精霊娘 いつの世も精霊の悪戯には敵いません

神栖 蒼華

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「ただいま戻りました」
「リリ、お帰りなさい」

 部屋の中にはライラだけだった。
 待ち構えていたようにライラが近寄ってくる。

「姫様、どうでしたか?」

 シャンリリールが無事に戻ってきたことに安堵して、ライラは椅子を勧めながら散策の感想を聞く。

「あのね、国……」

 コンコン。
 話し始めると同時にノックされた。
 ライラはすぐに椅子に座り体勢を整える。
 それを見てから、シャンリリールは扉を開けた。
 訪ねてきたのは侍女長だった。

「失礼いたします。そろそろお食事の時間ですが、お持ちしても宜しいでしょうか?」
「あっ、はい。お願いします。……あの、食事はわたくしが受け取りに行っても構わないでしょうか」
「それは構いませんが、わざわざリリ殿が行かなくても別の者がお持ちいたしますが?」
「わたくしが行ってみたいのです。是非行かせてください」
「わかりました。ご案内いたします」
「ありがとうございます」

 侍女長にお礼を言っていると、ライラが手招きしていた。

「姫様、何かございましたか?」

 耳を近づけると小さな声で𠮟られた。

【なぜリリが食事を取りに行くのですか】
【食事中はベール外さなければならないでしょう?】
【それは……、でしたらリリの分ももらってきてください】
「わたくしの分もですか?」
【そうです。そうすれば私も安心できます】
「わかりました。お願いしてみます」

 ライラとの話を終え、侍女長に向き直る。

「姫様がわたくしも一緒に食事を取るようにと希望しております。手配をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「リリ殿もこちらで召し上がるということでございますか」
「はい」
「本来侍女は別の場所で別の時間に食事をする決まりですが、リリ殿はまだお若いですし、シャンリリール様の専属侍女ですから、そのように手配いたします」
「ありがとうございます」
「今から案内してもよろしいでしょうか?」

 侍女長がライラに確認をとると、ライラが頷く。

「それではリリ殿をお預かりいたします」
「よろしくお願いいたします」

 侍女長についていくと徐々にいい匂いがしてきた。
 何人もの侍女が食事を乗せたカートを押して出ていく。
 厨房の中に入ると、大きな鍋の前で混ぜている人、焼いている人、料理を盛り付けている人など様々な人が忙しなく動いていた。 

「こちらで食事を受け取ります」
「かしこまりました」

 料理を受け取る場所を教えてもらった。

「あなたの食事も用意するように伝えておくわ」
「ありがとうございます」
「食べ終わった食器はここに戻してくれればいいわ」
「わかりました。ありがとうございます」

 侍女長は受け取り口にいた女性に、リリ用の食事も一緒に用意するように伝えた。
 食事の受け取り口と食器の片づけ口を教えた後、食事ができるまでここで待つように伝えた後、侍女長は別の仕事へ戻っていった。
 しばらく待っていると、様々なお皿が乗ったカートが運ばれてきた。

「お待たせ致しました。こちらがシャンリリール様のお食事。こちらがあなたの食事です。毒見をしますのでお待ちください」
「毒見?!」
「はい。ああ、レギナン国からいらした侍女の方でしたね。我が国ではこちらで毒見をする決まりなのです」
「そうなのですね」

 毒見をする場所で驚いたわけではなかったのだけど……、どうやら調理場で毒見することに驚いたと勘違いされたようだ。
 でもシャンリリールが驚いた理由は毒見をすると言われたからだ。
 レギナン国では毒見をすること事態なかったのだ。だからとても驚いた。
 目の前で毒見役の女性が丁寧に少しずつ食べて確認していく。そして体に何も変化がないのかしばらく待つ。
 それを用意された皿分していくわけだから、とても時間がかかった。
 流れ作業のように淡々と進められていく様子を見て、形式的に行っているのだとわかった。毒見役の女性の緊張感がないことからも日常的に危険があるわけではないようだ。
 毒見と聞いて強張っていた体から力が抜けた。
 それから冷めていく料理を見て、ちょっと悲しくなった。
 この国の慣習とはいえ、温かい料理が食べられないこと、料理人が心を込めて美味しく作ってくれた最高の状態で食べることができないことが残念でならなかった。
 温かいうちに食べたほうが美味しいのにね。

「異常はありません。どうぞお持ちください」
「ありがとうございます」

 料理が乗ったカートを押して部屋へ戻る。



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