新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

アマビエに羽は無い?

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「久しぶりね瞳、無事でよかった。で、隣にいるのがアマビエちゃんか」

 壁際のモニターに映る友人、雪菜は、そう言って嬉しそうに微笑んだ。

 睫毛まつげの長い大きな目と、優しげな表情。

 金の髪を長く伸ばし、モスグリーンの軍用ジャケットに身を包んでいる。

 前見た時より更に綺麗で、更に女性らしくなっていた旧友は、素直に再会を喜んでくれていた。

 今までの数年にわたる断絶など、全く気にも留めていないようだ。

 天草は、翼を上げて雪菜に挨拶するアマビエを見ながら答えた。

「まあ、なんとか無事かな? あの不思議な助っ人さん達のおかげで……何がなんだかわからないけどね」

「そりゃそうよ瞳。私だって、未だにわけが分からないんだもの」

 2人はそこで耐え切れずに笑った。

「ごめんね。こないだの調印式、私も九州そっちに行きたかったんだけど、こっちも四国防衛戦の事務処理がてんこもりで」

 雪菜の言い分はよく分かる。現場の戦いが終われば、今度は事務方の戦いが始まるのだ。

 被害状況の調査と報告、補給の手配や人員の交代など、普段とはケタ違いの仕事が襲ってくるため、事務方はてんてこまいになるのである。

「分かってるわ雪菜、お互いやってる事は似通にかよってるもの。パイロットを引退して、お飾りだけど、指揮官の真似事なんかやってて」

 天草は微笑んで、それから目を伏せた。

「…………こっちこそごめんね。今まで連絡しなくて」

「何よそんな水臭い。間接的だけど、これでまた一緒に戦えるじゃない」

 雪菜はそこで鼻息を荒くし、トレーニング用のダンベルを出してきた。

「とは言え私も、パイロットの復帰を諦めてないし、毎日こっそり鍛えてるの。もうバーベルのっけ盛りで。高く盛る事、皿鉢さわちのごとしよ」

 ごちそうをドカ盛りした皿鉢さわち料理の写真を見せつつ、雪菜は興奮気味に説明を続ける。

 雪菜の隣には、ダンベルを持った龍が現れ、トレーニングの正しいフォームを実演して見せていた。

(こういう子なんだよね……)

 天草は苦笑した。

 この子はいつもそうなのだ。意地っ張りな自分と違って、素直で透き通っている。

(だから、明日馬くんも好きになったんだ……)

 あの戦いの日々の中で、2人は同じ人を好きになった。神武勲章レジェンド隊で最も名を馳せたパイロットの明日馬あすまである。

 彼女達が両想いであると察した天草は、持ち前の意地っ張りさもあって、自らの気持ちを封印した。

 そのまま友人の背を押し、強引に明日馬とくっつけたのだが…………日々の戦いに終われ、デートする間もなく明日馬は死んだ。

 その時の喪失感は、今も天草の胸にくすぶり続けている。

 それは雪菜も同じだろうが、彼女は前を向き、笑って生きようとしているのだ。

(……ほんと、この子にはかなわないな……)

 そんな天草の内心も知らず、雪菜は尚もにこにこ話し続けている。

「まあ皿鉢談義はこのぐらいにして、あの子達、とっても凄いでしょう? 鶴ちゃんはいわずもがなだけど、鳴瀬くんもなかなかどうして」

「うっ……!? な、鳴瀬……くん、ね」

 天草は再びお風呂の事を思い出し、赤い顔で頷いた。

「あっ、あの子そう言えばっ、雪菜の教え子だったのよね? 私達の後ろの……サポート班にいて。小さいのに凄く腕が立ってた気がする」

「そうそう。初めて鳴瀬くんと会った時、あなたと似てるなって思って、ほっとけなかったの」

「私に……?」

 天草は初耳だった。

「そうよ。あの子、お父さんが高千穂研の主要研究員だったから、随分酷い目にあってね。よってたかって苛められて、飢え死にまでしかけてて。だから、余計親身になっちゃった」

 雪菜は昔を懐かしむように言うが、天草は呆然としていた。

「…………そ、そんな事、全然知らなかった……」

 あの頃は日々の戦いに必死だったし、あの子の事も、よくある孤児だと思っていた。自分も含め、身寄りのない子供など無数にいたからだ。

 でも彼は、むしろ自分より過酷な環境に身を置いていたのだ。

 自分は運良くほとんど責められずに済んだし、親に裏切られたとして同情も浴びたが、彼は同じ境遇で苦しみ抜いていたのだ。

「考えてもみなかった……全然、そんなふうに見えなかったから……」

「強い子でしょ? 私の自慢の弟子なんだから。今じゃ鶉谷うずらたにスペシャルを使う、たった一人のパイロットよ」

 鶉谷スペシャルというのは、敵の後ろに回りこんで斬りつける、雪菜の得意技である。

 本来は僚機りょうきとの連携技であり、単独で使う技ではないのだが……天草の注意は、ふと別のところに引き付けられた。

 嬉しそうに語る雪菜の顔が、昔の彼女とかぶったのだ。

「…………ね、ねえ雪菜…………もしかして、もしかしたりする……?」

「え?」

「……その、鳴瀬くんと、雪菜って…………その、そういう事?」

「!!!!!!」

 雪菜は途端に真っ赤になった。まるで瞬間湯沸かし器である。

 手をぶんぶん振りながら、必死に言い訳を始めた。

「ちっ、ちちち違うのよっ、それはその、私は保護者みたいなもので、お姉さんとしての威厳が、でも妖精は好き勝手な事言うし、坂本竜馬が!」

「好きなのよね?」

「うっ…………」

 更に問い詰める天草に、雪菜は観念して押し黙った。

 トマトみたいに赤い顔で、もじもじしながら俯いている。

 この子は本当に分かりやすいな、と思いつつ、天草は続けた。

「……明日馬くんとはデートも出来なかったんだから、今度はちゃんとやりなさいよ?」

「……そ、それはその……ねえ、辰之助たつのすけくん……?」

 雪菜は困って、隣の龍に話を振るが、龍は楽しげにプロテインを混ぜていて聞いていない。

 天草はもう少し雪菜を困らせたくなって、ダメ押しの言葉をかける。

「この戦いに勝ったら、きっとまた会えるわ。その時は、2人の子供を紹介してね」

「バカっ!」

 雪菜は赤い顔で言うと、そこで強引に話題を変えてきた。

「そっ、そうよ、そう言えばそのアマビエちゃん、羽が生えてるのね?」

 唐突な指摘に、天草は不意を突かれた。

 今はすやすや眠り始めたアマビエを見つめる。

「えっ…? 羽があるもんじゃないの?」

「海の妖怪でしょ。羽があるわけないじゃない」

 雪菜の指摘はごもっともである。

「何でかな。ずっと羽があるものだと思ってたけど……」

 天草は、そこで鈍い頭痛に襲われた。

 片手でこめかみを押さえ、それから過去に思いを馳せる。

 ……何だろう。何か大事な事を忘れている気がするのだ。
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