1 / 155
おじさん♡覚醒しました①
しおりを挟む
みぃ♡視作生
深夜0時のコンビニで、おじさんは右往左往しています。
「今井さん、あとドリンクの補充なんですけど」
ちょ、ちょっとまって。
まだレジのここいら辺の事がよく分かんないんだが。
「ってか、それ後どんくらいかかります?」
二回り近く年下の大学生に、あれこれと教えを乞うている。
彼が帰宅するためには、深夜勤の手順を新人に教えてしまわなくてはならない。
けれど新人は物覚えの悪いおじさんだ。
彼が自分でやれば5分で済む作業に、おじさんはかれこれ30分以上も悪戦苦闘していた。
青年は貴重な時間を浪費させるおじさんに苛立ちを隠さない。
そんな顔、しないでくれ。
新しい事柄がなかなか覚えられないんだよ。
本当にごめんだけど、おじさんだって辛いんだ。
人生の転機は突然に訪れるものだ。
20年勤めた会社をリストラされ、落ち込む間もなく妻と離婚した。
子供はなく、夫婦関係もなくなって久しかったが全く予想だにしていなかった。
とはいえ心当たりが無いわけではない。
彼女はかなり前から覚悟を決めていたのだろう。
「こんな時に悪いけど」
口火をきってからの彼女は、きっぱりした態度でとりつくしまなどなかった。
もう何を言っても遅いのだと痛感した。
黙って申し出を受け入れるしかなかった。
むしろタイミング悪くリストラなんかされて、心根の優しい彼女を困らせてしまった。
重ね重ね不甲斐ない自分が情けない。
結婚して以来10年暮らした分譲マンションは彼女に譲って、身一つで家を出た。
、、最後くらい格好つけたかったんだ。
そして、住所不定の無職になった。
今井視作生、42歳でバツイチのフリーター。
それが今の僕だ。
頼れる身内はいない。
両親はとうに亡くなっている。
親類とは疎遠で存在も定かでは無い。
一人っ子だから妻を失ってみれば天涯孤独だった。
小さなアパートにありあわせの家具を詰め込んで暮らし始めると淋しさが身に染みる。
それでも就職活動を始めたらば、すぐに仕事は見つかった。
なのに、、
体調がすぐれず、続ける事が出来ない。
微熱が続いていて常にだるく、身体中の皮膚の柔らかい部分に発疹が出て炎症をおこしている。
こんなことは初めてで、戸惑っていたらあっという間に悪化した。
発疹はただれ始めて、痛みで眠れない日々が続いている。
それでも保険証も金も無いので医者にはかからずにいた。
貯金を切り崩してしのぐ日々が続いてた。
人生最大の危機だった。
格好つけたせいで貯金はすでに心許なくなっている。
でも、元妻には頼りたくはなかった、、
そんなこんなでとりあえず、近所のコンビニでバイトを始めた。
体調はさらに悪化している。
あまり長い勤務はこなせない。
今日はこれから午前5時まで1人きりのシフトだ。
不安はあるが、たいして客も来ないと聞いている。
「すいません。補充しとくんで大丈夫です。ホントごめんなさい、お疲れ様でした!」
自分のせいで引き留めてしまっていることに耐えられなかった。
僕は気が小さいんだ。
引き継ぎもそこそこで苛立つ先輩を送り出す。
青年はこれから飲みに行くらしく、さっさと帰って行った。
「元気だな。俺もあんな頃、あったわ~」
バックヤードの冷蔵庫にペットボトルを運びながら独り言ちる。
あの頃はまさかこんなショボくれたおじさんになるなんて思いもよらなかったな。
こんな筈じゃなかったんだけど。
俺なんかした?
いや何もしなかったからダメだったんだろうな。
そんな事を考えながら作業しているとドリンクの種類を入れ間違えていた。
…ため息しかでない。
仕方なくやり直し始めると、寒さが身に応えてきた。
季節は春で暖かい日が続いていたから薄着だった。
「まずい…な」
微熱を帯びていた身体が逆に冷え切って震え始めた。
「いったん、出よ」
作業は途中だが暖を取るために冷蔵庫から出ることにする。
だが扉が開かない。
というか内側からの開け方を知らなかった。
パニックになって手当たり次第に脱出を試みる。
でも、ちっとも上手く行かない。
実はごく単純な作りの扉だったのだが体調の悪さで判断力がかなり鈍っていた。
ドリンクの隙間から店内を窺う。
ひとっ子ひとり見当たらない。
もし客が来たとしても冷蔵庫を開けない限り、声を上げても誰も気づかないだろう。
だんだん意識が朦朧としてきた。
身体に力が入らない。
そうして冷たい床に倒れ込む。
「…何だ、これ」
ずっと続いていた不調がここにきて急激に加速していく。
芯まで冷えた身体はもはや震える事さえなくなっていた。
、、もう動けない。
ま、じか~…。
俺の人生、こんなんで終わるんだ。
、、ってか今日、誕生日だったわ。
深夜のコンビニで店員の男性が遺体で発見されましたってニュースに出るのかな。
なんだかなぁ。
はぁ…
…?、あ、れ。
なんか、何か匂う。
なんだろう。
なんかすごくいい匂い。
うーん、なんでだろう。
こんな死にそうに辛いのに、、、
なぜか嬉しい。
…早く、来て。
誰かは知らないけど、僕を見つけて。
…って。
なんだそりゃ?
どういう感情だよ。
走馬灯がどうのとかじゃないんかい。
でも。
何これワクワクしてる。
…ずっと待ってた♡
なんかよくわかんないけど。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
深夜0時のコンビニで、おじさんは右往左往しています。
「今井さん、あとドリンクの補充なんですけど」
ちょ、ちょっとまって。
まだレジのここいら辺の事がよく分かんないんだが。
「ってか、それ後どんくらいかかります?」
二回り近く年下の大学生に、あれこれと教えを乞うている。
彼が帰宅するためには、深夜勤の手順を新人に教えてしまわなくてはならない。
けれど新人は物覚えの悪いおじさんだ。
彼が自分でやれば5分で済む作業に、おじさんはかれこれ30分以上も悪戦苦闘していた。
青年は貴重な時間を浪費させるおじさんに苛立ちを隠さない。
そんな顔、しないでくれ。
新しい事柄がなかなか覚えられないんだよ。
本当にごめんだけど、おじさんだって辛いんだ。
人生の転機は突然に訪れるものだ。
20年勤めた会社をリストラされ、落ち込む間もなく妻と離婚した。
子供はなく、夫婦関係もなくなって久しかったが全く予想だにしていなかった。
とはいえ心当たりが無いわけではない。
彼女はかなり前から覚悟を決めていたのだろう。
「こんな時に悪いけど」
口火をきってからの彼女は、きっぱりした態度でとりつくしまなどなかった。
もう何を言っても遅いのだと痛感した。
黙って申し出を受け入れるしかなかった。
むしろタイミング悪くリストラなんかされて、心根の優しい彼女を困らせてしまった。
重ね重ね不甲斐ない自分が情けない。
結婚して以来10年暮らした分譲マンションは彼女に譲って、身一つで家を出た。
、、最後くらい格好つけたかったんだ。
そして、住所不定の無職になった。
今井視作生、42歳でバツイチのフリーター。
それが今の僕だ。
頼れる身内はいない。
両親はとうに亡くなっている。
親類とは疎遠で存在も定かでは無い。
一人っ子だから妻を失ってみれば天涯孤独だった。
小さなアパートにありあわせの家具を詰め込んで暮らし始めると淋しさが身に染みる。
それでも就職活動を始めたらば、すぐに仕事は見つかった。
なのに、、
体調がすぐれず、続ける事が出来ない。
微熱が続いていて常にだるく、身体中の皮膚の柔らかい部分に発疹が出て炎症をおこしている。
こんなことは初めてで、戸惑っていたらあっという間に悪化した。
発疹はただれ始めて、痛みで眠れない日々が続いている。
それでも保険証も金も無いので医者にはかからずにいた。
貯金を切り崩してしのぐ日々が続いてた。
人生最大の危機だった。
格好つけたせいで貯金はすでに心許なくなっている。
でも、元妻には頼りたくはなかった、、
そんなこんなでとりあえず、近所のコンビニでバイトを始めた。
体調はさらに悪化している。
あまり長い勤務はこなせない。
今日はこれから午前5時まで1人きりのシフトだ。
不安はあるが、たいして客も来ないと聞いている。
「すいません。補充しとくんで大丈夫です。ホントごめんなさい、お疲れ様でした!」
自分のせいで引き留めてしまっていることに耐えられなかった。
僕は気が小さいんだ。
引き継ぎもそこそこで苛立つ先輩を送り出す。
青年はこれから飲みに行くらしく、さっさと帰って行った。
「元気だな。俺もあんな頃、あったわ~」
バックヤードの冷蔵庫にペットボトルを運びながら独り言ちる。
あの頃はまさかこんなショボくれたおじさんになるなんて思いもよらなかったな。
こんな筈じゃなかったんだけど。
俺なんかした?
いや何もしなかったからダメだったんだろうな。
そんな事を考えながら作業しているとドリンクの種類を入れ間違えていた。
…ため息しかでない。
仕方なくやり直し始めると、寒さが身に応えてきた。
季節は春で暖かい日が続いていたから薄着だった。
「まずい…な」
微熱を帯びていた身体が逆に冷え切って震え始めた。
「いったん、出よ」
作業は途中だが暖を取るために冷蔵庫から出ることにする。
だが扉が開かない。
というか内側からの開け方を知らなかった。
パニックになって手当たり次第に脱出を試みる。
でも、ちっとも上手く行かない。
実はごく単純な作りの扉だったのだが体調の悪さで判断力がかなり鈍っていた。
ドリンクの隙間から店内を窺う。
ひとっ子ひとり見当たらない。
もし客が来たとしても冷蔵庫を開けない限り、声を上げても誰も気づかないだろう。
だんだん意識が朦朧としてきた。
身体に力が入らない。
そうして冷たい床に倒れ込む。
「…何だ、これ」
ずっと続いていた不調がここにきて急激に加速していく。
芯まで冷えた身体はもはや震える事さえなくなっていた。
、、もう動けない。
ま、じか~…。
俺の人生、こんなんで終わるんだ。
、、ってか今日、誕生日だったわ。
深夜のコンビニで店員の男性が遺体で発見されましたってニュースに出るのかな。
なんだかなぁ。
はぁ…
…?、あ、れ。
なんか、何か匂う。
なんだろう。
なんかすごくいい匂い。
うーん、なんでだろう。
こんな死にそうに辛いのに、、、
なぜか嬉しい。
…早く、来て。
誰かは知らないけど、僕を見つけて。
…って。
なんだそりゃ?
どういう感情だよ。
走馬灯がどうのとかじゃないんかい。
でも。
何これワクワクしてる。
…ずっと待ってた♡
なんかよくわかんないけど。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる