107 / 155
おじさん♡います
しおりを挟む
アレックス♡
私は非常に、曖昧な身分で御座います。
ある時は東の大国の後継者であり、またある時は北の古都の世継ぎでもある。
「ダルツェ公国の御使者殿、こちらへ」
只今の私は東の大国の若君として、取り扱われている。
今宵、私は女王の晩餐の会に招かれた。
これは女王とルーランス公国が王の婚約披露の前夜祭に等しい。
故に、西欧の全ての国より特使が馳せ参じていた。
西の大国ルーランス公国が領主、ヴィクトール様は新夫として女王の隣席に座しておられる。
…しかし、余り御顔の色が優れぬ様だ。
彼らしくもない。
いつも鷹揚とした方で、その明朗闊達さが凛々しい御身から溌剌と感じられる。
その様な、お人柄なのだ。
とても昨日に、女王との初夜を得た男とは思えぬ。
…何か、お有りだ。
それは、ある意味で希望です。
しかし、ある意味では失望だ。
視作生は彼の意に添わぬ性交を、強行されずに済んだかもしれない。
だとしたら、ヴィクトールの精神の強靭なることは凄まじい!
あの様なΩ女王を前に堪えたるなど、超人だ!
そう、私の兄は、至高の男性である。
その彼が、その身分に相応しく無い仕打ちを受けたのだとしたら!
私は、どうしても口惜しい。
彼は、愛されるべきだ御方だから!
…悩ましい事だ。
視作生の心身の健やかさは守られた。
しかし、兄上は苦悩の為に御力を揺らがせておられる。
王の御力の前で、私の如き若輩者はその足元にも及ばぬものだ。
しかし、只今の私には視作生が居てくださる。
お側に侍れずとも、この身の内には恋しい君の愛が宿っています。
『アレクサンドール…』
ああ、何という事でしょう。
…薄らとでも、聴こえる。
視作生の恩恵により、私の能力が規格外の威力を発揮した。
『ずいぶんと、凛々しゅうなった』
上位者たる王の御心が!
聴こえます…
兄上、お会いしとうございました。
しかしそれが容易く許されぬ、私達でございます。
『これが、彼に愛されし、男であるか…』
御顔には、全くと表れてはおらぬ。
しかし、兄上は私を羨んでいらっしゃる。
『気に、恐ろしきかな!この俺が、弟に、この少年に!』
…兄上、僭越ながら!
私は成人いたしましたよ!
最早、青年です!
『羨望を、抱くなど!あり得ぬ…』
貴方の様な方が、私にそれを抱く等とはあり得ぬ事でございます。
しかし、あり得ぬ事が起こりましたか!
ああ、それは、それでは…
「ルーランス王、時期に花嫁が参られまする。祝い花を御胸に」
先触れに参られたブレンダリー様が、私の『読心』を破った。
彼女は私と兄上の間に立つと、新夫の御胸に『リリィの花飾り』を刺した。
そして、私の視線に気付いた摂政様は訝しみながら、こちらに向かっておいでになった。
いけない。
私が、姉の術中を抜け出している事を気取られてはならぬ!
女王の侍女は、私の胸に手を伸ばした。
…気づかれたか!
「ダルツェの若君、花飾りが乱れておりますわよ」
「…かたじけない」
申し訳ござらぬ。
御恥ずかしゅうございます、叔母上。
「さあ、これでよいわ。ほれ、大人しゅう御座りになって」
まるで幼児にするように…
気安く肩に手をかた彼女は、撫でる仕草で促した。
ブレンダリー様には、幼児の頃よりご面倒をおかけしている。
私には、ヴィクトールの他に家族が無い。
幼少期の私は、ある政治闘争の渦中にあった。
母方の血筋を縁に、ルイスが後見に立った事で私は救われた。
その様な故あって、私はこの方とそしてクラウディア様に、末の息子として躾けて頂きました。
御恩ある大尽だ。
慈愛ある、御婦人方なのだ。
此度の暴挙が、心無い仕打ちが、彼女達の全てでは無い。
私は知っております。
ついと郷愁に気をとられた私は、兄上の心情から、肝心なる部分を聞き損ねている。
歯軋りする胸の内を押し殺し、私は席に着席した。
…気を鎮め、耳を澄ませ。
周囲には各国からの使者達が御着席になっていた。
皆様、祝意も露わに浮かれておいでだ。
当然である。
Ω女王が立位すれば、いずれ全国にもその恩恵が垂れる日が来るのだから!
「暗黒時代の終焉ですな!」
「心躍る西欧が開花期の幕開けだ!」
「ルイス万歳!」
「ルーランス王、万歳!」
まだ宴が始まる前から、大変な賑やかしさである。
この浮き足立ち様では、いざ女王がお出ましになった時、彼らは失神しかねぬのではないか。
そんな心配に、私はまたついと気を削がれる。
すると唐突に、兄上の胸の呟きが私の耳を突いた!
『茶番だ』
…ヴィクトールは、苦悩しておいでだ。
『俺は、彼の…女王の番いでは、無い』
そう、なのですね。
…初夜は、成りませんでしたか。
それはお気の毒でございます。
とても、残念です。
酷く矛盾しているが、本心だ。
それに!
兄上と、私と、視作生が同じ場にあるのなら…
もっと晴れ晴れしい、場であるべきだ。
この様な、葬儀にも等しき重苦しさは…
あんまりです。
セバスティアンとマクシミリアンの、視作生との婚儀は素晴らしかった!
それはごく身内のみの、ささやかなものだった。
しかし、私の胸を打った。
ルイスの王の間の、中心には玉座に続く青き絨毯の道をがある。
視作生は、ルイスが王たるクラウディアにご挨拶をなさる為に、しずしずと歩まれた。
視作生は変態による損傷から回復したばかりで、おぼつかぬ足取りだった。
それを二人の新夫が愛おし気に、大事、大事と付き添うておられた。
君は夫達に完全に身を委ねて、安心しておられましたね。
左右にふりふりと首を巡らしては、二人に微笑みかけていた。
それに返す夫君の笑顔が…
泣き顔の様に、喜びに濡れていたのです。
これが幸福というものだと、私は初めて知った!
とはいえ当時の私は、姉の計らいで使用人としてその場に紛れ込んでいただけの、他人だった。
遠い広間の隅で、拝見致しただけの事だ。
しかし、たったのそれだけで…
私は猛烈な、家族への憧れに胸を焦がしたのです。
今宵のこの、婚約の晩餐が…
兄上と私が視作生に愛を誓う、披露目の会であれば良かった。
今宵のこれは、偽りに満ちた不幸の披露宴だ!
『リリィ、君が恐ろしい…』
なんと…
その様に気弱な!
しかも、なんです!
私の妻は、それは可愛い人ですぞ!
『…彼がここ来て、俺は正気でいられようか』
貴方らしくもない。
貴方は全α男子の憧れの君です!
鋼の男、ヴィクトール=ジ=ラ・グウィネズ!
私の何よりの誇りなのです!
「女王のお出ましにで、ございます」
熱狂の広間が静まり返った。
ああ、やっと、やっと君に逢える…
そしてしずしずと、君はおいでになりました。
あの時と同じ青の道を、今の君は一人で歩まれる。
私は胸が潰れそうです。
視作生、視作生、私の視作生!
どうか、君が、君でありますように…
『…え、え、え、えぇ~!、、嘘でしょ~!』
君の悲鳴が!
私の耳をつんざいた!
『い、い、いやぁ~!、、冗談は、ヨシコさん!!』
良かった!
やはり、君は無事でしたね!
『Ω女王リリィ』の内から…
それはそれは元気の良い、妻の雄叫びが聴こえた。
安心しました。
君は強い!
信じておりましたが、それでも愛故に不安でした。
いや!
面目ない!
\\\٩(๑`^´๑)۶////
『…お花が、、お花が!、、そんな、そんな所に、僕のお花が…』
:(;゙゚'ω゚'):
私は非常に、曖昧な身分で御座います。
ある時は東の大国の後継者であり、またある時は北の古都の世継ぎでもある。
「ダルツェ公国の御使者殿、こちらへ」
只今の私は東の大国の若君として、取り扱われている。
今宵、私は女王の晩餐の会に招かれた。
これは女王とルーランス公国が王の婚約披露の前夜祭に等しい。
故に、西欧の全ての国より特使が馳せ参じていた。
西の大国ルーランス公国が領主、ヴィクトール様は新夫として女王の隣席に座しておられる。
…しかし、余り御顔の色が優れぬ様だ。
彼らしくもない。
いつも鷹揚とした方で、その明朗闊達さが凛々しい御身から溌剌と感じられる。
その様な、お人柄なのだ。
とても昨日に、女王との初夜を得た男とは思えぬ。
…何か、お有りだ。
それは、ある意味で希望です。
しかし、ある意味では失望だ。
視作生は彼の意に添わぬ性交を、強行されずに済んだかもしれない。
だとしたら、ヴィクトールの精神の強靭なることは凄まじい!
あの様なΩ女王を前に堪えたるなど、超人だ!
そう、私の兄は、至高の男性である。
その彼が、その身分に相応しく無い仕打ちを受けたのだとしたら!
私は、どうしても口惜しい。
彼は、愛されるべきだ御方だから!
…悩ましい事だ。
視作生の心身の健やかさは守られた。
しかし、兄上は苦悩の為に御力を揺らがせておられる。
王の御力の前で、私の如き若輩者はその足元にも及ばぬものだ。
しかし、只今の私には視作生が居てくださる。
お側に侍れずとも、この身の内には恋しい君の愛が宿っています。
『アレクサンドール…』
ああ、何という事でしょう。
…薄らとでも、聴こえる。
視作生の恩恵により、私の能力が規格外の威力を発揮した。
『ずいぶんと、凛々しゅうなった』
上位者たる王の御心が!
聴こえます…
兄上、お会いしとうございました。
しかしそれが容易く許されぬ、私達でございます。
『これが、彼に愛されし、男であるか…』
御顔には、全くと表れてはおらぬ。
しかし、兄上は私を羨んでいらっしゃる。
『気に、恐ろしきかな!この俺が、弟に、この少年に!』
…兄上、僭越ながら!
私は成人いたしましたよ!
最早、青年です!
『羨望を、抱くなど!あり得ぬ…』
貴方の様な方が、私にそれを抱く等とはあり得ぬ事でございます。
しかし、あり得ぬ事が起こりましたか!
ああ、それは、それでは…
「ルーランス王、時期に花嫁が参られまする。祝い花を御胸に」
先触れに参られたブレンダリー様が、私の『読心』を破った。
彼女は私と兄上の間に立つと、新夫の御胸に『リリィの花飾り』を刺した。
そして、私の視線に気付いた摂政様は訝しみながら、こちらに向かっておいでになった。
いけない。
私が、姉の術中を抜け出している事を気取られてはならぬ!
女王の侍女は、私の胸に手を伸ばした。
…気づかれたか!
「ダルツェの若君、花飾りが乱れておりますわよ」
「…かたじけない」
申し訳ござらぬ。
御恥ずかしゅうございます、叔母上。
「さあ、これでよいわ。ほれ、大人しゅう御座りになって」
まるで幼児にするように…
気安く肩に手をかた彼女は、撫でる仕草で促した。
ブレンダリー様には、幼児の頃よりご面倒をおかけしている。
私には、ヴィクトールの他に家族が無い。
幼少期の私は、ある政治闘争の渦中にあった。
母方の血筋を縁に、ルイスが後見に立った事で私は救われた。
その様な故あって、私はこの方とそしてクラウディア様に、末の息子として躾けて頂きました。
御恩ある大尽だ。
慈愛ある、御婦人方なのだ。
此度の暴挙が、心無い仕打ちが、彼女達の全てでは無い。
私は知っております。
ついと郷愁に気をとられた私は、兄上の心情から、肝心なる部分を聞き損ねている。
歯軋りする胸の内を押し殺し、私は席に着席した。
…気を鎮め、耳を澄ませ。
周囲には各国からの使者達が御着席になっていた。
皆様、祝意も露わに浮かれておいでだ。
当然である。
Ω女王が立位すれば、いずれ全国にもその恩恵が垂れる日が来るのだから!
「暗黒時代の終焉ですな!」
「心躍る西欧が開花期の幕開けだ!」
「ルイス万歳!」
「ルーランス王、万歳!」
まだ宴が始まる前から、大変な賑やかしさである。
この浮き足立ち様では、いざ女王がお出ましになった時、彼らは失神しかねぬのではないか。
そんな心配に、私はまたついと気を削がれる。
すると唐突に、兄上の胸の呟きが私の耳を突いた!
『茶番だ』
…ヴィクトールは、苦悩しておいでだ。
『俺は、彼の…女王の番いでは、無い』
そう、なのですね。
…初夜は、成りませんでしたか。
それはお気の毒でございます。
とても、残念です。
酷く矛盾しているが、本心だ。
それに!
兄上と、私と、視作生が同じ場にあるのなら…
もっと晴れ晴れしい、場であるべきだ。
この様な、葬儀にも等しき重苦しさは…
あんまりです。
セバスティアンとマクシミリアンの、視作生との婚儀は素晴らしかった!
それはごく身内のみの、ささやかなものだった。
しかし、私の胸を打った。
ルイスの王の間の、中心には玉座に続く青き絨毯の道をがある。
視作生は、ルイスが王たるクラウディアにご挨拶をなさる為に、しずしずと歩まれた。
視作生は変態による損傷から回復したばかりで、おぼつかぬ足取りだった。
それを二人の新夫が愛おし気に、大事、大事と付き添うておられた。
君は夫達に完全に身を委ねて、安心しておられましたね。
左右にふりふりと首を巡らしては、二人に微笑みかけていた。
それに返す夫君の笑顔が…
泣き顔の様に、喜びに濡れていたのです。
これが幸福というものだと、私は初めて知った!
とはいえ当時の私は、姉の計らいで使用人としてその場に紛れ込んでいただけの、他人だった。
遠い広間の隅で、拝見致しただけの事だ。
しかし、たったのそれだけで…
私は猛烈な、家族への憧れに胸を焦がしたのです。
今宵のこの、婚約の晩餐が…
兄上と私が視作生に愛を誓う、披露目の会であれば良かった。
今宵のこれは、偽りに満ちた不幸の披露宴だ!
『リリィ、君が恐ろしい…』
なんと…
その様に気弱な!
しかも、なんです!
私の妻は、それは可愛い人ですぞ!
『…彼がここ来て、俺は正気でいられようか』
貴方らしくもない。
貴方は全α男子の憧れの君です!
鋼の男、ヴィクトール=ジ=ラ・グウィネズ!
私の何よりの誇りなのです!
「女王のお出ましにで、ございます」
熱狂の広間が静まり返った。
ああ、やっと、やっと君に逢える…
そしてしずしずと、君はおいでになりました。
あの時と同じ青の道を、今の君は一人で歩まれる。
私は胸が潰れそうです。
視作生、視作生、私の視作生!
どうか、君が、君でありますように…
『…え、え、え、えぇ~!、、嘘でしょ~!』
君の悲鳴が!
私の耳をつんざいた!
『い、い、いやぁ~!、、冗談は、ヨシコさん!!』
良かった!
やはり、君は無事でしたね!
『Ω女王リリィ』の内から…
それはそれは元気の良い、妻の雄叫びが聴こえた。
安心しました。
君は強い!
信じておりましたが、それでも愛故に不安でした。
いや!
面目ない!
\\\٩(๑`^´๑)۶////
『…お花が、、お花が!、、そんな、そんな所に、僕のお花が…』
:(;゙゚'ω゚'):
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる