婚約破棄されて好みすぎる騎士に攫われるはずが、婚約破棄する側の王子から一向に許可が下りません

あさ田ぱん

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6.【番外編アレン視点】仮装パーティーにて

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 ノクシア王国では夏が終わり冬が来る前に、死者が故郷に舞い戻ると信じられている。
 既に人でない先祖たちをもてなす為、城では毎年、人間以外に扮する祭りが行われて来た。人間以外に扮するので、自分の名前も、相手の名前も呼べない。つまりその祭りの間は身分も関係なく、老若男女、仮装で現世の己を隠し、無礼講で楽しめるのだ。

 ただ、姿も変え、名前も名乗らない空間は、王位継承争いで狙われている側…、第二王子である私、アレン・ノクシアには大変不利な状況だ。特に来年は王立魔法学校卒業の年、十八歳になると言うこともあり、周囲は何かと騒がしい。

 祭りの会場には案の定、少し前から自分を付けている、ネズミの面を被った怪しげな男がいた。会は既に終盤に差し掛かっている。会場には煌々と明かりが灯っているが、外はもう暗い時間だ。事を起こした後、夜闇に紛れて逃げるつもりかもしれない。

 ーー何か仕掛けて来たら、すぐ取り押さえるつもりでいたのだが…。

「く…!い、痛い…っ!何をする!?」
「お前っ!新手の痴漢だな?!」
  
   私より先に、ネズミの面を被った男は、取り押さえられてしまった。

 男を取り押さえたのは、俺と同じ白猫の面を被った、銀の髪を肩で切りそろえた少女だった。白のふわふわしたロングコートに白いブーツ、白猫の面、白い尻尾。髪と瞳以外は全身真っ白だ。背は高くないが、手足はスラリと長い。仮面を被っていても、見えている目と唇だけで整った顔立ちだとわかる、美しい少女だった。歳はまだ十五歳くらいだろうか…?

 少女は逃げようとする男を捕まえて「騎士団に突き出してやる!」と言い、広間から連れ出してしまった。なんて危ない事をするんだ…!

 私も少女と同じ、白猫の面を被っていた。ひょっとして間違われたのか…?!

 私は慌てて少女を追いかけた。
 
 

 広間を出て男を引きずるように歩いていく少女を呼び止めると、彼女は振り向いた。

「待ってくれ、その男は俺が預かる」
「はぁ?お前コイツの痴漢仲間?」

   驚いた…。姿も美しいが、声も鈴を転がしたような可愛らしさ。しかし、その美貌に似つかわしくない、驚愕の口の悪さ…!
 私が王子と知らないからだろうが、それにしてもいきなり『痴漢仲間』などと、大変不敬である。

「…私は痴漢ではない。そいつは私を狙っていたんだ。だから、私が預かって調べる」
「はぁ~?そんな言い訳、信じられるかよ!こっちはコイツがグラスに薬を入れようとしたところをちゃんと見ていたし、証拠の薬も押収したんだ!」

  またしても驚いた…。この少女は、私も気が付かなかった、薬まで押収したという。
 少女は薬瓶を手に持って、私に見せた。

「これ媚薬だよ!飲み物に入れて、嫁入り前の私を別室へ連れて行き、乱暴しようとしたに違いない!全く、なんていやらしいんだっ!」
「……媚薬とは限らないだろう」
「媚薬だよ。すっごい甘い匂いがするもん」
「……調べるからそれを、こちらによこせ」
「べー!こいつは騎士団への手土産なんだ!」
「な?!」

   少女は私に向かって舌を出すと、男を担いで走り出した。全く、何てやつだ…!しかも、早い…!

   仕方なく、魔法を使い身体強化して追いかけた。そして少女の前に回り込む。

「チッ!」
「し、舌打ち…?!」

   余りに少女らしくないその態度に、思わず声が裏返った。少女は、逃げられないと思ったようで、悔しそうに担いでいた男を床に転がす。

 すると男はその隙に、逃げ出してしまった。

「調べるって言っておいて、追わないのかよ?会場の方へ逃げたけど」
「…追ったとして、会場にいる仲間が厄介だ。お前が持っている薬を調べることにする」
「え~?本当に、お前の仲間じゃないの?」
「違う。アイツは私をつけていたと言っただろう!」
「何でそんなに、絶対自分が狙われたって思うわけ?自分の価値に、すっごい自信があるんだな?」
「それは、こちらの台詞…」

   この少女は自分が美しいことに、よほど自信があると見える。話し合っても埒が明かない。

「とにかく、薬を出せ」
 
 少女を捕まえようとすると、ひらりと躱された。

「じゃあ犯人を探して、私を狙ったのか確認する!それで、騎士団へ連れていく!それなら文句ないだろ?!」

   少女は会場へと走りながら私の方を振り返り、にやっと笑った。どうしてもあの男を騎士団へ連れて行きたいらしい…。一体、何の目的だ?

