魔王の心の声が聞こえるようになった小間使いが、番になって溺愛されるようになる話

碧碧

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 魔王ヴァルゼウス。無情で冷酷非道、他者を殺める際に眉一つ動かさないと言われるその王は、圧倒的な力で魔界を五千年もの間統治している。その力の象徴は彼の住む魔王城であり、ここには三百人以上の魔族がしもべとして働いていた。

 小柄な悪魔エイリもその一人だ。彼は今、貢物で成り立つ大量の服の山から、今日の魔王の服を選んでいる。ズボンの穴から伸びた細い尻尾は落ち着きなく揺れていた。

「んー、今日のお召し物、何にするかね。ま、ヴァルゼウス様なら何でも似合うんだけど」

 朝礼でザルヴァン様――魔王の側近――が、今日は遠方の領地に遠征すると言っていたらしい。その領地の領主は、血統を重んじる派閥の中心人物で、実力だけで王位に就いたヴァルゼウスを快く思っていないと噂されている。何か問題が起きるかもしれない。正装にしつつも、動きやすい服を選んだ方が良さそうだ。マントは避けよう。エイリは考えながら、下着からハンカチまで、一つ一つ丁寧に選んでいった。

「よし、これでいっか。じゃあ次は朝食だな」
「エイリ、今日も精が出るねえ」
「そりゃあヴァルゼウス様のためだからなー」

 服の準備を終えたエイリは、調理場に向かう途中、同僚と軽く言葉を交わす。エイリが圧倒的な強さを誇るヴァルゼウスに憧れていることは、城内の使用人の間では有名な話だった。彼が魔界を統治した時にはまだ生まれていなかったエイリにも、その威光は噂を聞くだけで十分伝わってくる。彼の近くで働けることは、エイリにとっての誇りだった。

 ほかほかと湯気の立つ朝食を調理係から受け取り、食堂へと運ぶ。今日の朝食は人間界風の洋食だという。とろとろのスクランブルエッグが美味しそうだ。

 しかし、ヴァルゼウスはこれを見ても、食べても、きっと何も言わないだろう。彼は極めて無口で、何を考えているのかまるでわからない。部下への命令もほぼザルヴァンが代行しており、エイリ自身も直接言葉を交わしたことはなかった。以前、調理係が食事の好みを尋ねても、ヴァルゼウスは首を横に振るばかりだったという。結局、毎朝違う料理を出すしかないらしい。さすがに同情する。



「ヴァルゼウス様、おはようございます」

 主君が目覚め、食堂に現れると、瞬時に空気が張り詰めた。息が詰まりそうなほどの威圧感。エイリは先輩悪魔たちに続いて壁沿いに立ち、頭を下げて挨拶をする。ちらりと見やると、エイリが選んだ服を纏った魔王が無表情でテーブルについていた。

 《洋食か。今日も美味そうだ。》

「あ、え?」

 脳内に低く落ち着いた声が響いた。どこかで聞き覚えのある声がわんわんと反響している。周囲を見回しても、他に異変を感じている者はいないようだった。エイリがたまらずしゃがみこむと、先輩が駆け寄ってくる。

「エイリ、どうした?!大丈夫か?」
「うぇ。ちょっと気分が」

 《何事だ?》

 また、あの声だ。

「うわあああ!」
「おい、エイリしっかりしろ!無理せず今日はもう休め、な?念のため医者にも診てもらうんだ」
「は、い。ありがと、ございます・・・」

 先輩の配慮に甘え、エイリは足取りもおぼつかないまま、肩を震わせながら出口に向かった。

 《エイリというのか。大事なければいいが。》

 名前を呼ばれた気がして振り返ると、ヴァルゼウスと目が合った気がした。気のせいかもしれない。それにしても、何なんだこの声は。

「失礼、いたします」

 エイリが一礼して食堂を出ると、脳内の声は途絶え、体調不良もなくなった。
 城にいる医師にも診てもらったが、特に異常は見つからないとのことである。声が頭の中で聞こえたことを遠回しに伝えるも、精神的な病気を疑われそうになり、早々に退散した。

「そりゃまあイカれるって思うよなあ・・・」

 急遽休みになってしまって何をしたらいいのかわからない。まるで仮病を使ってズル休みをしたような罪悪感を持ちながら、エイリはベッドに横になった。悪魔なのに我ながら勤勉だ。

「それにしても、あの声、聞いたことあんだよな。誰だっけ」

 エイリは必死で思い出そうとした。低くて、少し掠れていて、聞いていて心地がいいが、背中がピリピリする独特の緊張感と威圧感がある。緊張感、威圧感・・・。

「・・・あ!!!」

 ここでようやっとエイリは気づいた。その声が、自分の君主、ヴァルゼウスの声にそっくりだということに。

「ヴァルゼウス様の?いやいや、そんなまさか・・・」

 声を聞いたのは、魔界で内乱が起きた時だったように思う。エイリなど城の従者たちに自分の身を守るよう命を下した際に聞いた、あの凜とした心に突き刺さるような声を、どうして今まで忘れていたのだろう。と、ここまで思案していたエイリだったが、慌てて首を横に振り、布団に顔を埋めた。

