新説・鶴姫伝！日いづる国の守り神 PART３～始まりの勇者～

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第三章その３～敵の正体！？～戦いの真相編

魔族もつらいよ

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『まっ、まことにっっ、申し訳ありませんでしたぁぁぁっっっ！！！』

　いつもの社の拝殿はいでんで、魔族達は床に額ひたいを叩きつけた。

　メンバーは熊襲くまそ一族の焔ほむら、鬼の剛角と紫蓮しれん、そして虎丸。

　土下座にしては勢いが凄いが、つまるところ砦を破壊された失態を詫びているのである。

　対する高座こうざの御簾みすの中には、夜祖大神やそのおおかみが座していた。

　夜祖は先程から一言も発さず、ただ一同を見下ろしている。

　涼やかな目からは内心を窺うかがえないのだが、周囲に立ち昇るどす黒い邪気は、激しい怒りを表すように渦巻いていた。

　向き合うだけで汗が流れ落ち、歯がガチガチと鳴ってしまう。

（やばい……やばいやばいっ、やばいぞ紫蓮！　毎回毎回怒られとるが、今度ばかりはほんとにやばい……！）

（わかっとる、何とかせにゃ首が飛ぶわ……！）

　鬼の２人が焦りまくっていると、虎丸が言いにくそうに口を開いた。

「……こ、此度こたびの失態、全て私・虎丸の責にございます。他の連中は、特に落ち度はないものと……」

「と、虎丸っ……！？」

「タイガーボーイ、お前ってヤツは……！」

　感激する一同だったが、虎丸は余計な言葉を続ける。

「……そもそもこいつらアホなんで、役に立つ立たない以前の問題なんで……」

「何だとてめえっ……！」

　鬼や熊襲は憤慨するが、虎丸は両手でお面を差し出した。

「こ、この面が、現場に落ちておりまして……その、神人どもが化けるのに使ったものと思われます」

　面を差し出す虎丸の手は、恐怖でぶるぶる震えている。

　面はついと浮かび上がると、御簾を通り抜け、夜祖の元へと吸い寄せられた。

　夜祖はしばし眺めていたが、やがて火の粉が散り、面は一瞬で灰になった。

「…………こんな子供騙しで……！」

　夜祖の一言に、魔族達は震え上がった。

　渦巻く邪気は凝こり固まり、巨大な蜘蛛足のような形になっていく。

　一同は全身の毛が逆立つのを感じた。死ぬ、これは死ぬ。間違いなく、欠片一つ残さずだ。

「…………何度目だ……？」

　夜祖はあくまで静かに尋ねる。

「何度咎とがめ立ててもたるむなら、性根しょうねの糸を切り結ぶ必要があるか」

　一同が内心この世に別れを告げ始めたその時。青年が一人、音も無く現れた。

　長身を黒衣に包み、男としてはやや長い髪。夜祖大神の配下であり、腹心のような存在たる笹鐘ささがねである。

　彼は優雅に片膝をつき、淡々と夜祖に語りかける。

「…………お話中、大変失礼いたします。ご報告よろしいでしょうか」

「構わぬ」

「生贄いけにえどもの精気の回収、ぬかりなく終了いたしました。肥河之大神ひのかわのおおかみ様のご容態も万全です。彼らが敵の目を引いたおかげでございましょう」

　笹鐘はそこで顔を上げた。

「正当な成果には、正当な報いが必要です。願わくば、どうか御慈悲ごじひを……」

　夜祖はしばらく黙っていたが、やがて再び口を開いた。

「……肥河ひのかわの戦支度いくさじたくが終わったなら、次は戦場いくさばを築きずく。纏葉まとはよ」

「……これに」

　夜祖の呼びかけに応え、闇の中から女が進み出てきた。

　笹鐘と似た黒衣に身を包み、長い黒髪を足元まで垂らしている。

「出来得る限り引っ掻き回し、神人を後ろに引き付けておけ。その間に能登まで網を伸ばす」

「かしこまりました」

　夜祖の言葉に、女はうやうやしく頭を下げる。

　剛角達はしばらく様子をうかがっていたが、やがてたまりかねて声をかけた。

「……あ、あの～、夜祖様、わしらは、そのぉ……」

　夜祖は答えず、そのまま姿を消してしまったのだ。

「…………た、助かった……のかな？　タイガーボーイ、魂抜かれたりしてないか？」

「い、いや、別に……なんともねえような……？？」

　虎丸はあちこち体を触っているが、そこで笹鐘が苛立ったように口を開いた。

「……今回は不問という事だ。お許しになったわけではないが、全ては次の働き次第。十分気を引き締めたまえ」

「ふ、不問？　ほんとか！」

　喜ぶ剛角達に、笹鐘は釘を刺す。

「あくまで保留という事だぞ？　浮かれるには早い」

　だがそんな言葉は一同に届かず、やった、やったと喜び合っている。

　笹鐘は肩を竦すくめると、闇の中へと姿を消した。

　剛角達は残った女に声をかけた。

「いやあ纏葉まとは、助かったぞ！　運良くお前らが来たから良かったものの、そうでなきゃおっ死んでただろうな！」

「……それはそれは……本当に幸運でございましたねえ」

　喜ぶ一同を見つめ、女はおかしそうに口元を緩めた。

　拝殿を後にした笹鐘に、先ほどの女が追いついて来る。

「……まったく、想像以上の阿呆あほうどもだ」

　苦々しく呟つぶやく笹鐘に、女は薄ら笑いを浮かべたが、やがて彼の肩に手を置いた。甘えるようにしなだれかかり、耳元で囁ささやく。

「１０年……長いお色直しでしたが。泣き暮らしのお嬢がそろそろ動けるようですよ、兄様あにさま……？」

「……おお、そうか。それは何よりだ……！」

　笹鐘は珍しく明確な笑みを浮かべた。

「あの神人に好き放題させるもこれまで。いよいよ反撃だ」

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