「よ、よせっ!」

   止めるのも聞かず、少女は広間へ戻って行ってしまった。なんて、命知らずなんだ…!



 
 慌てて少女を追いかけ、広間へ戻った。

 ようやく追いつくと、少女は何やらコソコソと、馬の仮面を被った男の集団を観察している。多分、あれは…。

「あれは違うぞ。王族護衛の騎士たちだ…」
「や、やっぱり…!」

   興奮したように、少女は私を振り返った。綺麗なアメジストのような瞳がキラキラと輝いている。

「やっぱりかっこいいなぁ…」

   これまでの乱暴な物言いとうって変わって、少女はうっとりと呟いた。

 そう言えば、痴漢を騎士団に連れて行くことに随分こだわっていたが…。ひょっとして、騎士団に行くことの方が、本来の目的だったのか?

「そんなに気になるなら話しかけてこい。今日は無礼講だ」
「…見ているだけでいいんだ…。私は貴族の子どもだから、将来はどうせお見合いさせられて、全然好きじゃないのに形だけの結婚をさせられるんだ。今、両思いになっても、悲しい思い、するよ」
「……」

   この少女は、あの騎士に声をかけただけで両思いになると思っている…。一体、その自信はどこから湧いてくるのだ…?

 それはともかく、貴族の宿命で好きな相手と結婚できないと言うのは王族も含めて事実だ。だから一夜限りで遊ぶ者も多いのだが…。まだそんな知恵はないらしい。

 少女が騎士に夢中になっている隙に、手にしていた薬瓶を取り上げ、ポケットにしまった。

「あー!」
「子供は親のところへ帰れ」

   私が広間から出ようとすると、少女は何故か、ついて来た。

「その薬、返せよ!」
「これは危険だから私が調べる!」
「何事も『きっかけ』が必要だろう?!それを見せて、話しかけるんだから!」

   騎士と話すためだけにあの怪しげな男を捕まえ、この薬を押収したのか…。予想していたが、なんて危険なことをするんだ…。

「普通に誘え。その方が簡単だ」
「そ、そんな…。そんな簡単って言うんなら、痴漢さんが、私を騎士に紹介してよ」

 目的は分かっていたがはっきり言われると、何だか酷く、イライラした。

「なぜ私が?」
「痴漢の仲間だから」
「痴漢じゃないといってるだろう!」
「じゃあ、ファーストダンスは一緒に踊ろ?」
 
   少女は私の腕を掴むと、こてんと小首を傾げる。そんな可愛らしい仕草で、唐突に私をダンスに誘った。

「……」

 …仮面をかぶっていて良かった。でなかったら…、赤面したのが分かってしまっていただろう。

 こいつを意識したんじゃない。あくまで、女性側からダンスに誘われると言うのが初めてだったから驚いただけだ。しかも、不意打ちだった…!

「ダンスの練習はしてきたんだけど、ちゃんとした会で踊るのは初めてで。ちょっと練習させて?」
「練習……」

  つまり、私で練習して自信をつけた後、好みの騎士を誘って踊るつもりだと、そう言う事か…?この私を、練習台にするというのか…!

「断る!帰る…!」
「え?ダンス踊れないの?痴漢さん何歳?そんな子供じゃないよね?」
「……」
「ねねっ、将来の旦那様のために練習をしてきたから、手取り足取り教えてあげるよ?」

  ……知るか!

「ねーねー、ついでに犯人も捕まえてあげるよ?」
「この薬から割り出すから、その必要はない」

   私は薬瓶をしまったポケットを指差したのだが…、指差した時には既に、後ろを歩いていたはずの少女は居なくなっていた。

 いつの間に…?!

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