54 / 90
第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編
たっぷりお仕置きしてやるさ
しおりを挟む
しばし後、男は大きく間合いを取った。
先ほど燐火と呼ばれた女も、男の傍に着地する。
「いや、恐れ入ったねえ。全神連でもえり抜きの連中だな。退散した方が良さそうだぜ、燐火ちゃん」
「……異論はないわ。2対1だときつくてね」
彼等はきびすを返し、奥の部屋へと駆け出した。
「逃がしませんっ……!」
鳳が追うが、誠は嫌な予感がした。
あれだけ高度な戦いを繰り広げた相手が、こうも簡単に後ろを見せる?
恐らく罠だ……と思ったところで、鳳の左右の壁がひび割れた。
だが鳳はそれを読んでいたのか、瞬時に体を急制動させる。
彼女の直前で棘のようなものが飛び出し、かみ合わされる。
「飛鳥姉っ、合わせて!」
狐面の少年が投げた槍がかっ飛び、棘を粉々に打ち砕いた。
槍はそのまま男達の背に迫る。
女が振り返り、赤い光で槍を弾くが、そこに鳳が跳躍していた。
手にした太刀を振りかざし、男女の首を横薙ぎに刈り取ろうとする。
防御の術を破られた直後で、完全にヒットするタイミングだった………が、鳳の太刀は、いや全身が、相手の前で制止していた。
「危ねえ危ねえ。最後まで油断出来ない連中だわな」
男は前髪をかきあげながら呟く。
その足元からは、赤黒い蛇のような光が無数に伸びて、鳳の全身に絡み付いていたのだ。
「この力……邪神の……呪法っ……!」
鳳はなんとかそれだけ呟く。
必死に逃れようとするが、身動き一つ出来ないのだ。
「……おっと。妙な事はしない方がいいわよ、神人のお姫様?」
女の言葉に、鶴の肩がぴくりと動く。
「脅しじゃなくて、何かすればこいつを焼き尽くすから」
恐らく鶴は、霊気で術を破ろうとしていたのだろうか。
鶴が眉間に皺を寄せ、真面目な顔で呟いた。
「……あいつらの力じゃないわ、借り物ね。多分、あの珠に込めた術だと思う」
「その通り、よく透視えたな。御前様がくれた奥の手さ」
男はポケットから小さな珠を取り出した。
珠は赤黒い光に満ちて、禍々しく輝いている。
男はそこで鳳に目を向けた。
「ま、いっぱい暴れてくれた礼だ。あっちに招待して、たっぷりお仕置きしてやるさ」
「……っ!」
鳳が苦しげに身を震わせた瞬間、誠は前に飛び出していた。
理由など分からないが、そうせずにいられなかったのだ。
「……あらら、素人さんがいきっちゃってまあ」
男は舐めきった様子で言うと、片方の手をこちらに突き出す。
確かに誠は素人だ。術の知識なんて無いが、発動のタイミングぐらいは分かる。
誠が集中し、相手の動きがスローに見えると、手の平に細い稲妻のような光が見えた。
敵が魔法を編み上げる前に起きる、電磁場の歪みである。
誠はぎりぎりで体を低く沈めた。
赤い炎が渦巻いて、誠の頭上を行き過ぎていく。
「おっ!? こいつ避けやがった!」
男が驚いた瞬間、女が何かを呟いた。
すると女から巨大な火弾が放たれ、誠に迫った。
通路を埋め尽くすような巨大な炎に、避けられない、と思った瞬間、誠の左手甲の逆鱗が、割れんばかりに輝いた。
逆鱗から浮き出た光は、瞬時に漆黒の太刀へと変わる。
誠が太刀を掴むと、火弾は誠に触れる前に弾けた。
(…………っ!!!)
