言っていたはずだ。なのに今、祐ちゃんは両親と会話をしていた様に見える。
祐ちゃんが右手をお父さんに憑依させ、しんどい思いをしていたのはまだ記憶に新しい。そうしてやっと意思疎通が成り立つのだと思っていたのだが。
守梨が呆然と祐ちゃんを見ていたからか、祐ちゃんは守梨を安心させるかの様に口角を上げた。
「実はな、先生にこれ作ってもろて来てん」
そう言って祐ちゃんが青いシャツの胸ポケットから出したのは、濃紺のお守り袋だった。
「中は開けられへんけど、これがあったら、俺でも幽霊と話できんねん」
「先生って?」
祐ちゃんだって社会人なのだから、学校などの先生のことでは無いだろう。
「霊能者の先生。俺が幽霊見えるって分かってから、何かあった時には世話になってんねん。大国町に住んではる」
「初めて聞いた……」
なんとなくショックを受けて呟くと、祐ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「何や言うたら引かれると思ってな」
「引かへんよ。当たり前やん」
そう思われることが心外だった。秘密のひとつやふたつぐらい、誰にだってあるだろう。だが、守梨は祐ちゃんが幽霊を見ることができることを知っている。なら霊能者と呼ばれる人と関係があっても驚きやしない。
それと同時に、祐ちゃんには自分が知らないところで苦労があったのだろうと察せられた。守梨はこれまで色んな話を祐ちゃんに聞いてもらっていたのだが、祐ちゃんにはきっと守梨に言えないこともあったのだろう。それはきっと、守梨に嫌な思いをさせないためだ。
「祐ちゃん、私、怖いこととかあれへんから、もし祐ちゃんが良かったらお話して欲しい。私ばっかり聞いてもろて頼って、悪いもん。私や頼り無いと思うけど」
守梨が訴えると、祐ちゃんは面食らった様に目を白黒させる。
「守梨を頼り無いなんて思ったことあれへんよ。ただ、幽霊の話なんか、聞いてもおもんないやろ」
「そんなこと無い。もちろんいちばん頼りになるんは、その「先生」やろうし、私は話を聞くことしかできひんかも知れんけど」
自分が幽霊のことに関して役立たずなんてことは百も承知だ。だが話をすることで、祐ちゃんが少しでも楽になったり気が晴れたりするのなら、それぐらいはできると思うのだ。
祐ちゃんはふわりと頬を和ませた。
「ありがとうな」
「……ううん」
お礼を言われたことが嬉しくて、守梨ははにかんだ。
「あ、ねぇ祐ちゃん、そのお守り、それがあったらお父さんとお母さんの声が聞こえる様になるってこと?」
「そうやで」
「じゃ、じゃあさ、それがあったら、私もお父さんお母さんと、お話できる様になるん?」
「どうやろ、俺は霊感があるからいけんねん。守梨には霊感が無いから、あかんかも知れへん」
「やってみて、ええ?」
「うん」
祐ちゃんはあっさりと守梨にお守りを渡してくれた。守梨は祈る様にお守りを両手で包み込み、両親がいるはずのところに目線を向ける。やはり姿は見えないが、せめて声だけでも聞くことができたら。期待と願いを込めて、守梨は両親を呼んだ。
「お父さん、お母さん……?」
だが、守梨の耳には何も届かない。響かない。やはり霊感の無い守梨には、お守りは意味が無いのか。守梨は落胆した。
「やっぱり……あかんかぁ……」
泣き笑いになってしまう守梨の肩を、祐ちゃんがそっと撫でてくれた。
「でも、守梨の話は聞いてくれてはるから。もしおやっさんたちが守梨に言いたいことがあったら、俺が伝えるから」
「……うん」
守梨は溢れて流れそうになった涙を、手の甲でそっと拭った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる