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4章 再開に向かって
第6話 力を自覚するために
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守梨は、もう祐ちゃんの力は充分なのでは無いかと思い始めていた。祐ちゃんにとってはまだなのかも知れないが、それは祐ちゃんの主観である。
松村さんがドミグラスソースを戻してくれたと言うことは、少なくともその分は認めてくれているということだ。
ドミグラスソースは松村さんにとっても、きっと大切なものだ。「テリア」から株分けされて、お父さんが逝去した今、形見とも言える。祐ちゃんはそれを渡すに足りると、松村さんに信じてもらえたということなのだ。
お父さんだってそうなのでは無いだろうか。ほぼ毎日祐ちゃんに料理指導をし、祐ちゃんの頑張りと成長をいちばん側で見てくれている。
そのお父さんが祐ちゃんにビーフシチューを教えたということは、それだけの能力が祐ちゃんにあると知っているということだ。
そもそもお父さんは祐ちゃんが「テリア」の料理人になることを歓迎しているのだから、当たり前のことである。
となると、あと祐ちゃんに必要なものはなにか。おこがましいとは思うが、守梨は「自信」なのでは無いかと考える。完璧主義な祐ちゃんだからこそ、きっと理想は高いのだ。
ならそれを感じるにはどうしたら良いのか。
先日、「テリア」に降りかかった梨本という災難の渦中、ご常連の榊原さんご夫妻に食べてもらい、好評をいただけた。それは祐ちゃんの励みになったと思う。美味しいと言ってもらえて、祐ちゃんは嬉しそうな顔をしていたはずだ。
なら、同じ状況を作り出すというのはどうだろうか。
次は榊原さんご夫妻だけでは無く、他のご常連や、松村さん、良かったら祐ちゃんの両親も。
「なぁ祐ちゃん、今度いろんな人ご招待して、プレオープンみたいなことやってみぃひん?」
「え?」
祐ちゃんは戸惑った様な顔を見せた。守梨は思い付いたことを説明する。すると祐ちゃんはかすかに顔をしかめてしまった。
「いや、まだ俺の腕はそこまでや無いやろ」
「でも、榊原さんらには、祐ちゃんからお願いしてたやん?」
「うん、率直な意見が聞きたいなて思ったからな」
「褒めてもろたやん」
「そやな。そやけど、榊原さんらは言うても普通の人やろ。松村さんとなると、やっぱり難しいわ」
「でも土曜日は賄い食べてもろてるんやろ?」
「それな、ダメ出しされたことも無いけど、褒めてもろたことも無い」
「そうなん?」
守梨は意外に思って、目を丸くした。松村さんは思ったことを気遣いつつもはっきりと言ってくれる印象があったからだ。何か理由があるのだろうか。
だが、松村さんは祐ちゃんにドミグラスソースを預けてくれたのだから、それが全てなのでは無いだろうか。祐ちゃんは当事者だから、見えにくいのかも知れない。
守梨はそれを祐ちゃんに言うべきだろうか。しかし、もしかしたら松村さんに考えがあるのかも知れないと思い、控えることにした。それが祐ちゃんのためになるのかどうか、守梨には分からないのだが。
「でもそれやったら、なおさら食べてもらわへん? 賄いって、その日その時に余ったり半端になってるやつとか使って作るんやろ? そういうんや無くて、祐ちゃんが作る「テリア」のお料理、食べてもらおうよ」
祐ちゃんは考え込む。いつもの冷静な頭の中で、様々な思いがうごめいているのだろう。守梨は固唾を飲んで待つ。そして。
「……分かった。やってみよか」
祐ちゃんの目には、輝くものがある様に見えた。腹を決めたのだ。
「うん」
絶対に祐ちゃんやったら大丈夫。口に出せば気休めになってしまいそうなそんなせりふを、守梨は心の中で強く思った。
それから守梨は松村さんの空き時間を見計らって連絡をした。日曜日なら大丈夫、夫婦で伺うとお返事をもらった。
