新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
82 / 87
~エピローグ~ 魔王の胎動

ディアヌスは弱っている

しおりを挟む
 突如とつじょ舞い込んできた情報に、第4船団は混乱していた。

 予想外に、近畿地方一帯にまで晴れ渡った空……ほとんど一切の邪気霧じゃきむの無い状態で、人々は初めて知ったのだ。敵軍の現状を……そして魔王の本拠地を。

 魔王・ディアヌスの巨大な体は、今は琵琶湖に横たわっていた。

 だがその巨躯きょくは、どうも傷付き弱っているように見える。

 背には傷口があり、そのせいか湖面は赤く染まっていた。

 更に周囲には、わずかな餓霊しか居合わせなかった。まさか幽鬼兵団が破れると思わなかったのか、護衛がほとんどいないのである。

 あたかも少数の供回ともまわりのみで本能寺に寄宿きしゅくした織田信長のように、絶対的王者の油断なのだろうか。

 それはごくごく短期間、時間にして数分程の出来事であり、すぐに近畿地方は再び邪気霧に覆われた。見られたくない物を見られたせいかも知れない、と人々は勘ぐった。

「……どういう事なの? ディアヌスの本体は、既に弱ってたって事?」

 旗艦の指揮所で映像をにらんでいた紅葉もみじは、戸惑いながら呟いた。

「分かりません。しかし周辺にいた餓霊が、急速に集結しているそうです。魔王を守ろうとしているのでしょうか」

 解析班の兵士が、戸惑いながら情報を分析、次々画面に表示していく。

 確かに霧が晴れた時、周辺地域の餓霊は琵琶湖方面に移動していた。まるで主人を守るため、慌てて駆け戻っているかのようだ。



 同様の混乱は、第2船団でも起こっていた。

 ディアヌスが弱っており、敵がそれを守るように移動している。だからチャンスは今しかない……そんな意見が飛び交っていたのだ。

「……確かにチャンスだ。本当に魔王が弱っているならば、だが」

 健児は迷った。

 勿論あの映像は本物だ。周囲の敵の移動もそれを裏付けているようだ。

 ディアヌス本体は弱っていて、だからこそ餓霊や分身に戦いを任せていたし、この数年間、本体が姿を見せなかった……そう考えれば筋は通っている。

 考えてみれば、自分達がディアヌスと出会い、明日馬が命を落としたあの日、こちらは散々に蹴散らされた。殺そうと思えば容易なはずが、なぜディアヌスは追撃しなかったのだろう。

 弱すぎて興味が無かったのか、それとも深手を負っており、追撃したくなかったのか。

「どうしたらいい……?」

 健児は思案するが、彼の考えを待たず、続々と連絡が飛び込んで来た。

「す、すみません船団長。船団経団連からも、攻めるべきだと提言されています」

「何だって……どんだけ気がはやってるんだよ……!?」

 健児は驚き、急ぎ第4船団に連絡を取った。

 画面に映る紅葉は、健児を見るなり訴えかけてくる。

「健児……じゃないっ、船渡さん。そちらも同じ!?」

「ああ、かなり盛り上がってる。スポンサーからの突き上げが酷くて」

「こっちもね。一般兵も巻き込んで、かなり興奮状態になってるわ」

 紅葉はかなり不安げだった。

「ほんとに魔王が弱ってるなら、今しかないわ……ここを逃せば、もうチャンスは無いかもしれない……」

「確かにそうだが……」

 健児も悩むが、そこで更にとんでもない情報が飛び込んできた。

 秘書官が部屋に駆け込むなり、急ぎ健児に報告する。

「何、既に出撃している!?」

 健児は思わず身を乗り出し、体の痛みに顔をしかめた。

「だ、誰が命令を出したんだ?」

「分かりません、現時点では不明です。佐渡さど島の戦力を始め、複数の部隊が若狭わかさ湾に向かっています。上陸次第、琵琶湖を目指すようです」

 その間に画面の向こうでも同様の事態が起きたようだ。

 紅葉は戸惑いながらこちらに告げた。

「こ、こっちの余剰戦力も、隠岐諸島おきの本隊も動き出してるみたい。指揮系統が無茶苦茶ね」

「どういう事だ……!?」

 健児が悩んでいると、画面に複数の人物が映った。先の報告にあった船団経団連……つまり、かねてから船団を支援し、資金や物資を提供している重鎮じゅうちん達である。

 彼等は開口一番に言った。

「ディアヌスを攻撃したまえ、船戸くん。チャンスは今しかない」

「し、しかし……」

 健児が言うと、彼等は機械のように繰り返した。

「攻撃したまえ。これが結論だ」

「そうだ、攻撃したまえ」

 通信はそこで打ち切られた。

 彼等の首筋には、何か黒いあざのようなものが見えた気がしたが、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 既に周囲の人々も、末端の兵士までもが浮き足立っている。

 まるで熱にうかされるように、人々は異様な熱気を帯び、魔王との戦いに引き寄せられていくのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...