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第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
アメリケン・Sサイズ。イコールL
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しばしの後、ようやく検問の順番が巡って来た。
隣ではあの6号バスも検査を受けており、宗像さんが頭を掻きながら受け答えしていた。
誠達の車にも担当官が近付いて来て、運転手に車両のサイドブレーキとエンジン停止を指示している。
壁際に並んで立ち、借り物のように大人しくなった一同を見渡して、湯香里は念を押すように囁いた。
「……みんな、大人しくしてなさいよ。特に壮太」
「……うるせえユーカリ、お前こそちゃんとやれよ」
やがて車内に入ってきた2人の検査官に、湯香里が持ち前のコミュニケーション力で話しかけた。
「いらっしゃい、お仕事お疲れ様です。鹿児島への受け入れ感謝致します」
湯香里はそう言って軽く頭を下げる。
いかにも人を安心させる物腰であり、この辺はさすがに接客業の家系だった。
「ああ、華やかだね、特注の戦闘服かい? なんか温泉に行きたくなっちゃったよ」
検査担当のおじさんの1人は、そう言って笑顔を見せた。
車体の下に潜って調べたりもするのか、青い帽子や作業服には汚れが目立つ。
「君達こそ大変だったね。宮崎方面は特に苦しい避難だったし、気にせず休んでいるといいよ。検査といっても、爆弾なんてそうそうないから」
「ありがとうございます。私は元気なんで、見学していいですか?」
湯香里は手を後ろで組んで、おじさんの後について回る。
おじさんには申し訳ないが、話しかけて少しでも気を散らそうとしているのだ。
「それで、こっちの備えはどうなってるんですか」
「……今は何とも言えないね。避難出来た部隊もあれば……取り残されて助からなかった隊も多いし。鹿児島直属の戦力はそのままだけど、君達みたいな方面隊は、どう編成されるかは未定だよ」
「編成って、私達の部隊も解散するんですか?」
「まさか、一つ一つの部隊まではバラさないさ。急ごしらえじゃ連携も取れないし。あくまで各部隊を、鹿児島でどう配置するかって事さ。よし、床面異常なし」
おじさんはそう言って、もう1人の検査官に顔を向けた。
こちらの検査官はやや厳めしい顔立ちで、最初のおじさんより手強そうである。
彼はバインダーに検査結果を書き込んでいくが、目ざとく何かを発見した。
「戦闘人員はパイロットが6名か…………おや、ゴミ箱の弁当型携帯糧食トレーが、随分多いようだけど?」
「そ、そそそれはっ!」
湯香里が焦るが、咄嗟にキャシーが遮った。
「ご、ごごご、ご免なさいデース、私とヘンダーソンが食べたのデス!」
「そっそうだな、私は特に大食いなので!」
ヘンダーソンも慌てて会話に加わった。
「……ほう、君達が?」
厳めしい顔の検査官は、そう言ってじろじろ2人を見据える。
湯香里は横からフォローを入れた。
「そ、そーなんです、この子達、普段からめっちゃ食べるんですよ!」
「イエェス、サツマイモは野菜だから健康的デース!」
「そっそれに米国じゃあ、このレーションはSサイズなのでっ!」
キャシーもヘンダーソンも嘘が苦手なのか、額に冷や汗が滲んでいる。
「…………随分、汗をかいているね?」
検査官はきらりと目を光らせつつ、尚も2人を交互に見つめた。
だが2人が汗で全身の水分を失いかけた時、検査官は唐突に言った。
「……平和な時分は、外国の観光客が多くてね。欧米の人は暑がりなのか、冬でも半袖の人がよくいたよ」
彼はバインダーの『車内異常なし』項目に丸をつけ、手で帽子のずれを直した。
「体格がいいんだし、平和になったらスポーツでもやればいいよ。きっと楽しいだろうね」
彼はぎこちない笑顔を見せると、もう一人の検査官に声をかけ、共に車外へ出て行った。
「…………い、意外といい人デスね」
キャシーとヘンダーソンは、緊張の糸が切れて座り込んだ。
壮太と八千穂、晶もぐんにゃりと力無い姿勢で座っている。
湯香里も眩暈を覚え、窓枠に手をつきながら車外を眺めた。
車外に降りた検査官の後ろから、小さなハツカネズミぐらいの影がついて行くのが見える。
打ち出の小槌で小さくなった狛犬のコマと、その鬣から顔を出した誠達である。
検査官達は、他の車両の検査官と話し合い、しきりに腕時計を見ている。
検査の短縮をしないと、避難が間に合わないのを気にしているのだろう。
コマはその隙に彼らの足元を通り過ぎようとするが、例の怖い顔をした検査官が、気配を察して振り返った。
「あっ!」
湯香里は心臓が止まりそうになったが、間一髪、コマが隣の車のタイヤに隠れた。なんとか発見されずに済んだようだ。
だがそう思ったのも束の間、隣の車が検査を終えて前進を始める。
「えっ嘘、今動いたら……!」
湯香里が窓から身を乗り出すと、全く別の車の陰から、コマがちょろちょろと走り出てくる。