(ヴァルゼウス様の声なんて、あの内乱が沈まった後からずっと聞いてないんだし、違うかもしれないじゃん。てか、そもそも頭の中で声が聞こえるとか意味わかんないし。やっぱり疲れてるんだ。一旦寝よう、そうしよう。)

 内乱後、ヴァルゼウスは急に無口になった。それまでは多くはないとはいえ普通に家臣やメイドに話をしていたというのに、だ。何かがあったのだろうとは思うが、エイリの知るところではない。

 眠くないせいで勝手に回る思考に蓋をし、エイリは無理に目を閉じた。明日は何も聞こえないことを祈って。





(め、めちゃくちゃ聞こえてる~~~!)

 エイリはがっくりと項垂れた。昨日と同様に食堂にて君主を迎えてから声が頭の中に響いている。

 《昨日は動きやすい服装で助かったが、今日は随分とヒラヒラしているな。手足が捌きにくくて好かん。》

 《今日は和食か。最後に梅干しを入れて茶漬けにするのが美味いんだよな。もう少し和食の頻度が上がればいいんだが。》

(しかも絶対ヴァルゼウス様の声だ~~~!)

 周囲をそっと見回しても声に反応する者は誰もいなかった。つまりこの声はエイリにしか聞こえていないということだ。頬をつねると痛みを感じる。寝ぼけているわけではなさそうだ。
 ヴァルゼウスの方を見ると、その口は食事に専念しており何かを喋っているようには見えなかった。締めに梅干しのお茶漬けを食べるその顔が心なしか嬉しそうに見えてくる。

(もし本当にヴァルゼウス様の心の声だとしたら、ヴァルゼウス様って意外とおしゃべりなのか?)

 不敬なことを考えつつ、エイリは脇に避けられた食器を下げようと手を伸ばした。

「君は」
「ふぁっ?!」
「エイリと言ったか。もう体調は大丈夫か」
「ヒェッ!?えぇ~っと、だ、大丈夫、ですッ」
「ふ。そうか」

 食堂がシンと静まり返った。エイリの心臓がバクバクと異様な速度で音を立てる。食事を終えたヴァルゼウスが席を立ち、食堂を出ていくのを使用人らは唖然と見送っていた。

「エイリ、ヴァルゼウス様と何かあったのか」

 使用人の先輩に恐る恐る声をかけられ、エイリはただ首を横に振る。

「お、俺にも何が何だかさっぱり」
「そうか・・・」

 わからないのだからしょうがない。久しぶりの発声がエイリを気遣うものだったなんて信じられなかった。しかもその声は、やはり頭の中に聞こえた声と同じだったのだ。





 それから数日、エイリはこの不思議な能力を仕事に活かしている。服を選ぶ時はできるだけ動きやすいものにしたし、調理担当の悪魔にはヴァルゼウスの気に入った食べ物を伝えてやった。彼が満足げな顔をしている気がして、少しだけ嬉しい。

「あの領主は処刑するとして、新しい領主は魔王派のルグランにします」

 執務室からザルヴァンの声がする。
 先ほどヴァルゼウスの部屋の近くを通った時に「疲れた」と脳内に声が聞こえ、エイリは温かい紅茶を淹れてきたのだが、どうやら仕事の込み入った話をしているらしい。せっかくだが後にしようかと扉に背を向けると、中の声が止んだ。

「そこにいるのは誰です?」
「あ、すみません!使用人のエイリです。ヴァルゼウス様に、温かい紅茶はいかがかと思いまして・・・」
「魔王は仕事中だ。余計な気を回すな、って、え?いいんですか?・・・・・・おい、入れ」

 ザルヴァンの不機嫌そうな声に促され、エイリは扉をそっと開けた。ヴァルゼウスの部屋に入ると、そこには広い机の前に座る王と、その脇に控える側近の姿があった。ヴァルゼウスは相変わらず無表情で、エイリに一瞥をくれることもない。緊張しながらエイリは紅茶とバタークッキーが入った皿をそっと置き、頭を下げた。

 《いい香りだ。甘味もあるのか。》

 また、あの声が聞こえた。心の中で驚きながらも、エイリは動じた素振りを見せずに退室しようとしたが、突然ヴァルゼウスが口を開いた。

「エイリ」
「は、はい!」

 エイリの体が硬直する。こんなに頻繁に名前を呼ばれるなんて。緊張で息が止まる。

「気を利かせてくれて感謝する」
「えっ!」

 その言葉にエイリは驚きを隠せなかった。普段、無口で無表情なヴァルゼウスが、まさかこんなにも直接的に感謝の言葉を口にするとは思わなかったからだ。もちろん心の中では何を考えているのか聞こえてはいるが、それを本人が言葉にすることに、エイリの胸が高鳴った。

