新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編

たっぷりお仕置きしてやるさ

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 しばし後、男は大きく間合いを取った。

 先ほど燐火と呼ばれた女も、男の傍に着地する。

「いや、恐れ入ったねえ。全神連でもえり抜きの連中だな。退散した方が良さそうだぜ、燐火ちゃん」

「……異論はないわ。2対1だときつくてね」

 彼等はきびすを返し、奥の部屋へと駆け出した。

「逃がしませんっ……!」

 鳳が追うが、誠は嫌な予感がした。

 あれだけ高度な戦いを繰り広げた相手が、こうも簡単に後ろを見せる?

 恐らく罠だ……と思ったところで、鳳の左右の壁がひび割れた。

 だが鳳はそれを読んでいたのか、瞬時に体を急制動させる。

 彼女の直前でとげのようなものが飛び出し、かみ合わされる。

飛鳥姉あすかねえっ、合わせて!」

 狐面の少年が投げた槍がかっ飛び、棘を粉々に打ち砕いた。

 槍はそのまま男達の背に迫る。

 女が振り返り、赤い光で槍を弾くが、そこに鳳が跳躍ちょうやくしていた。

 手にした太刀を振りかざし、男女の首を横薙ぎに刈り取ろうとする。

 防御の術を破られた直後で、完全にヒットするタイミングだった………が、鳳の太刀は、いや全身が、相手の前で制止していた。

「危ねえ危ねえ。最後まで油断出来ない連中だわな」

 男は前髪をかきあげながら呟く。

 その足元からは、赤黒い蛇のような光が無数に伸びて、鳳の全身に絡み付いていたのだ。

「この力……邪神の……呪法じゅほうっ……!」

 鳳はなんとかそれだけ呟く。

 必死に逃れようとするが、身動き一つ出来ないのだ。

「……おっと。妙な事はしない方がいいわよ、神人しんじんのお姫様?」

 女の言葉に、鶴の肩がぴくりと動く。

「脅しじゃなくて、何かすればこいつを焼き尽くすから」

 恐らく鶴は、霊気で術を破ろうとしていたのだろうか。

 鶴が眉間に皺を寄せ、真面目な顔で呟いた。

「……あいつらの力じゃないわ、借り物ね。多分、あのたまに込めた術だと思う」

「その通り、よく透視えたな。御前様ごぜんさまがくれた奥の手さ」

 男はポケットから小さな珠を取り出した。

 珠は赤黒い光に満ちて、禍々しく輝いている。

 男はそこで鳳に目を向けた。

「ま、いっぱい暴れてくれた礼だ。あっちに招待して、たっぷりお仕置きしてやるさ」

「……っ!」

 鳳が苦しげに身を震わせた瞬間、誠は前に飛び出していた。

 理由など分からないが、そうせずにいられなかったのだ。

「……あらら、素人さんがいきっちゃってまあ」

 男は舐めきった様子で言うと、片方の手をこちらに突き出す。

 確かに誠は素人だ。術の知識なんて無いが、発動のタイミングぐらいは分かる。

 誠が集中し、相手の動きがスローに見えると、手の平に細い稲妻のような光が見えた。

 敵が魔法を編み上げる前に起きる、電磁場の歪みである。

 誠はぎりぎりで体を低く沈めた。

 赤い炎が渦巻いて、誠の頭上を行き過ぎていく。

「おっ!? こいつ避けやがった!」

 男が驚いた瞬間、女が何かを呟いた。

 すると女から巨大な火弾が放たれ、誠に迫った。

 通路を埋め尽くすような巨大な炎に、避けられない、と思った瞬間、誠の左手甲の逆鱗が、割れんばかりに輝いた。

 逆鱗から浮き出た光は、瞬時に漆黒の太刀へと変わる。

 誠が太刀を掴むと、火弾は誠に触れる前に弾けた。

(…………っ!!!)

 物凄い霊力が、誠の全身にみなぎっている。

 向こうが邪神の力なら、こっちだって女神の太刀……それもあのおっかない岩凪姫がくれた武器だ。炎なんかに負けるわけがない。

 誠はそのまま太刀を構え、真一文字に間合いを詰めた。

「ちっ、ハッタリだろ!? この女が巻き添え喰うぜ?」

 男は鳳を盾にするように差し出すが、女が叫んだ。

「違うほむら、女神の太刀よ! 人は斬れない!」

「何だと!?」

 男は咄嗟に鳳を放し、女と共に飛び下がる。

 同時に鶴が手を叩き合わせると、男が手にした珠は砕け、赤黒い蛇はもがきながら消えていった。

「確かに邪神の呪詛だけど、使い手が未熟なら意味がないわ!」

 鶴はきらりと目を光らせ、格好いい表情で言ってのける。

「この私のように、真面目に修行してないからそうなるのよ」

 今はコマがおらず、ツッコミ役がいないのを見越しての発言だろう。

 誠はその隙に鳳をかばう位置に移動した。

「……ちっ、せっかく御前様ごぜんさまからもらったのによ」

 男はしばし砕けた珠を見ていたが、やがて諦めたように肩を竦める。

「ま、しゃーない。撤収するか燐火りんかちゃん」

「……そうね。あいつらも回収できたし」

 女が片手の指を弾くと、倒れていた連中に赤い光が宿る。

 仏具でいう独鈷どっこに似た何かが、彼らの上に浮かんでいた。

「うわっ、いつの間に!?」

「私達と戦いながら撒いてたの?」

 狐面の2人が驚くが、女は何でもない事のように言った。

「そっちはただのアンテナ、子機みたいなものよ。術本体はあくまでこっち」

 女は足元の魔法陣を指差す。

 飛び退いた時、魔法陣の上に来るように着地していたのだ。

 魔法陣は次第に光を増して、男女の姿を包み込んでいく。

 男は最後に誠に言った。

「なあ少年、その太刀、女神の契約だろ?」

「……だったら?」

 誠の答えに、男はニヤついた。

「……神の契約は怖ぇぞ? 今は便利だけど、そのうち後悔するからな」

 やがて魔法陣が猛烈な光を放つと、彼らの姿はかき消えた。

 倒れていた彼らの配下も、同様に姿を消していたのだ。
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