新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

極秘作戦・つるちゃんの宅配便

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 人間側の対応は素早かった。

 第5・第6船団の人々は、再び艦長室キャビンに集合したのだ。

「こ、これは……」

 鶴が表示した半透明の地図と、そこに映し出された黒い社を見たとたん、一同は息を飲んだ。

「こんな切り札が、連中にあったとは……」

 呟く島津の表情も厳しい。

「東西の戦力が急激に撤退したのも、この切り札さえ目覚めれば勝てるからというわけか……」

「ねえ鶴、あれが出てくるのはどれぐらいだろう」

 コマの問いに、鶴は腕組みして首を傾げた。

「うーん、霊気で肉を作るから……あの社が満ちるぐらいと考えると、遅くて明後日あさって。早ければ明日ぐらいかしらね」

「な、なんと……!」

 あれだけの大軍勢を、そんな短期間で突破しなければならないとは……

 一同は動揺したが、ともかく慌しく動き始めた。

 各方面に連絡を取り、戦力を確保しつつ、参謀方をまじえて攻略法を検討し始める。

 天草は真剣な顔で鶴の地図を見つめた。

「敵軍は数万単位……それも半数以上は、普通の餓霊ではないようね。他の船団の基準をお借りすれば、狗王型くおうがたから厨子王ずしおうクラスがひしめいてる。いわば全てが対ボス戦か……」

 天草はそこで参謀方から、概算戦力の資料を受け取る。彼女は資料を見ながら、厳しい顔で呟いた。

「やはり急行できる陸戦力のみで、突破するのは難しいか……」

「困ったなあ黒鷹、君ならどうする?」

 コマが尋ねると、鶴も目を輝かせた。

「そうよ、こういう時は黒鷹だわ!」

「そうですとも、鳴瀬くん、君の意見をぜひ聞きたい!」

 佐々木も調子に乗って、誠の方をずいと見る。

「鳴瀬くん、君は第5船団勝利の立役者の一人だし、さらに鹿児島防衛戦の奇策も立案したと聞く。ぜひ君の意見を聞こうじゃないか」

 佐々木につられ、天草や島津、その他参謀方までが誠を見るので、誠は内心焦ってしまった。

「い、いや、俺だけじゃ無理ですよ。みんなで考えないと……」

 誠はたじろぐが、コマは容赦なく誠を追い詰める。

「しょうがないよ黒鷹。鶴の魔法と人間の戦い方、両方に通じてるのは、傍で見てきた君だけなんだもの」

「確かに、そう言われればそうだけど……」

 コマの言い分はもっともであるが、誠は困り果ててしまった。

 いかに奇襲奇策が得意とはいえ、圧倒的な数の差があり、更に敵軍は、一体一体が破格の強さを誇るのだ。

 はっきり言って無茶苦茶だ、とも思ったが、解決策に飢えた人々は、すがれるものなら何にでもすがってやるぐらいの気迫で、誠を見据えているのだ。

 誠は仕方なく、一つずつ可能性を聞いてみた。

「ヒメ子、戦力が足りないなら、一時的に増やせないか? 小豆島の時みたいに」

「そうめんとお醤油みたいに? あれは清めた土地じゃないと使えないわ」

 鶴は首を振って地図を指差した。

「ほら、阿蘇のお山の輪っか……外輪山ていうの? この中に入ると、邪気が一気に濃くなって溜まってるのよ。私の術も前より強くなってるけど、これだけ邪気が濃ゆいとね。そうめんやお醤油も、すぐ元に戻ってしまうわ」

「しょうゆと戦いに関係が?」「何かの暗号なのでは」「データベースでそうめんを調べろ!」と混乱している参謀方をよそに、鶴はそう答えた。

 誠はなおも地図をにらみながら尋ねる。

「陸戦力でだめなら、西の島原湾から、艦砲射撃で敵軍を削ればどうだろう」

「それも厳しいと思うよ黒鷹」

 コマが前足を上げ、阿蘇山のあたりを指して言う。

「阿蘇の上空は、邪気の霧がもの凄く濃いからね。いくら砲弾の属性添加が強くても、遠くから邪気をかき分ければ、威力が殆ど無くなっちゃう」

「うーん……弱ったな」

 誠も困って腕組みをし、宙を見上げた。

 自走砲などの陸上兵器の威力では、あのボスだらけの大軍勢を突破する力に欠ける。

 艦砲射撃なら威力は十分だが、霧のせいで効果がない。

 かといって小豆島のそうめんのように、魔法で兵力を増やそうとしても、邪気が強い場所ではすぐに効果が切れてしまう。

 一体どうすればいいのだろう。

 鶴はコマと相談している。

「ねえコマ、前みたいに、こっそり潜り込むわけにはいかないかしら」

「あの距離をバレずに進むなんて無理だよ」

 鶴達の横顔を見つめながら、誠はふと違和感を感じた。

「…………こっそり?」

 自分でも不思議だが、なぜかそこがひっかかるのだ。

 こっそり……こっそり潜り込む?

 そうだ、鹿児島にもそうやって入ったんだっけ。

 確か、打ち出の小槌で小さくなって………………誠はそこで目を見開いた。

「あああああああああっ!!!」

「きたわ!!!」

 鶴は飛び上がって喜んだ。

 バーン、と艦長室キャビンの扉が開かれ、鳳と神使達も乱入してくる。

「黒鷹殿、またいやらしい攻めですか!?」

「待ちかねたで、とうへんぼく!」

「モウ待てません!」

「い、いや、聞いてたんですか鳳さん。それにこのケダモノどもめ!」

 神使達にキックを食らう誠だったが、鶴はお構いなしに誠の肩をばんばん叩く。

「それで黒鷹、どういう作戦かしら」

「それは……ぐはっ! ヒメ子、俺の考えを他の人に渡せるか?」

 誠は神使達にボディーブローを食らいながら鶴に尋ねる。

「出来るわよ。鶴ちゃん経由で、考えてる事を送ればいいんでしょう?」

「そうだ。それとヒメ子、この部屋の中に、敵の気配は全くないな? 小さな気配でも絶対だめだ」

「もちろんないわ」

「よし。じゃあ皆さん、万が一盗聴の危険もあるので、作戦の根幹部分は絶対に口にしないで下さい。敵に漏れたら終わりですから……ぐはっ!」

 誠は神使の空中殺法じゃれつきに耐えつつ、鶴に目配せをする。

 鶴が頷き、目の前で手を合わせると、そこから青い光が広がった。

 涼やかな感触が肌を撫でると、誠の思念が皆に伝わったようだ。

「…………………………………………」

 一同は、何とも言えない顔をしていた。本当に変な顔だった。

 誰もが第一声を発するのを嫌がっていたが、やがて沈黙に耐え切れなくなったのか、天草が恐る恐る手を挙げる。

「…………そ、それ、本当に出来るのかしら……? いくらその、鶴ちゃんでも……とても信じられないというか……」

 ドン引きの天草に対し、鶴は自信満々に鎧の胸を叩く。

「大丈夫、私こういうの得意よ。した事はないけど」

 ひどすぎるよ、とツッコミを入れるコマだったが、鶴の自信は揺らがない。

「理屈としては十分出来るわ。ねえコマ、平和になったら、お届け屋さんを始めようかしら。ホウキに乗って、コマを全身黒く塗って……」

「それは魔女のお話だよね?」

「…………ま、まあ、鶴ちゃんさんの戦いは、無理をくつがえす事の連続ですからな。他に希望がない以上、その方向で準備しましょう」

 佐々木もさすがにドン引きした表情だったが、気を遣ってまとめてくれた。

「……とにかく、こちらからの攻め手は3つですな。鹿児島から九州自動車道を北上する戦力。西の島原湾から上陸し、熊本経由で向かう戦力。東の別府湾から上陸する戦力。この3隊で阿蘇の外輪山を目指す。外輪山を通過した時点で、『極秘作戦・鶴ちゃんの宅配便』を決行し、その隙にあの黒い社を破壊する、と。第5船団からも戦力を派遣しますが、彼らを含め、作戦の統合指揮は、地元である第6船団にお任せしますよ」

 佐々木の言葉に、島津が頷いた。

「さっそくのご協力、いたみいる」

 両船団長は硬く握手を交わし、その上に椿油のビンが手を重ねた。

 こうして史上初めて、2つの船団が協力して戦う、一大決戦が始まったのだ。
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