新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第一章その3 ~とうとう逢えたわ!~ 鶴ちゃんの快進撃編

駆け下りろ、狙うは敵の大将首!

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「黒鷹、来るわ!」

 鶴の言葉も束の間、青い光が流星のように降り注いだ。

 砲撃は天のいかづちのごとく敵陣を薙ぎ払っていく。巨体の餓霊が逃げ惑い、容易く宙に舞い上がるのだ。

「……す、凄過ぎやろ、艦砲射撃ってこんなにパワーあったんやな」

「た、確かに、属性添加機も弾頭サイズも桁違いだからな……」

 難波の言葉に、誠も頷いた。

 だがそんな一同をよそに、鶴は大きく伸びをすると、いきなり操縦席から姿を消した。

「えっ!? あれ、いきなり消えた……!?」

 誠が周囲を見回すと、鶴は誠の機体の肩に仁王立ちしていた。コマは更に彼女の肩に仁王立ちしている。

 鶴はそのまま腰の太刀を引き抜くと、高らかに叫んだ。

「行くわよみんな! 目指すは敵本陣、大将を討ち取るわ!」

「えっ!? おい、まさか生身で戦う気か!?」

 誠が止めるのも間に合わず、鶴とコマは宙に身を躍らせた。すると見る間にコマが巨大化し、先ほどの白い巨獣へと変わったのだ。

 鶴がコマの背に飛び乗ると、コマは勢いそのままに土の塔を駆け下りていく。

「くそっ、こうなったら行くしかない!」

 誠達も人型重機で塔を駆け下り、鶴とコマの後を追う。

 コマは土の塔を駆け下りると、大きくジャンプして高速道路の高架に飛び乗る。するとあろう事か、高速道路はたちまち数倍の高さに競り上がった。

 地盤が盛りあがったのか、それとも支柱が伸びたのか。理解が追いつかなかったが、カノンが画面上で目を丸くしている。

「ちょ、ちょっと、まさかあの上を走る気なの!? あちこち崩れて傷んでるのよ?」

「平気よ、ちゃんと道を強くしてるから!」

 鶴の顔が画面に映ってそう叫んだ。

 誠達も機体を操作して跳躍、高速道路に着地したが、道路は青い光に満ち、特に砕ける様子も無い。

「ようし、全機駆け抜けろ!」

 所々崩落している高速道路の残骸を、アスレチックのように飛び移りながら、誠は周囲を注視する。餓霊が上って来ないのは、この青い光が魔除けになっているのだろうか?

 操縦席には、鶴が使っていた半透明の地図がまだ表示されていて、誠も敵陣の様子を見る事が出来た。このまま丘の傾斜に沿って高速道路を駆け下りれば、敵本陣までもう少しだ。

 と、その時、不意に地図上に何かのマークが表示された。マークは激しく点滅し、猛烈なビープ音が鳴っている。

 誠は鶴に問いかける。

「すごい警告音だな。これは何の反応だ?」

「ちょっと待ってね……あらっ、これはさっきの面白い顔の敵だわ」

「何やってんだよ、ボスかと思っただろ! てかチェック入れるな!」

「ごめんなさい、大将はこっちね」

 誠達は高速道路の終点ゲートを飛び越えると、近くの小高い丘へ向かう。かつて芝生の市民広場があった場所である。敵の大将が近いためか、辺りの霧が一気に色濃くなっていた。10メートル先も霞む程だ。

 コマは鶴に呼びかける。

「近いぞ鶴、ここら一体の霧を飛ばせ!」

「分かったわ!」

 コマの言葉に、鶴が目を閉じて念じる。その身が光に包まれたかと思うと、前方に竜巻が現れた。竜巻は巨大化しながら進み、霧を上空へ巻き上げるのだ。

 一気に視界が広がって、誠は敵軍の大将を見据えた。

「いた! 城砦級、厨子王ずしおう型の亜種か!」

 全長はゆうに100メートルを超えるだろう。

 胴体はまるでムカデのようで、前方3分の1ほどから伸びる人型の上半身は、鎧武者のごとく硬い外皮に覆われている。八本の腕は先端が刃物状で、その刃は赤い光をまとっていた。

