新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART3 ~始まりの勇者~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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~エピローグ~ 魔王の胎動

不気味な違和感

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「何ですって!? この勢いでディアヌス攻めを……!?」

 航空輸送機で移動中、事情を知った誠は声を上げた。

 鶴やコマも、第2船団のパイロット達も驚いている。

 画面に映る船渡氏は、焦った表情で説明してくれた。

「そうなんだ鳴瀬くん。うちも、そして第4船団もスポンサーのご意向だ。今しかチャンスが無いって事で、各地の戦力が集結してる」

「そんな……そんな事、あり得るんですか……?」

 誠はにわかには信じられず、後ろの鶴に問いかけた。

「ヒメ子悪い、疲れてるだろうけど、ディアヌスの様子は分かるか?」

「見てみるわ」

 鶴は半透明の立体地図を表示した。そのまま地図をスクロールさせていくと、遠く琵琶湖まで見渡せた。

「邪気がすごく弱くなってる。かなり遠くまで見えるわ」

 鶴が琵琶湖付近を拡大すると、湖面にうずくまる巨体が見えた。

 黒々とした爬虫類のような皮膚。長い首、無数の尾。

 まぎれも無く餓霊の総大将、魔王ディアヌスであろう。今は人の姿をとっていないが……

「確かに力そのものは、あの分霊より弱いと思うよ。普通なら邪気が強すぎて、こんな距離で見えないはずだし……」

 コマが考えながら言うと、鶴も頷いた。

「この肩のところの傷、永津彦さんの気を感じるわ。まだ治ってないみたい。傷のわりに血が多い気はするけど……」

「そう……なのか……?」

 誠はまだ半信半疑だったが、画面に映る船渡、そして嵐山の両船団長は、引き締まった表情で言った。

「いずれにしても、もう後戻りは出来ない。我々第2船団は、全力をもってディアヌス攻めを行う」

「第4船団も同じよ」

 嵐山も後を続ける。

「わ……分かりました。僕達も琵琶湖に向かいます……」

 誠はそう言って通信を切った。

 航空輸送班に連絡を取り、進路を琵琶湖方面に向けてもらう。

「いよいよね、黒鷹。まさかこんな事になるとは思わなかったけど、勝つなら早い方がいいわ。その方が心置きなく遊べるもの」

 鶴は興奮気味にそう言っている。

「あ、ああ……いよいよだな……」

 誠は上の空で返事をしつつ、内心考え込んでいた。

 何だ? 何かがおかしい。

 ディアヌスが弱っている……それは真実なのか?

 確かに映像はそう見える。

 でも本当に弱ってるなら、あれだけの分霊を出せるのか?

 そして本当に弱ってるなら、琵琶湖にはもっと兵力を置いているはずだ。それがなぜ少数なんだ? それだけ幽鬼兵団を過信していたのか?

 いや、北陸こちらに来て以来、あれだけ用意周到に引っ掻き回してきた敵が、そんなミスを犯すわけがない。

 ……そう、何かがおかしい……!

 初めてディアヌスの姿が、そして位置が、全員の目に観測された。

 全ての邪気が一時的に晴れて、はっきりと映像に、証拠として残った。

 そんな奇跡がこの瞬間に起きうるのか?

 おかしい。おかしい。絶対におかしい……!

 誠は必死に考え続け……やがてふと思い当たった。

 あの第4船団の、生気を抜き取られた人々の姿を。

 あそこには水路があり、ほこらがあった。

 鶴いわく、あれは川の神をまつっていたらしいが、人々の生気はどこへ行く? どの川の神にささげたのだ?

 そこでふと、嵐山の発言が思い出された。

『京都は意外と水が豊富なんです。地下には琵琶湖ぐらいの地下水があるんですよ』

 さらに懸念は繋がっていく。

 あの境港の館にて、女はすぐに退却した。戦わずに、至極あっさりと逃げたのだ。

 その時コマがこう言った。

 こちらの敵は『勝てる時にしか戦わない』と。

 だとしたら、今回のこの戦いは……その行く末は、最初から決まっていたのではないか?

「ひ、ヒメ子……」

 喉が痙攣けいれんするような恐怖を感じながら、誠は懸命に呟いた。

「なあに黒鷹?」

 鶴はにこにこして首を傾げるが、誠は言葉を続ける。

「ディアヌスの近くに……別の気はないか? 琵琶湖じゃなくていい。もっと南の方に、隠れてないか……?」

「琵琶湖以外に??」

 鶴は地図をスクロールさせ、しばし意識を集中している。微かな霊気も見逃さないようにしているのだろう。

 やがて鶴は驚いたように声を上げた。

「黒鷹、京の都だわ……! 都の下、どのぐらい深いか分からないけど、もの凄い気が渦巻いている」

「邪気が薄くなったから、見えるようになったんだね。どうしてそんな所に大量の気が溜まってるんだろう」

 コマも不思議そうに地図を覗き込んでいる。

「……………………!」

 誠は鼓動がどんどん早くなるのを感じた。

 琵琶湖よりも巨大な京都の地下水。

 人々から抜き取られ、川の神のほこらを通じて送られ続けた生気。

 そして熱にうかされたように、一斉に動き出す人の軍勢。

 ……つまりもう、全ての準備は終わっていたのだ。

 全ての結果は決まった上で、こちらの力を試されていた。手のひらの上でもてあそばれていたのだ。

 誠は必死に連絡を取った。

「船渡さん、嵐山さん! すぐに全ての進軍を停止して下さい! まずいです、取り返しがつかなくなります!!」

 画面の2人は戸惑っていた。

「鳴瀬くん、それはどうしてだ……?」

「気持ちは分かるけど、私達にも……」

 誠はなおも画面にかじりつく。

「弱ってないんです! ディアヌスは弱ってないんです! だから、だから……!」

 焦りのせいで、うまく言葉が出てこない。それでも誠は懸命に叫んだ。

「今行ったら、全員死にます!!!」

「弱ってないだって……?」

 ただならぬ誠の気迫に、船団長達は戸惑った。しばし考えていたが、やがて船渡が言った。

「分かった。出来るだけ止めるようにする」

「わ、私達の方も……その方針で努力してみるわ。どこまで止められるか分からないけど」

「お願いします………………」

 画面から消える船団長を、誠は静かに見送った。

「く、黒鷹……?」

 鶴とコマは、恐る恐る誠の様子をうかがっている。

 画面に映る、第2船団のパイロット達も同じである。

 誠は何を言っていいのかわからず、座席に背をもたせかけた。

 冷たい汗がパイロットスーツの中を伝う。

 そう、このままではあの時と同じだ。

 再び魔王がこの世に現れ、地獄の釜の蓋が開く。

 これ以上は無いと思われる程の『最悪』が、怒涛どとうのごとく襲い来るのだ。
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