物凄い霊力が、誠の全身に漲っている。
向こうが邪神の力なら、こっちだって女神の太刀……それもあのおっかない岩凪姫がくれた武器だ。炎なんかに負けるわけがない。
誠はそのまま太刀を構え、真一文字に間合いを詰めた。
「ちっ、ハッタリだろ!? この女が巻き添え喰うぜ?」
男は鳳を盾にするように差し出すが、女が叫んだ。
「違う焔、女神の太刀よ! 人は斬れない!」
「何だと!?」
男は咄嗟に鳳を放し、女と共に飛び下がる。
同時に鶴が手を叩き合わせると、男が手にした珠は砕け、赤黒い蛇はもがきながら消えていった。
「確かに邪神の呪詛だけど、使い手が未熟なら意味がないわ!」
鶴はきらりと目を光らせ、格好いい表情で言ってのける。
「この私のように、真面目に修行してないからそうなるのよ」
今はコマがおらず、ツッコミ役がいないのを見越しての発言だろう。
誠はその隙に鳳をかばう位置に移動した。
「……ちっ、せっかく御前様からもらったのによ」
男はしばし砕けた珠を見ていたが、やがて諦めたように肩を竦める。
「ま、しゃーない。撤収するか燐火ちゃん」
「……そうね。あいつらも回収できたし」
女が片手の指を弾くと、倒れていた連中に赤い光が宿る。
仏具でいう独鈷に似た何かが、彼らの上に浮かんでいた。
「うわっ、いつの間に!?」
「私達と戦いながら撒いてたの?」
狐面の2人が驚くが、女は何でもない事のように言った。
「そっちはただのアンテナ、子機みたいなものよ。術本体はあくまでこっち」
女は足元の魔法陣を指差す。
飛び退いた時、魔法陣の上に来るように着地していたのだ。
魔法陣は次第に光を増して、男女の姿を包み込んでいく。
男は最後に誠に言った。
「なあ少年、その太刀、女神の契約だろ?」
「……だったら?」
誠の答えに、男はニヤついた。
「……神の契約は怖ぇぞ? 今は便利だけど、そのうち後悔するからな」
やがて魔法陣が猛烈な光を放つと、彼らの姿はかき消えた。
倒れていた彼らの配下も、同様に姿を消していたのだ。
先ほど燐火と呼ばれた女も、男の傍に着地する。
「いや、恐れ入ったねえ。全神連でもえり抜きの連中だな。退散した方が良さそうだぜ、燐火ちゃん」
「……異論はないわ。2対1だときつくてね」
彼等はきびすを返し、奥の部屋へと駆け出した。
「逃がしませんっ……!」
鳳が追うが、誠は嫌な予感がした。
あれだけ高度な戦いを繰り広げた相手が、こうも簡単に後ろを見せる?
恐らく罠だ……と思ったところで、鳳の左右の壁がひび割れた。
だが鳳はそれを読んでいたのか、瞬時に体を急制動させる。
彼女の直前で棘のようなものが飛び出し、かみ合わされる。
「飛鳥姉っ、合わせて!」
狐面の少年が投げた槍がかっ飛び、棘を粉々に打ち砕いた。
槍はそのまま男達の背に迫る。
女が振り返り、赤い光で槍を弾くが、そこに鳳が跳躍していた。
手にした太刀を振りかざし、男女の首を横薙ぎに刈り取ろうとする。
防御の術を破られた直後で、完全にヒットするタイミングだった………が、鳳の太刀は、いや全身が、相手の前で制止していた。
「危ねえ危ねえ。最後まで油断出来ない連中だわな」
男は前髪をかきあげながら呟く。
その足元からは、赤黒い蛇のような光が無数に伸びて、鳳の全身に絡み付いていたのだ。
「この力……邪神の……呪法っ……!」
鳳はなんとかそれだけ呟く。
必死に逃れようとするが、身動き一つ出来ないのだ。
「……おっと。妙な事はしない方がいいわよ、神人のお姫様?」
女の言葉に、鶴の肩がぴくりと動く。
「脅しじゃなくて、何かすればこいつを焼き尽くすから」
恐らく鶴は、霊気で術を破ろうとしていたのだろうか。