 厨子王は頭部の口を開けて咆える。するとその場にいた大型の餓霊……狗王型が、数体同時に襲って来るのだ。

 だがコマはものともせず、前足で狗王型の横っ面を叩きつける。相手はもんどりうって吹き飛んで、悲鳴を上げて溶け落ちていく。

 コマは更に1体をくわえて振り回し、他の狗王型に投げつける。そのまま猛然と突進すると、まとめて頭突きで吹っ飛ばしてしまった。まさに八面六臂の大活躍だ。

 自らの守り手が倒されるのを見て、厨子王は巨体を翻した。

 全身をぶるぶると身震いさせると、地響きを立てて広場から駆け下り、道路を北へと走り始めたのだ。

 誠は思わず声を上げた。

「この方向……まずい、避難区に突入するつもりか!?」



 厨子王は鶴達を強敵と認め、無理せず避ける選択をしたのだ。

 誠達は併走しながら射撃で攻撃するも、厨子王の周囲に赤い電磁バリアが輝いて、こちらの攻撃を弾いてしまう。

「黒鷹、私に任せて」

 鶴が自信満々に言うと、コマを駆って厨子王の真横につけた。

「鶴、レーザーは駄目だぞ。今の霊力だと、どこまで飛ぶか分からない」

「分かってるわ」

 コマの忠告に答えると同時に、鶴の傍に巨大な火球が現れて、厨子王に炸裂したのだ。

 やや狙いが外れたものの、幾重にも及ぶ強固な電磁バリアを貫かれ、厨子王の鎧のような上半身は、一部が抉り取られていた。

「効いてるわね、もう1発よ!」

 鶴は再び火球を発射するが、今度は厨子王を大きく外れ、火球はあさっての方に飛んでいく。厨子王に追従していた数十体の餓霊が、火球がかすっただけで蒸発した。

「すぐ集中が乱れてるな。ちゃんと修行してないからだぞ!」

 コマは反撃する厨子王の爪を避けつつ言った。

「無鉄砲に撃つと明後日に飛んでいく、何か目印を決めて作れ。例えばその銃」

「分かったわ」

 鶴が再び何か念じると、青白い稲光が屈曲しながら誠の機体の近くに落ちた。

「うわっ、危なっ!」

 辛うじて身をかわした誠だったが、コマがこちらを見て叫んだ。

「黒鷹、その雷を使え!」

「か、雷!?」

 誠は機体を走らせながら、モニターを確認する。

 機体の持つ銃には、不可思議な光が宿っていた。光は銃身の表面を駆け巡りながら、時折激しく瞬いている。

(何だこれ……さっきの雷がかすったのか?)

 理屈は全く分からないが、とにかくやってみるしかない。

 誠は厨子王の爪をかわしながら射撃する。先ほどは容易く阻まれた銃撃は、敵の防御魔法を易々と貫き、厨子王の脇腹辺りを貫通する。

 厨子王はくぐもった声で叫びを上げた。

 銃はみるみるその光を失っていき、第2射は普通に弾かれてしまった。

「……すごいなこれ、使えるぞ! もっかいいけるか?」

「もちろんよ!」

「よし、それならまず、あきしまに連絡して砲撃のチャージを頼む。準備だけだ、まだ撃たないでくれよ」

「分かったわ。ナギっぺ、聞こえる?」

 鶴は視線を宙に上げ、あの女神とやらに呼びかけている。どうやら話が通じたらしく、鶴は再びこちらを向いた。

「黒鷹、それじゃもっかい行くわ!」

「分かった!」

 誠が銃を鶴の方にさし出した時、厨子王の巨大な腕がこちらに向かって弧を描いた。

 アサルトガンは玩具のように切断され、アスファルトの路上に残骸となって転がっていく。

「くそっ、銃が!」

「大丈夫! 黒鷹、太刀抜いて!」

 誠が機体の強化刀を掲げると、今度はそこに雷が落ちる。刀身は眩しく輝き、その様はまるで神話の一場面のようだ。

 もう一度厨子王の刃物のような腕が迫るが、誠が刀を一閃すると、厨子王の腕は容易く両断されていた。

「すごい、なんて切れ味だよ……!」

 誠は感嘆するが、先ほどと同じく、刀の光は次第に弱まっていくようだ。

「ごめん黒鷹、術が切れちゃう。私もまだ、体と霊気が馴染んでないみたい」

「分かった! 全員援護してくれ!」

「了解やで!」

 味方の機体が厨子王に集中砲火を浴びせる。無論厨子王の防御は貫けないが、相手の気を散らすためだ。

 その隙に誠は機体を加速させ、身を屈ませて大きくジャンプ。

 数瞬遅れて気付いた厨子王が、こちらに何かを撃ち込んでくるが、誠は空中で機体を捻って、ぎりぎりでそれをかわした。

 誠はそのまま刀を構え、敵の頭部に全力で振り下ろす。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 物凄い咆哮と共に体を傾ける厨子王だったが、刀の光が消えかけていたため、即死級の傷は免れていた。兜部分がざっくりと割れ、血が吹き出しているものの、倒れる事無く爪を振るった。

「ぐうううっ!!!」

 誠は爪を刀で受け、双方の武器は砕け散る。

(だめだ、まだ浅い! 致命傷じゃない……)

 誠がそう考えた瞬間、機体の目の前を行き過ぎる、巨大で鋭利な物体があった。折れた厨子王の爪である。

 誠は機体の腕を伸ばし、目前の爪を掴むと、厨子王の顔面に投げつけた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 再び放たれる、悲鳴にも似た絶叫、咆哮。

 厨子王は完全に動きを止め、巨体をくねらせ、のたうっている。追いついて来た守り手の餓霊達も、厨子王の爪に切り刻まれ、踏み潰されて逃げ惑った。

 誠は機体が地に降りる前に叫んだ。

「全機離れろ! 敵が止まった、砲撃要請を!」

「分かったわ! ナギっぺお願い!」

 鶴が強く念じて船の女神に連絡すると、誠の機体のモニターに、弾道警告アラートが表示される。

 赤い無数の光点は、全て誠達の居る地点……つまり厨子王に集中していく。最早一刻の猶予も無く、味方の機体は迅速に駆け出していた。

 誠の機体も着地すると、そのまま大きく前方にジャンプ。

 やがて右手の空に、無数の青い光が見えた。見えたと思った瞬間に、たちまちこちらへ殺到してくる。

 天を震わせ降り注いだ光の弾は、弱った厨子王の電磁バリアを叩きつけた。5発、6発、まだ続く、まだ続く。

 頭部を割られた厨子王は、次第にバリアの維持が難しくなっていく。

 そして貫通した一撃が、厨子王の体を射抜いた。更に一撃、また一撃。

 幾つかの砲撃は道路に炸裂し、アスファルトの破片を高々と巻き上げた。

 誠は衝撃に揺れる画面に目を凝らす。

「くそっ、的が1つだから、どうしても外れるな。仕留め切れるか?」

「任せて!」

 鶴が叫ぶと、再びその身に青い光が宿った。

「どうする気だよ……って、うわっ!?」

 誠は目の前の光景が信じられなかった。

 飛来した砲弾の数発が、空中でその動きを止めていたからだ。青い輝きを放ち、激しく螺旋回転しながら、一寸たりとも進まないのだ。

「う、嘘やん!?」

「砲弾、止めやがったぜ!」

 難波と宮島が叫んだその時。

「いいいい、けえええっ!!!」

 鶴の叫びと共に、砲弾は弧を描いてその向きを変えると、厨子王の上半身にぶち当たった。

 砲弾の貫通系電磁式スパイラルコードに、鶴の魔法力も上乗せしたのだろうか。敵のどてっぱらに巨大な穴が開いている。

 厨子王は不意にその動きを止めた。

 兜のような頭部の外皮が剥がれ落ち、轟音と共に地に落ちた。今度は爪。今度は胴体の外皮だ。

 厨子王は力なく項垂れると、どろどろと溶け落ちていく。

 誠は呆然とその様を見つめていたが、画面上でカノンが言った。

「ちょっと、敵軍の様子がおかしいわよ?」

 誠がモニターを切り替えると、厨子王の周囲に居た餓霊達は、喉笛をかきむしって倒れていく。命を失った肉塊となり、見る間に溶けて蒸発していくのだ。

 頭上の曇天はみるみるうちに晴れ渡り、霧は嘘のように消えていった。

 難波が呆然と呟いた。

「……う、嘘やん、ほんまに倒せたんか? てか、その一帯の親玉を倒したら、雑魚はみんな消えるんかいな」

「分からない。けど、そうとしか思えない……」

 誠もしばらく呆けていたが、その時、傍らに佇むコマがみるみる縮んでいく。

「うわっ、大丈夫か?」

 誠が操縦席のハッチを開くと、更に縮んで子犬サイズに戻ったコマは、元気に鶴の肩に飛び乗った。

 誠は慌てて機体から飛び降り、この強力な助っ人達に駆け寄った。

「ケガはないか? ていうかほんと凄いな、何だよ最後の」

 誠の言葉に、鶴は得意げに胸を張っている。

「ええ、そうでしょうとも。私は本当に凄いんだから。ねえコマ?」

「まだまだだよ。ちょっとだけ、とっさに本来の力が出たけど、もっと修行して、あれを毎回出せるようにしなきゃ」

「でもコマ、出せたんだから修行はいらないんじゃないかしら」

「君ってやつは……」

 呆れるコマだったが、そこで仲間達も操縦席から降りてきて、1人と1匹を取り囲んだ。

「いやあ、助かったぜ! 俺、無茶苦茶感動してるもん。オヤジの球団が日本一になった時ぐらい嬉しいかも」

「うちもそうやわ。あんた見所あるで、どや、うちとコンビ組まへん?」

「いやはや、人間業とは思えないな。ひょっとして、弁天様の化身か何かか?」

「確かに凄いは凄いんだけど、あんた達、みんな怪我してない?」

 そんな様を眺める誠だったが、ふと思いつき、端末で基地に連絡を取る。

 誠の予想通り、霧が晴れたため、長距離通信も問題なく繋がってくれた。

「鳴瀬くん、無事だったのね!?」

 雪菜は誠の姿を目にし、必死にこちらに呼びかけている。モニターに映る愛しい人の姿に、誠は体中の力が抜けるのを感じた。

「おかげさまで。敵軍は撃退出来ましたし、隊の面々も無事です。うまく説明出来ないんですけど……その、物凄い助っ人が来てくれて。そっちは大丈夫ですか」

「もちろん無事よ。とにかく早く帰ってきて、動ける?」

「問題ありません。それではこれより帰投します」

 誠は満足して通信を切ったのだが、ふいに横から声をかけられた。

「……待て待て、帰る前に話があるのだ」

「えっ? うわっ!?」

 誠が傍らを見ると、そこには黒髪を長く伸ばした長身の女性が。つまり、先程の自称女神が立っていたのだ。

 誠の混乱をよそに、女は余裕の笑みで一同を見下ろす。

「威勢がいいな。さすがは私が選んだ、神人補助の面子だけある」

「神人……補助?」

 不思議そうに呟く誠に、女は尋ねた。

「1つ質問だ。お前達、日本の神話は、古事記は読んだ事があるか?」

 誠達は首を振る。

「それは結構」

 女は微笑むと、ついと右手を振った。すると光が閃き、白いカーテンとなって彼女を包んだ。

 次の瞬間、彼女はあの夢で見た和装の姿へと変わっていた。

 彼女は高らかに言い放つ。

「今一度言おう、私の名は岩凪姫。この日の本を守る八百万の神が1柱である。身内の七光りを言わせてもらえば、国家総鎮守の武神たる大山積神の娘であり、日本の最高神である天照大御神の姪でもあるぞ。そしてその子は大祝鶴姫。戦国時代から時を越えてやって来た、私の選んだ聖者である。信じるも信じないもどうでもいいが、やる事だけは決まっているぞ。我々に協力して悪鬼羅刹を追い払い、日の本の国を復興させるのだ!」

「……?」

 誠は理解が追いつかなかった。

 横目で隊員達を見ると、彼等も一様に動きを止めている。まるでここだけ時の流れが止まったようだ。

 誠は辛うじて唇を動かす。

「……ちょ、ちょっと考えさせて下さい……」
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