そして榊原さんご夫妻も、日曜日で大丈夫だということだった。祐ちゃんの両親は、祐ちゃんが聞いてくれるとのことだ。
そして全員の返事が出揃い、さっそく翌週の日曜日に、披露することに決まったのだった。
松村さんがドミグラスソースを戻してくれたと言うことは、少なくともその分は認めてくれているということだ。
ドミグラスソースは松村さんにとっても、きっと大切なものだ。「テリア」から株分けされて、お父さんが逝去した今、形見とも言える。祐ちゃんはそれを渡すに足りると、松村さんに信じてもらえたということなのだ。
お父さんだってそうなのでは無いだろうか。ほぼ毎日祐ちゃんに料理指導をし、祐ちゃんの頑張りと成長をいちばん側で見てくれている。
そのお父さんが祐ちゃんにビーフシチューを教えたということは、それだけの能力が祐ちゃんにあると知っているということだ。
そもそもお父さんは祐ちゃんが「テリア」の料理人になることを歓迎しているのだから、当たり前のことである。
となると、あと祐ちゃんに必要なものはなにか。おこがましいとは思うが、守梨は「自信」なのでは無いかと考える。完璧主義な祐ちゃんだからこそ、きっと理想は高いのだ。
ならそれを感じるにはどうしたら良いのか。
先日、「テリア」に降りかかった梨本という災難の渦中、ご常連の榊原さんご夫妻に食べてもらい、好評をいただけた。それは祐ちゃんの励みになったと思う。美味しいと言ってもらえて、祐ちゃんは嬉しそうな顔をしていたはずだ。
なら、同じ状況を作り出すというのはどうだろうか。
次は榊原さんご夫妻だけでは無く、他のご常連や、松村さん、良かったら祐ちゃんの両親も。
「なぁ祐ちゃん、今度いろんな人ご招待して、プレオープンみたいなことやってみぃひん?」
「え?」
祐ちゃんは戸惑った様な顔を見せた。守梨は思い付いたことを説明する。すると祐ちゃんはかすかに顔をしかめてしまった。
「いや、まだ俺の腕はそこまでや無いやろ」
「でも、榊原さんらには、祐ちゃんからお願いしてたやん?」
「うん、率直な意見が聞きたいなて思ったからな」
「褒めてもろたやん」
「そやな。そやけど、榊原さんらは言うても普通の人やろ。松村さんとなると、やっぱり難しいわ」
「でも土曜日は賄い食べてもろてるんやろ?」
「それな、ダメ出しされたことも無いけど、褒めてもろたことも無い」
「そうなん?」
守梨は意外に思って、目を丸くした。松村さんは思ったことを気遣いつつもはっきりと言ってくれる印象があったからだ。何か理由があるのだろうか。
だが、松村さんは祐ちゃんにドミグラスソースを預けてくれたのだから、それが全てなのでは無いだろうか。祐ちゃんは当事者だから、見えにくいのかも知れない。
守梨はそれを祐ちゃんに言うべきだろうか。しかし、もしかしたら松村さんに考えがあるのかも知れないと思い、控えることにした。それが祐ちゃんのためになるのかどうか、守梨には分からないのだが。
「でもそれやったら、なおさら食べてもらわへん? 賄いって、その日その時に余ったり半端になってるやつとか使って作るんやろ? そういうんや無くて、祐ちゃんが作る「テリア」のお料理、食べてもらおうよ」
祐ちゃんは考え込む。いつもの冷静な頭の中で、様々な思いがうごめいているのだろう。守梨は固唾を飲んで待つ。そして。
「……分かった。やってみよか」
祐ちゃんの目には、輝くものがある様に見えた。腹を決めたのだ。
「うん」
絶対に祐ちゃんやったら大丈夫。口に出せば気休めになってしまいそうなそんなせりふを、守梨は心の中で強く思った。
それから守梨は松村さんの空き時間を見計らって連絡をした。日曜日なら大丈夫、夫婦で伺うとお返事をもらった。
そして榊原さんご夫妻も、日曜日で大丈夫だということだった。祐ちゃんの両親は、祐ちゃんが聞いてくれるとのことだ。
そして全員の返事が出揃い、さっそく翌週の日曜日に、披露することに決まったのだった。
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