「…………よ、良かった」
安堵する湯香里に、コマの鬣から鶴が手を振っている。
湯香里もつられて手を振り、頑張って、と呟いた。
検査官のおじさん達が勘違いし、微笑んで手を振り返してくれた。
隣ではあの6号バスも検査を受けており、宗像さんが頭を掻きながら受け答えしていた。
誠達の車にも担当官が近付いて来て、運転手に車両のサイドブレーキとエンジン停止を指示している。
壁際に並んで立ち、借り物のように大人しくなった一同を見渡して、湯香里は念を押すように囁いた。
「……みんな、大人しくしてなさいよ。特に壮太」
「……うるせえユーカリ、お前こそちゃんとやれよ」
やがて車内に入ってきた2人の検査官に、湯香里が持ち前のコミュニケーション力で話しかけた。
「いらっしゃい、お仕事お疲れ様です。鹿児島への受け入れ感謝致します」
湯香里はそう言って軽く頭を下げる。
いかにも人を安心させる物腰であり、この辺はさすがに接客業の家系だった。
「ああ、華やかだね、特注の戦闘服かい? なんか温泉に行きたくなっちゃったよ」
検査担当のおじさんの1人は、そう言って笑顔を見せた。
車体の下に潜って調べたりもするのか、青い帽子や作業服には汚れが目立つ。
「君達こそ大変だったね。宮崎方面は特に苦しい避難だったし、気にせず休んでいるといいよ。検査といっても、爆弾なんてそうそうないから」
「ありがとうございます。私は元気なんで、見学していいですか?」
湯香里は手を後ろで組んで、おじさんの後について回る。
おじさんには申し訳ないが、話しかけて少しでも気を散らそうとしているのだ。
「それで、こっちの備えはどうなってるんですか」
「……今は何とも言えないね。避難出来た部隊もあれば……取り残されて助からなかった隊も多いし。鹿児島直属の戦力はそのままだけど、君達みたいな方面隊は、どう編成されるかは未定だよ」
「編成って、私達の部隊も解散するんですか?」
「まさか、一つ一つの部隊まではバラさないさ。急ごしらえじゃ連携も取れないし。あくまで各部隊を、鹿児島でどう配置するかって事さ。よし、床面異常なし」
おじさんはそう言って、もう1人の検査官に顔を向けた。
こちらの検査官はやや厳めしい顔立ちで、最初のおじさんより手強そうである。
彼はバインダーに検査結果を書き込んでいくが、目ざとく何かを発見した。
「戦闘人員はパイロットが6名か…………おや、ゴミ箱の弁当型携帯糧食トレーが、随分多いようだけど?」
「そ、そそそれはっ!」
湯香里が焦るが、咄嗟にキャシーが遮った。
「ご、ごごご、ご免なさいデース、私とヘンダーソンが食べたのデス!」
「そっそうだな、私は特に大食いなので!」
ヘンダーソンも慌てて会話に加わった。
「……ほう、君達が?」
厳めしい顔の検査官は、そう言ってじろじろ2人を見据える。
湯香里は横からフォローを入れた。
「そ、そーなんです、この子達、普段からめっちゃ食べるんですよ!」
「イエェス、サツマイモは野菜だから健康的デース!」
「そっそれに米国じゃあ、このレーションはSサイズなのでっ!」
キャシーもヘンダーソンも嘘が苦手なのか、額に冷や汗が滲んでいる。
「…………随分、汗をかいているね?」
検査官はきらりと目を光らせつつ、尚も2人を交互に見つめた。
だが2人が汗で全身の水分を失いかけた時、検査官は唐突に言った。
「……平和な時分は、外国の観光客が多くてね。欧米の人は暑がりなのか、冬でも半袖の人がよくいたよ」
彼はバインダーの『車内異常なし』項目に丸をつけ、手で帽子のずれを直した。
「体格がいいんだし、平和になったらスポーツでもやればいいよ。きっと楽しいだろうね」
彼はぎこちない笑顔を見せると、もう一人の検査官に声をかけ、共に車外へ出て行った。
「…………い、意外といい人デスね」
キャシーとヘンダーソンは、緊張の糸が切れて座り込んだ。
壮太と八千穂、晶もぐんにゃりと力無い姿勢で座っている。
湯香里も眩暈を覚え、窓枠に手をつきながら車外を眺めた。
車外に降りた検査官の後ろから、小さなハツカネズミぐらいの影がついて行くのが見える。
打ち出の小槌で小さくなった狛犬のコマと、その鬣から顔を出した誠達である。
検査官達は、他の車両の検査官と話し合い、しきりに腕時計を見ている。
検査の短縮をしないと、避難が間に合わないのを気にしているのだろう。
コマはその隙に彼らの足元を通り過ぎようとするが、例の怖い顔をした検査官が、気配を察して振り返った。
「あっ!」
湯香里は心臓が止まりそうになったが、間一髪、コマが隣の車のタイヤに隠れた。なんとか発見されずに済んだようだ。
だがそう思ったのも束の間、隣の車が検査を終えて前進を始める。
「えっ嘘、今動いたら……!」
湯香里が窓から身を乗り出すと、全く別の車の陰から、コマがちょろちょろと走り出てくる。
「…………よ、良かった」
安堵する湯香里に、コマの鬣から鶴が手を振っている。
湯香里もつられて手を振り、頑張って、と呟いた。
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