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彼を含む”大人”について
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※今回の話の中にはR18表現を含みます
「じゃあ俺は仕事に行くけど、教えたことちゃんと守って過ごすこと。良いね?」
ここ数日、コウの様子がおかしい。
以前から廉の素性がばれないようにいくらか配慮をしていたのはもちろんあったのだろうが、前回出かけた後から以前にも増してこの家を堅牢にし始めたのだ。
それも不思議なことに廉が逃げ出さないように、と言う方向ならまだ納得がいくのだが、コウはここ数日でどちらかというとこの家に侵入者が入らないように用意をし始めたのだ。
先日買った熊のぬいぐるみには何かあったときにボタンを押すだけでコウの携帯に通知が行くようになっている発信器を仕込み、電話機は留守電に切り替わった段階で受話器を取らなくてもこちらの声を拾うように改造し、玄関の鍵に何かよく分からない細工をしていた。
「(……お昼ご飯、なんだっけ)」
ぬいぐるみを抱きながらぼんやりとテレビを眺める。しかし平日の昼前ともなると、どのチャンネルに回しても主婦向けのテレビショッピングしか映らなくなってしまう。
完成しているご飯であれば冷蔵庫、鍋物はコンロに置かれた鍋に毎日用意されている昼ご飯を覗きにキッチンへ向かう。まだ正午にもなっていないのですぐに食べるわけではないが、気になったものはそのときに確認したくなってしまう性分なのだ。
「(……豚肉の……なんだっけこれ)」
粉チーズと卵を付けて焼く料理だ。少し前に晩ご飯で出てきたときに名前を聞いたことはあるのだが、カタカナの聞き慣れない名前で上手く覚えられなかった。美味しかったことはよく覚えている。それと付け合わせの海藻サラダ、晩ご飯の残り物の豚汁、冷凍庫には小分けにしたご飯が凍っているのでそれを出せば完璧だ。恐らく同じ様なメニューがコウの弁当には入っているのだろう。
不意に玄関の方からかちりと鍵の開く音がする。あり得ない時間の帰宅に首を傾げて玄関に向かうと、丁度入ってきたところで丁寧に鍵を閉めた男は振り返ってにっこりと笑った。
「やあ、おちびちゃん」
「……え、」
コウではない、ということに気づくには少し遅すぎた。
コウよりも少し背の高い目の前の男はたれ目を細めてにっこりと笑い、音もなく詰め寄り動揺で動けない廉の首を掴んだ。
「コウってばやっぱり不用心だなあ、家でも繋いでないなんて」
「あ、……っ!」
ぎり、と容赦なく手に力を込めていく男に抵抗らしい抵抗も出来ずに気道が絞められていく。
何が起きているのかすら脳で処理できない。目の前の男はどうやってここに入ったのか、何故彼はコウのことを知っているのか、自分のことを知っているのか、どうしていきなり首を絞められているのか。
「ガキのくせにすましてると思ってたけど、ここまでしても逃げないって。やっぱりお前根っからの奴隷なんだね」
掴んでいるのは片手だけ、壁に押しつけられているわけでも両手でしっかり拘束されているわけでもない。それでも、逃げた先で食らう苦痛と恐怖に支配された体は今から逃げようという思考を持たない。
「……、」
見ず知らずの他人に言われなくても、そんなこと自分が一番よく分かっている。逃げたければ逃げればいいのに、その環境が整っているのに、今日この時まで廉がこの家に留まっていたのはそういうことだ。
逃げたらもっと酷いことをされると、教え込まれた体なのだ。
「ああつまんない! 僕お前みたいな奴嫌いなんだよね」
突然首を解放して廉を突き飛ばす。床に仰向けで転んだ廉を汚いものでも見るような目で見下ろし、横を通り過ぎて部屋の中へ入っていった。
慌てて起きあがったものの、どうすればいいのかまるで分からずに部屋を見渡す男を呆然と眺める。
「うん? ああそうか、お前僕のこと分からないよね」
先程まで廉が座っていた場所に腰を下ろして同じようにリモコンでチャンネルを弄り、やはり同じようにテレビショッピングしか映らずにリモコンを放り出す。
「俺は狼(ろう)。一応関係としてはコウの友人、かな」
不意に着信音が鳴り響く。部屋の片隅に置いてある電話の液晶がぴかぴかと光り、着信をけたたましく知らせていた。
狼が伺うようにちらりとこちらを見るが、普段から廉一人の留守中は電話にでないように、と教えられているため動こうにも動けない。
そうこうしているうちに着信音は途切れ、留守電の録音モードに切り替わった。
「……廉?」
ぴく、と体の神経が見知った声に反応する。電話の相手がコウだと分かった瞬間電話に駆け寄ったが、寸でのところで背後から伸びてきた腕に捕まった。
「つかまえた」
「ぁ、やっ」
