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第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編
整備班の休憩。おいも欲しい
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校庭に建てられた格納庫は、かまぼこ型の青い屋根が印象的だった。幼い頃に読んだ本によると、円筒形の立体トラス構造というらしい。
隣には学校時代の遺物である藤棚が朽ちかけていて、無機的で頑強な格納庫とはいかにも対照的だった。
格納庫の中に入ると、さすがに全力の修理中だけあって、多種多様な機材が合戦場の落し物のごとく散らばっていた。
壁際には人型重機が彫像のように並んでいて、操縦席から延びる無数の配線が、まるで人体の神経標本のように生々しい。
「おじゃましまーす……うわっ!?」
殺意に振り返ると、整備主任の美濃木が物凄い勢いで走ってきて、調べれば調べるほど壊れとるわーい、と誠に飛び乗る。
肩車の体勢から誠の首をゴキゴキ鳴らす美濃木だったが、誠が差し入れを持ってきたと言うと、すぐにやめて飛び降りた。
「なんじゃ、それを早く言わんかい」
「言う間も無く襲撃してきたんでしょうがっ」
「細かい事は気にするでない。よっしゃ、みんな休憩じゃい」
「わあ、嬉しいっす。甘いものは貴重なんですよね」
機体の肩にのぼっていた坊主頭の尚一は、工具を振ってそう答えた。
誠はテーブルにお菓子を取り出しながら、パッケージに刻印された微妙なネーミングに眉を顰めた。
合成チョコレートを使った甘味は『チョコっとだけよ』、サツマイモを使った甘い菓子は『おいも侍』。パッケージには腕組みした西郷隆盛が描かれ、「おいも欲しい」という吹き出しが、誠の疲労感を倍増させる。
オキアミを粒が残る程度に練って薄く広げ、油で揚げてサクサクした食感を出したスナック菓子は『海の砂っく』。
香ばしく、程よい塩味と海の旨みがするよい菓子なのだが、パッケージにはやっつけでデザインされたキャラが描かれている。イカや魚を模したそのキャラは、目だけはリアルな魚介のままで、初見で夢に出てきそうな狂気を感じさせた。
「うまいけど、食感を砂に例えるなよ……」
誠は次々お菓子をテーブルに出して行った。
一同は集まって一息つきつつ、先の戦いで撮影した映像を見入った。
「うわあ……相変わらずえげつない戦い方しますね。一回の出撃でなんぼ撃墜稼ぐんですか。こんだけ強くて稼げたら、普通は特務隊に行きますけど、残った理由はやっぱり愛ですかねえ?」
メガネにお下げの女性作業員……北海道出身のなぎさが言うと、美濃木が髭を撫でながら悪乗りした。
「いや、それはワシも思っていたんじゃ。お前さんや、その仲間でもなかなかの腕じゃ。誰一人とっても、腕一つで成り上がっていく立身出世の英雄譚になりそうなもんじゃがのう。尚一も思うじゃろ」
尚一は美濃木の言葉に頷いた。
「いや実際、腕に覚えがあるなら、成り上がる方が多数派ですよね。第3船団とか特にそうでしょ。ここと違う基地の連中がどうしてるか、機会があったら見てみたいですね」
「確かに、どんな情報でも参考にはなるからな……」
誠も同意し、それから美濃木に向き直った。
「でも実際使ってみて、OSもかなり仕上がってると思います。動作中でも姿勢制御がすごくいい。支給ソフトの『戦極小町』のままじゃ、ああはいかないと思いますよ」
「そうじゃな。もう少し練って調整すりゃあ、他の基地のルーキーどもに渡せるのう。新米の死亡率もグンと減るはずじゃ」
美濃木はそう言って頷いてくれた。
「そもそもこういう対処は、普通は上が主導してくれるもんなんじゃが、あの腐った連中では無理じゃからの」
「まあ、それを言ったらきりがないですけどね。あと、貢献度のポイントは、いつも通りこっちに回しますんで、必要な物があったら言って下さい」
誠の言葉になぎさが小躍りした。
「やった、私欲しい物があるんで! ひよりお姉ちゃんにも送ろう……いてっ」
「死ぬ思いで稼いだんだぞ、私物に使うなよ」
なぎさにチョップを入れつつ、誠は気を取り直して言葉を続けた。
「司令も奮闘してくれてます。今は苦しいですけど、なんとか協力して乗り切りましょう」
「そうじゃな。わしらももう一踏ん張りじゃい。皆の衆、仕事に戻れい!」
「うす」
「了解っす」
美濃木の言葉に、一同は気合を入れて持ち場に戻っていった。
誠も立ち上がり、奥の階段へと向かうのだったが、後ろから美濃木が呟いた。
