新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
67 / 90
第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

じきにこの世に這い出てくるぞ

しおりを挟む
「どうかしらナギっぺ、この鶴ちゃんの大活躍は。見事同盟を成し遂げたわよ」

 鶴は調印式の控え室にて、女神・岩凪姫に連絡を取った。

 失敗した時は出来るだけ報告を先延ばしするのに、成功した今は待ち切れなかったのだろう。

 調子に乗って怒られるのではないか、と誠は心配したが、画面に映った女神は、思ったよりずっと穏やかな表情だった。

 鶴は満面の笑みで、ここぞとばかりにアピールしている。

「それじゃあ、ここに数百ページに渡る報告書があるから、粛々しゅくしゅくと読むわね。まず第1章よ。昔々、まだナギっぺが、私を不真面目だと決め付けていた頃。そんな偏見にも負けず、鶴ちゃんはひたすら真面目にがんばっていたわ」

 鶴の報告は延々と続く。

 横で聞く誠にとって、どうにも話を盛っている所が多すぎるのだが、女神は特に否定しなかった。

「……いや、まあ今回は、本当に良くやったと私も思う。この短期間で、よくぞ第6船団の人々を守り、共闘を取り付けた。前にも言った通り、鎮西は私と妹の故郷だし、改めて礼を言おう」

「まあ! ナギっぺもようやく、私の素晴らしさが分かってきたのね!」

 鶴は調子に乗りまくり、尚も手柄を誇張こちょうするが、女神はたまりかねて話を変えた。

「ちょっと待て、それはおいおい聞くとして、その後の敵の様子はどうだ」

「そこを何とか、今聞いて欲しいのよ。追加の報告書もたんとあるから。第2章は、不真面目な狛犬の妨害。第3章は、マンゴーについて……」

 報告書を台車に乗せ、次々鶴が運んで来るので、コマが慌ててフォローに入った。

「そ、それは後で僕も聞くから、先に地図をね?」

「もう、しょうがない狛犬ねえ」

 コマにも促され、鶴はしぶしぶ半透明の地図を映し出した。

 南部や東西に広がっていた敵軍はほぼ撤退しており、餓霊を示す赤い光点は、九州の中央部に集中している。

 敵軍を包むようにそびえる高地は、この国随一の力を持つ火山のかんむりであり、日本人なら誰もが名を知る外輪山がいりんざん

 すなわち、阿蘇の大カルデラであった。

「邪気が減ったから、かなり遠くまで見えるね。いや、鶴がパワーアップしたのが大きいのかな」

 コマが素直に喜ぶが、岩凪姫はいぶかしげだった。

「おかしいぞ。いくら鹿児島攻めに失敗したからと言って、なぜ東西の戦力まで阿蘇に引きこもったのだ? これでは容易く人に攻められるではないか」

「もう少し拡大してみるわ」

 鶴は地図を拡大していく。

 拡大すると、敵軍はさすがの大兵力である。とてつもない量の餓霊が押し寄せ、幾重にも陣をしいているのだ。

 中央の火口には特に異常はない……が、そこで一同は、不可思議なものに気が付いた。

 外輪山の中に位置する、黒く染まったエリアである。

 それは一言で言えば、漆黒の社。

 小さな町一つほどのエリアに立つ、巨大な神社建築であった。

 ごつごつした質感がうかがえる事から、素材は岩か溶岩だろうか。

 そして中央の拝殿はいでんらしき建物の中で、赤い光がうごめいていた。

 まるで巨大な光のまゆが、成長を続けているかのようだ。

 そこで岩凪姫が呟いた。

「…………まさか……こんな手を使うとはな……!」

「あれは一体……?」

 誠の問いに、岩凪姫は険しい表情で答えた。

「子供の喧嘩に親が出る、だ。火口のエネルギーを引いて、強力な反魂の術を使っている。連中の祖霊神おやがみが受肉しかけているのだろう」

「おやがみ?」

「そう、魂の大部分を封じられていながら、分霊わけみだけで、かりそめの巨体からだを動かそうとしている。しくじれば魂が砕けるかもしれんのに、よほど子孫が可愛いと見える」

 誠の視線に気付き、岩凪姫はそこで語気を弱めた。

「……少し喋りすぎたな。あまり詳しくは言えぬが、とにかくケタ外れに強いと思っておけ。あの術が完成すれば、じきにこの世に這い出てくるぞ」

「這い出たら、どうなります」

「負ける」

 岩凪姫は率直に言った。

「肉体を得たあヤツには、いかなお前達でもどうにもならん。恐らく短時間しか動けぬはずだが、小1時間もあれば、九州全土は焼け野原になるだろう。今までの戦いは、これで全てひっくり返る」

 岩凪姫はそこで強い視線で誠達を見据えた。

「2人とも、消耗しているのは分かるが、今を逃してはならぬ。一刻も早くあの社にたどり着き、この魔封じの勾玉でヤツの具現化を阻止するのだ」

 女神が差し出した首飾りには、無数の勾玉が繋がれていた。

 それは光に包まれると、鶴の前に瞬間移動したのだ。

 事の重大さをかみ締め、誠はもう一度地図を見つめた。

 そこでふと気が付いたのだ。

(あれ……? この形、なんか高千穂研に……)

 何となく、黒い社の敷地の形が、昔見た高千穂研究所の見取り図に似ているような気がしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...