「あ、ありがとうございます!失礼いたします!」

 慌てて一礼し、部屋を後にする。扉が閉まると、心の中で歓喜が爆発した。

(どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい。ドキドキして死にそう・・・。)



「まだいたのか。何か必要な時は私から指示する。勝手に気を回して不用意に執務室に近づかないように」

 食器を下げようと部屋の外で待っていると、出てきたザルヴァンに一喝され、エイリは震え上がった。魔王も恐ろしいが、直接の上司にあたるザルヴァンの方が今ではよっぽと恐ろしい。
 それでも、せっかくこの能力を得たのだ。疲れたと言っている王に少しでも癒しを提供したい。

「ザルヴァン様、お言葉ですが適度な休憩は必要だと思いますよ。長時間の仕事は疲れから効率もよくないって聞きました」
「小間使いが、わかった風な口を・・・」

 ザルヴァンの叱責が途中で止んだ。見ればヴァルゼウスが扉までやってきて手で諌めている。

「ヴァルゼウス様!?」
「これから午後3時に甘味を持って来なさい」

 ヴァルゼウスの視線にザルヴァンが諦めたように息を吐いた。エイリは頭を下げ、明日はチョコレートとコーヒーをお持ちします、と笑顔で言った。

 《エイリ、不思議なやつだ。》

 すっかり空っぽになった食器を持って部屋を出ていきながら、エイリは口元が緩むのを抑えられなかった。

 るんるんと足取り軽く調理場に向かう。明日からのティータイムのことを伝えた。

「なんかお前最近ヴァルゼウス様の秘書みたいだな」
「へへっ。俺ってば、ちょっとヴァルゼウス様の考えてることがわかるようになってきた気がすんだよな。食事の好き嫌いもわかるかもしんないぜ?」
「はは、期待してるよ」

 調理担当の悪魔と笑いながら洗い物を済ませていく。

 こうして、エイリの暗躍により、魔王だけでなく使用人たちもより快適に、スムーズに仕事ができるようになっていった。






 毎日の午後3時のティータイム。
 基本的にはヴァルゼウスとザルヴァンの二人が向かい合ってお茶をするが、給仕のためにエイリもそれに立ち会う。

 いつしかヴァルゼウスはこの時間をすっかり気に入っていた。

 疲れた頭に染み渡る甘味と、それに合うコーヒーや紅茶。美味しいと思ったものは、エイリが数日おきに準備してくれる。最近少し寒くなったなと思っていたらすぐに膝掛けが用意された。エイリの仕事ぶりは的確でいて押しも強くない。あまりに快適すぎてティータイムが終わるのが名残惜しいくらいだ。

「ヴァルゼウス様、そろそろ仕事に戻りましょう」

 ザルヴァンの一言にエイリがさっとデスクに近づき、食器を下げていく。

「エイリ、今日も美味かった」
「えへへ、いえいえ」

 ぶっきらぼうに礼を述べると、エイリは嬉しそうにニコニコと笑った。

「それでは俺はこれで失礼します。ヴァルゼウス様、この後もがんばってください」
「貴様、王に向かってなんて口の聞き方を」
「わわ!それでは!」

 ザルヴァンから逃げるように慌てて部屋を出ていくエイリを見て、無意識にヴァルゼウスの頬が緩む。

「ヴァルゼウス様、エイリのことを随分気に入っているようですが」

 ザルヴァンの指摘に、ふいと顔を逸らす。何も言う気がないというその仕草に、ザルヴァンはため息をこぼして仕事に戻ろうと書類を手に取った。

「最近、食事が私好みになった」
「はぁ・・・?」
「食事だけじゃなく、小物、服、城内の空調、会議資料の作り方も、だ」
「・・・」
「お前が指示したのでないのなら、誰がそれをしているのか調べてほしい」
「承知しました」

 唐突によくわからない指示を出され、ザルヴァンは怪訝そうな顔を浮かべながらも頷いた。それ以上話すつもりはないと口を閉ざした主に困惑しながらも、仕事モードに戻っていく。



 この日の夕食も、ヴァルゼウスが食べたいと思っていたものだった。酒の銘柄まで、だ。

 《面白い。》

 表には出ていないが、機嫌良く食事を済ませたヴァルゼウスが席を立つ。もう調べはついているだろうか。ザルヴァンを見遣るとすぐに後ろをついて歩いてきた。

「ヴァルゼウス様、昼の件、エイリでした」

 その言葉に思わず口角が上がる。やはり、思っていたとおりだ。

 《なぜエイリは私の求めていることがわかるんだ?》

 ヴァルゼウスは食堂を後にしながら目でエイリを探す。しかし柱の裏に身を隠したエイリを見つけることはできなかった。

(なんで俺ってバレてんの?!やべー!明日から気をつけないと!)

 心の声を読まれているなんて知ったら、気持ち悪がられるどころか最悪処刑だろう。なんとかバレないようにしなければと震えながら、エイリは自室に戻っていった。



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