「……お前さん。それ、いつまで続けるんじゃ? もう体がもたんじゃろ」
「…………大丈夫です」
誠は少し頭を下げて、簡素な鉄階段を上った。
隣には学校時代の遺物である藤棚が朽ちかけていて、無機的で頑強な格納庫とはいかにも対照的だった。
格納庫の中に入ると、さすがに全力の修理中だけあって、多種多様な機材が合戦場の落し物のごとく散らばっていた。
壁際には人型重機が彫像のように並んでいて、操縦席から延びる無数の配線が、まるで人体の神経標本のように生々しい。
「おじゃましまーす……うわっ!?」
殺意に振り返ると、整備主任の美濃木が物凄い勢いで走ってきて、調べれば調べるほど壊れとるわーい、と誠に飛び乗る。
肩車の体勢から誠の首をゴキゴキ鳴らす美濃木だったが、誠が差し入れを持ってきたと言うと、すぐにやめて飛び降りた。
「なんじゃ、それを早く言わんかい」
「言う間も無く襲撃してきたんでしょうがっ」
「細かい事は気にするでない。よっしゃ、みんな休憩じゃい」
「わあ、嬉しいっす。甘いものは貴重なんですよね」
機体の肩にのぼっていた坊主頭の尚一は、工具を振ってそう答えた。
誠はテーブルにお菓子を取り出しながら、パッケージに刻印された微妙なネーミングに眉を顰めた。
合成チョコレートを使った甘味は『チョコっとだけよ』、サツマイモを使った甘い菓子は『おいも侍』。パッケージには腕組みした西郷隆盛が描かれ、「おいも欲しい」という吹き出しが、誠の疲労感を倍増させる。
オキアミを粒が残る程度に練って薄く広げ、油で揚げてサクサクした食感を出したスナック菓子は『海の砂っく』。
香ばしく、程よい塩味と海の旨みがするよい菓子なのだが、パッケージにはやっつけでデザインされたキャラが描かれている。イカや魚を模したそのキャラは、目だけはリアルな魚介のままで、初見で夢に出てきそうな狂気を感じさせた。
「うまいけど、食感を砂に例えるなよ……」
誠は次々お菓子をテーブルに出して行った。
一同は集まって一息つきつつ、先の戦いで撮影した映像を見入った。
「うわあ……相変わらずえげつない戦い方しますね。一回の出撃でなんぼ撃墜稼ぐんですか。こんだけ強くて稼げたら、普通は特務隊に行きますけど、残った理由はやっぱり愛ですかねえ?」
メガネにお下げの女性作業員……北海道出身のなぎさが言うと、美濃木が髭を撫でながら悪乗りした。
「いや、それはワシも思っていたんじゃ。お前さんや、その仲間でもなかなかの腕じゃ。誰一人とっても、腕一つで成り上がっていく立身出世の英雄譚になりそうなもんじゃがのう。尚一も思うじゃろ」
尚一は美濃木の言葉に頷いた。
「いや実際、腕に覚えがあるなら、成り上がる方が多数派ですよね。第3船団とか特にそうでしょ。ここと違う基地の連中がどうしてるか、機会があったら見てみたいですね」
「確かに、どんな情報でも参考にはなるからな……」
誠も同意し、それから美濃木に向き直った。
「でも実際使ってみて、OSもかなり仕上がってると思います。動作中でも姿勢制御がすごくいい。支給ソフトの『戦極小町』のままじゃ、ああはいかないと思いますよ」
「そうじゃな。もう少し練って調整すりゃあ、他の基地のルーキーどもに渡せるのう。新米の死亡率もグンと減るはずじゃ」
美濃木はそう言って頷いてくれた。
「そもそもこういう対処は、普通は上が主導してくれるもんなんじゃが、あの腐った連中では無理じゃからの」
「まあ、それを言ったらきりがないですけどね。あと、貢献度のポイントは、いつも通りこっちに回しますんで、必要な物があったら言って下さい」
誠の言葉になぎさが小躍りした。
「やった、私欲しい物があるんで! ひよりお姉ちゃんにも送ろう……いてっ」
「死ぬ思いで稼いだんだぞ、私物に使うなよ」
なぎさにチョップを入れつつ、誠は気を取り直して言葉を続けた。
「司令も奮闘してくれてます。今は苦しいですけど、なんとか協力して乗り切りましょう」
「そうじゃな。わしらももう一踏ん張りじゃい。皆の衆、仕事に戻れい!」
「うす」
「了解っす」
美濃木の言葉に、一同は気合を入れて持ち場に戻っていった。
誠も立ち上がり、奥の階段へと向かうのだったが、後ろから美濃木が呟いた。
「……お前さん。それ、いつまで続けるんじゃ? もう体がもたんじゃろ」
「…………大丈夫です」
誠は少し頭を下げて、簡素な鉄階段を上った。
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本当に、ありがとうございます。
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