そのままカーペットに押し倒され、何度かこちらに呼びかけるコウの声も空しく受話器を取ろうとした手は空を切った。
「ご主人はエスパーかな? 感づくのが早いみたいだ」
後頭部を掴まれ顔が潰れるのではないかと思うほどの力でカーペットに押しつけられる。必死になってもがいたが、頭も押しつけられている状況で腕を振り回す以外の何かが出来るわけもなく、ほとんど空気を吸い込めない状況で暴れたせいで徐々に意識がぼやけていくばかりだった。
「んじゃさっさと始めようか」
頭は押しつけられたまま、力任せに下着を脱がされて濡れてもいない秘部に指を突き立てられる。皮膚が引っ張られ、内部に鋭い痛みが走った。
「ゃ……! た、すけ」
「馬鹿だねえ、届かないよそんな声」
しかしそんなことはどうでもいいかのように狼はあくまで内部を広げるようにどんどんと指を増やして手当たり次第に中を押し広げる。
「大人しくしてよ、別に殺そうってんじゃないんだから」
「っ! ん、ぅ……」
ぐりぐりと指が中を押し込み、広げ、乱雑に奥を拓いていく。いつもと違う気遣いの欠片もないその動きに、それでも体は快楽を見いだそうと狼の指をさらに深くまでくわえ込んだ。
「ご主人様がいるのに他人にこっそり犯されるの、興奮しない?」
「……っ!」
するものか。そんなことで興奮するような浅ましい人間ではない。
けれど。
「……ん、ぁ」
自分は、そんな浅ましい人間達に何度も犯され汚され道具にされ、使い物にならなくなってゴミのように捨てられた、汚れた人間だ。
そんな奴が、今更、何を嫌がっているのだろうか。
「ん? やっと大人しくしてくれる気になった?」
今更この男に一度抱かれたくらいで、これ以上汚くなるわけでも何でもないのかもしれない。
――教えたことちゃんと守って過ごすこと。良いね?
「……ぁ、」
すぐ傍に置かれている大きな熊のぬいぐるみに手を伸ばす。しかし今度は不審に思われなかったようで、狼はそれを阻害しなかった。
「もう良いかな」
身に覚えのある熱の塊が後孔に押しつけられる。少しでも抵抗すればまた容赦なく痛めつけられそうで、体に力を込めて拒むことしかできなかった。
手元に引き寄せて狼から見えないように体の下で背中のチャックを下ろし、中にある小さなボタンをめいっぱい握り込む。
「……や、だ」
おねがい、たすけて、もう"あんなところ"で死ねないまま生きるだけの傀儡でいるのは嫌だ。
「廉!」
ダン、とものすごい音を立ててドアが開く。目の前には仕事に行ったはずのコウがものすごい形相でそこに立っていた。
「じゃあ俺は仕事に行くけど、教えたことちゃんと守って過ごすこと。良いね?」
ここ数日、コウの様子がおかしい。
以前から廉の素性がばれないようにいくらか配慮をしていたのはもちろんあったのだろうが、前回出かけた後から以前にも増してこの家を堅牢にし始めたのだ。
それも不思議なことに廉が逃げ出さないように、と言う方向ならまだ納得がいくのだが、コウはここ数日でどちらかというとこの家に侵入者が入らないように用意をし始めたのだ。
先日買った熊のぬいぐるみには何かあったときにボタンを押すだけでコウの携帯に通知が行くようになっている発信器を仕込み、電話機は留守電に切り替わった段階で受話器を取らなくてもこちらの声を拾うように改造し、玄関の鍵に何かよく分からない細工をしていた。
「(……お昼ご飯、なんだっけ)」
ぬいぐるみを抱きながらぼんやりとテレビを眺める。しかし平日の昼前ともなると、どのチャンネルに回しても主婦向けのテレビショッピングしか映らなくなってしまう。
完成しているご飯であれば冷蔵庫、鍋物はコンロに置かれた鍋に毎日用意されている昼ご飯を覗きにキッチンへ向かう。まだ正午にもなっていないのですぐに食べるわけではないが、気になったものはそのときに確認したくなってしまう性分なのだ。
「(……豚肉の……なんだっけこれ)」
粉チーズと卵を付けて焼く料理だ。少し前に晩ご飯で出てきたときに名前を聞いたことはあるのだが、カタカナの聞き慣れない名前で上手く覚えられなかった。美味しかったことはよく覚えている。それと付け合わせの海藻サラダ、晩ご飯の残り物の豚汁、冷凍庫には小分けにしたご飯が凍っているのでそれを出せば完璧だ。恐らく同じ様なメニューがコウの弁当には入っているのだろう。
不意に玄関の方からかちりと鍵の開く音がする。あり得ない時間の帰宅に首を傾げて玄関に向かうと、丁度入ってきたところで丁寧に鍵を閉めた男は振り返ってにっこりと笑った。
「やあ、おちびちゃん」
「……え、」
コウではない、ということに気づくには少し遅すぎた。
コウよりも少し背の高い目の前の男はたれ目を細めてにっこりと笑い、音もなく詰め寄り動揺で動けない廉の首を掴んだ。
「コウってばやっぱり不用心だなあ、家でも繋いでないなんて」
「あ、……っ!」
ぎり、と容赦なく手に力を込めていく男に抵抗らしい抵抗も出来ずに気道が絞められていく。
何が起きているのかすら脳で処理できない。目の前の男はどうやってここに入ったのか、何故彼はコウのことを知っているのか、自分のことを知っているのか、どうしていきなり首を絞められているのか。
「ガキのくせにすましてると思ってたけど、ここまでしても逃げないって。やっぱりお前根っからの奴隷なんだね」
掴んでいるのは片手だけ、壁に押しつけられているわけでも両手でしっかり拘束されているわけでもない。それでも、逃げた先で食らう苦痛と恐怖に支配された体は今から逃げようという思考を持たない。
「……、」
見ず知らずの他人に言われなくても、そんなこと自分が一番よく分かっている。逃げたければ逃げればいいのに、その環境が整っているのに、今日この時まで廉がこの家に留まっていたのはそういうことだ。
逃げたらもっと酷いことをされると、教え込まれた体なのだ。
「ああつまんない! 僕お前みたいな奴嫌いなんだよね」
突然首を解放して廉を突き飛ばす。床に仰向けで転んだ廉を汚いものでも見るような目で見下ろし、横を通り過ぎて部屋の中へ入っていった。
慌てて起きあがったものの、どうすればいいのかまるで分からずに部屋を見渡す男を呆然と眺める。
「うん? ああそうか、お前僕のこと分からないよね」
先程まで廉が座っていた場所に腰を下ろして同じようにリモコンでチャンネルを弄り、やはり同じようにテレビショッピングしか映らずにリモコンを放り出す。
「俺は狼(ろう)。一応関係としてはコウの友人、かな」
不意に着信音が鳴り響く。部屋の片隅に置いてある電話の液晶がぴかぴかと光り、着信をけたたましく知らせていた。
狼が伺うようにちらりとこちらを見るが、普段から廉一人の留守中は電話にでないように、と教えられているため動こうにも動けない。
そうこうしているうちに着信音は途切れ、留守電の録音モードに切り替わった。
「……廉?」
ぴく、と体の神経が見知った声に反応する。電話の相手がコウだと分かった瞬間電話に駆け寄ったが、寸でのところで背後から伸びてきた腕に捕まった。
「つかまえた」
「ぁ、やっ」
そのままカーペットに押し倒され、何度かこちらに呼びかけるコウの声も空しく受話器を取ろうとした手は空を切った。
「ご主人はエスパーかな? 感づくのが早いみたいだ」
後頭部を掴まれ顔が潰れるのではないかと思うほどの力でカーペットに押しつけられる。必死になってもがいたが、頭も押しつけられている状況で腕を振り回す以外の何かが出来るわけもなく、ほとんど空気を吸い込めない状況で暴れたせいで徐々に意識がぼやけていくばかりだった。
「んじゃさっさと始めようか」
頭は押しつけられたまま、力任せに下着を脱がされて濡れてもいない秘部に指を突き立てられる。皮膚が引っ張られ、内部に鋭い痛みが走った。
「ゃ……! た、すけ」
「馬鹿だねえ、届かないよそんな声」
しかしそんなことはどうでもいいかのように狼はあくまで内部を広げるようにどんどんと指を増やして手当たり次第に中を押し広げる。
「大人しくしてよ、別に殺そうってんじゃないんだから」
「っ! ん、ぅ……」
ぐりぐりと指が中を押し込み、広げ、乱雑に奥を拓いていく。いつもと違う気遣いの欠片もないその動きに、それでも体は快楽を見いだそうと狼の指をさらに深くまでくわえ込んだ。
「ご主人様がいるのに他人にこっそり犯されるの、興奮しない?」
「……っ!」
するものか。そんなことで興奮するような浅ましい人間ではない。
けれど。
「……ん、ぁ」
自分は、そんな浅ましい人間達に何度も犯され汚され道具にされ、使い物にならなくなってゴミのように捨てられた、汚れた人間だ。
そんな奴が、今更、何を嫌がっているのだろうか。
「ん? やっと大人しくしてくれる気になった?」
今更この男に一度抱かれたくらいで、これ以上汚くなるわけでも何でもないのかもしれない。
――教えたことちゃんと守って過ごすこと。良いね?
「……ぁ、」
すぐ傍に置かれている大きな熊のぬいぐるみに手を伸ばす。しかし今度は不審に思われなかったようで、狼はそれを阻害しなかった。
「もう良いかな」
身に覚えのある熱の塊が後孔に押しつけられる。少しでも抵抗すればまた容赦なく痛めつけられそうで、体に力を込めて拒むことしかできなかった。
手元に引き寄せて狼から見えないように体の下で背中のチャックを下ろし、中にある小さなボタンをめいっぱい握り込む。
「……や、だ」
おねがい、たすけて、もう"あんなところ"で死ねないまま生きるだけの傀儡でいるのは嫌だ。
「廉!」
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