鶴が眉間に皺を寄せ、真面目な顔で呟いた。
「……あいつらの力じゃないわ、借り物ね。多分、あの珠に込めた術だと思う」
「その通り、よく透視えたな。御前様がくれた奥の手さ」
男はポケットから小さな珠を取り出した。
珠は赤黒い光に満ちて、禍々しく輝いている。
男はそこで鳳に目を向けた。
「ま、いっぱい暴れてくれた礼だ。あっちに招待して、たっぷりお仕置きしてやるさ」
「……っ!」
鳳が苦しげに身を震わせた瞬間、誠は前に飛び出していた。
理由など分からないが、そうせずにいられなかったのだ。
「……あらら、素人さんがいきっちゃってまあ」
男は舐めきった様子で言うと、片方の手をこちらに突き出す。
確かに誠は素人だ。術の知識なんて無いが、発動のタイミングぐらいは分かる。
誠が集中し、相手の動きがスローに見えると、手の平に細い稲妻のような光が見えた。
敵が魔法を編み上げる前に起きる、電磁場の歪みである。
誠はぎりぎりで体を低く沈めた。
赤い炎が渦巻いて、誠の頭上を行き過ぎていく。
「おっ!? こいつ避けやがった!」
男が驚いた瞬間、女が何かを呟いた。
すると女から巨大な火弾が放たれ、誠に迫った。
通路を埋め尽くすような巨大な炎に、避けられない、と思った瞬間、誠の左手甲の逆鱗が、割れんばかりに輝いた。
逆鱗から浮き出た光は、瞬時に漆黒の太刀へと変わる。
誠が太刀を掴むと、火弾は誠に触れる前に弾けた。
(…………っ!!!)
物凄い霊力が、誠の全身に漲っている。
向こうが邪神の力なら、こっちだって女神の太刀……それもあのおっかない岩凪姫がくれた武器だ。炎なんかに負けるわけがない。
誠はそのまま太刀を構え、真一文字に間合いを詰めた。
「ちっ、ハッタリだろ!? この女が巻き添え喰うぜ?」
男は鳳を盾にするように差し出すが、女が叫んだ。
「違う焔、女神の太刀よ! 人は斬れない!」
「何だと!?」
男は咄嗟に鳳を放し、女と共に飛び下がる。
同時に鶴が手を叩き合わせると、男が手にした珠は砕け、赤黒い蛇はもがきながら消えていった。
「確かに邪神の呪詛だけど、使い手が未熟なら意味がないわ!」
鶴はきらりと目を光らせ、格好いい表情で言ってのける。
「この私のように、真面目に修行してないからそうなるのよ」
今はコマがおらず、ツッコミ役がいないのを見越しての発言だろう。
誠はその隙に鳳をかばう位置に移動した。
「……ちっ、せっかく御前様からもらったのによ」
男はしばし砕けた珠を見ていたが、やがて諦めたように肩を竦める。
「ま、しゃーない。撤収するか燐火ちゃん」
「……そうね。あいつらも回収できたし」
女が片手の指を弾くと、倒れていた連中に赤い光が宿る。
仏具でいう独鈷に似た何かが、彼らの上に浮かんでいた。
「うわっ、いつの間に!?」
「私達と戦いながら撒いてたの?」
狐面の2人が驚くが、女は何でもない事のように言った。
「そっちはただのアンテナ、子機みたいなものよ。術本体はあくまでこっち」
女は足元の魔法陣を指差す。
飛び退いた時、魔法陣の上に来るように着地していたのだ。
魔法陣は次第に光を増して、男女の姿を包み込んでいく。
男は最後に誠に言った。
「なあ少年、その太刀、女神の契約だろ?」
「……だったら?」
誠の答えに、男はニヤついた。
「……神の契約は怖ぇぞ? 今は便利だけど、そのうち後悔するからな」
やがて魔法陣が猛烈な光を放つと、彼らの姿はかき消えた。
倒れていた彼らの配下も、同様に姿を消していたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる