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14.準決勝
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年末に行われる闘技大会はノクシア王国の中でその年一番強いものを決める、謂わばお祭りだ。
基本的に出場するのは騎士団所属の騎士だが、騎士を束ねる立場のセレスとアレンは毎年出場するのが通例となっている。
予選終了後、本戦からは観客席が一般市民にも開放されるため、競技場は満席となり大変な賑わいだ。
観覧席の最上段にある貴賓席では、王と王妃が黄金の椅子に身を預け、静かに試合の行方を見守っている。その傍らには、イザベラとロゼッタの姿も見えた。俺も本来、そこで観戦しているはずだったのだが……。
俺は一般枠で王子の婚約者でありながら、順調に予選を勝ち進み、本戦に出場を決めた。本戦でも、騎士たちは俺の敵ではなかった。
ついに次が準決勝…。次、勝てば、先に準決勝を勝ち抜いたアレンと対戦する事になる。
俺の準決勝の相手は、カインを準々決勝で下した人物だ。今までの相手とは格が違う。
試合場で、薄ら笑いを浮かべるそいつと、俺は向かい合った。
「セレス殿下…」
「レイと対戦できるなんて、嬉しいよ」
カインには悪いが、多分セレスには勝てないだろうと思っていた。昨年アレンにも勝っているし、セレスは強い…。
だから俺がセレスに勝って、アレンの最大の敵を潰しておきたいと思っている。
「レイ、妻になる身で、傷が付いたりしたらどうするつもりだ?」
「ご安心を。私に指一本、触れさせはしません」
セレスは眉ひとつ動かさず、スラリと腰の剣を抜いた。
「凄い自信だな、レイ…?そうだ、こうしよう。もし傷物になったら、私が責任を持ってお前を側妃にしてやる」
セレスはクスクスと笑っている。ロゼッタの純潔を婚姻前に奪っておいて、もう俺を側妃に迎える、だと…?前々から視線がねちっこいと思ってはいたが、最低なやつだな…!
「ご冗談を…!」
俺も、剣を抜いて構える。負ける気はない。いや、ボッコボコにしてやる…!
俺は早速剣を振り上げ飛びかかる。更に身体強化し、剣には氷の魔力を纏わせた。俺の魔法は攻撃型。対して王族は光属性の、守備型である。
圧倒的に俺が優勢だった。
「く…っ」
「セレス殿下、参った、を言ってください。でないと、無様に、気絶させるかもしれません…!」
ギリギリと、刃が軋む。剣を押し合いながら、俺は追加の魔法を詠唱しようとした。
「アレンに抱かれないなら、大人しく、身を引いていれば良いものの…!レイ…!」
やっぱり、アレンが男は抱けないと言った。あの時の会話を聞いていたんだな…!
身は引くつもりだが、それはセレスをボコボコにしてからだ。セレスは立太子に向けてアレンを排除する気だ。きっと、卑怯な手を使うだろう…!
「レイ、お前アレンに匂い袋を渡しただろう?」
「…それが、何か?」
「あれ、イザベラが取り替えたんだ。知っていたか?カミラの花の刺繍をつけて、お前に見せつけ、身を引かせるためだ」
「…イザベラ様が?」
アレンが取り替えたのでは無かったのか…?すると、アレンは…。
「アレンは鈍感だ。気付いていなかったが、お前は気付いていたんだな。しかし、、それを更に私が取り替えた事は知っていたか?」
「更に、取り替えた…?」
「そうだ。中に火薬を入れている」
「火薬を…?」
「私の魔力に反応するよう、細工をして」
俺は試合場で観戦しているアレンを見た。アイツ…、二回もすり替えられて気付かないとは、なんて鈍感なんだっ!
でも…、俺の匂い袋を捨てた訳じゃなかったのか…。
「レイ!」
アレンに名前を呼ばれた、その時、優勢だった筈が、セレスに剣を弾かれてしまった。
「痛…!」
「レイ。勝負あったな?」
セレスはクスクスと笑いながら剣を首に当てる。…よそ見をしてしまった、俺の負けだ。
「参りました」
「ふふふ。レイ、可愛らしいなあ。火薬のこと、嘘だよ?流石のアイツでも、二回すり替えたら気付くだろう。信頼関係がないなんて夫婦として終わってる。しかし、約束は約束だ。私の側妃になれ」
火薬のこと、負けそうだから、嘘で脅したのかよ。セレスのやつ、軽薄だとは思っていたが、お前こそ人として終わってる!しかも俺、負けたら側妃になるなんて約束、していないけど…!セレスの側妃なんて願い下げだ。
第一、ロゼッタとまだ婚約の段階で側妃を娶るなんて、彼女がどう思うか…。ロゼッタは既に、純潔も捧げているんだぞ?!
俺は見た目だけじゃなくて、心も綺麗なんだ!人を傷つけて平気な顔は出来ない。
「さあ、行こうか、レイ…」
鼻の穴を広げたセレスが近付いてくる。セレスって、男もいける派なの…?でも俺、優男は好きじゃないし、ましてや腹黒なんて無理…。嫌、アレン以外無理…!
セレスの手が伸びて来て、全身に鳥肌が立った。
俺は咄嗟に魔法を放つ…!
「神の鍵よ、門を開け!偽りし者に、神の審判を下せ!」
これも超上級魔法…!神さまの力をちょっぴり召喚する魔法である。しかし、現れたのは、神では無かった。
「な……?!ロ、ロゼッタ…?!」
いや、神に遣わされ、召喚されたのはロゼッタだった!ロゼッタ、助けてえっ!お前の未来の夫が無茶苦茶なんだよ…!
召喚されたロゼッタを前に、セレスは動揺している。それはいつもセレスの言いなりで、純潔まで散らしたロゼッタの、表情が全て失われていたからだろう。
「………」
ロゼッタはめちゃくちゃ、冷たい顔をしていた…。
「ロゼッタ、、こ、これは…その。側妃というのは…正妃であるお前の負担を減らすためなんだ!」
「………」
ロゼッタは無言で、セレスを見ていたが、ふいっと視線を逸らした。そして会場をキョロキョロと見回す。
「ロゼッタ…!」
呼びかけと共に、一人の騎士が試合場までやって来た。ロゼッタもその騎士の元へ駆け寄り、ガッチリと抱き合う…。そして騎士はロゼッタを抱き上げると、走り去ってしまった。
あまりの出来事に、止める間もなかった……。ロゼッタお前、その感じ…。本当に純潔を捧げた相手は、その騎士だな…?!
「……セレス…」
呆然としていると、会場の貴賓席から、地を這うような恐ろしい声が聞こえてきた。
「は、母上…!」
声の主はセレスの母、王妃であった。扇で口元を隠しても分かる、恐ろしい形相である。
「セレス、こちらへ。話があります」
「しかし、決勝戦が…!」
「ロゼッタは公爵家の令嬢よ?それを貴方、分かっていないからあんな真似を…。貴方はもうその時点で、負けています!こちらに来なさいッ!」
「は、はい…!」
セレスは蛇に睨まれたカエルの様にすごすごと会場を出て行き、不戦敗が確定した…。
まだ準決勝だというのに会場には、本来優勝者が受けるはずの、花束が大量に投げ込まれる。
ーー試合に負けて勝負に勝った、ってやつだな…。
色んな意味で、セレスに勝利したのだ…!俺は花束を受け取って高く拳を上げた。すると、会場は大きな歓声に包まれた。
基本的に出場するのは騎士団所属の騎士だが、騎士を束ねる立場のセレスとアレンは毎年出場するのが通例となっている。
予選終了後、本戦からは観客席が一般市民にも開放されるため、競技場は満席となり大変な賑わいだ。
観覧席の最上段にある貴賓席では、王と王妃が黄金の椅子に身を預け、静かに試合の行方を見守っている。その傍らには、イザベラとロゼッタの姿も見えた。俺も本来、そこで観戦しているはずだったのだが……。
俺は一般枠で王子の婚約者でありながら、順調に予選を勝ち進み、本戦に出場を決めた。本戦でも、騎士たちは俺の敵ではなかった。
ついに次が準決勝…。次、勝てば、先に準決勝を勝ち抜いたアレンと対戦する事になる。
俺の準決勝の相手は、カインを準々決勝で下した人物だ。今までの相手とは格が違う。
試合場で、薄ら笑いを浮かべるそいつと、俺は向かい合った。
「セレス殿下…」
「レイと対戦できるなんて、嬉しいよ」
カインには悪いが、多分セレスには勝てないだろうと思っていた。昨年アレンにも勝っているし、セレスは強い…。
だから俺がセレスに勝って、アレンの最大の敵を潰しておきたいと思っている。
「レイ、妻になる身で、傷が付いたりしたらどうするつもりだ?」
「ご安心を。私に指一本、触れさせはしません」
セレスは眉ひとつ動かさず、スラリと腰の剣を抜いた。
「凄い自信だな、レイ…?そうだ、こうしよう。もし傷物になったら、私が責任を持ってお前を側妃にしてやる」
セレスはクスクスと笑っている。ロゼッタの純潔を婚姻前に奪っておいて、もう俺を側妃に迎える、だと…?前々から視線がねちっこいと思ってはいたが、最低なやつだな…!
「ご冗談を…!」
俺も、剣を抜いて構える。負ける気はない。いや、ボッコボコにしてやる…!
俺は早速剣を振り上げ飛びかかる。更に身体強化し、剣には氷の魔力を纏わせた。俺の魔法は攻撃型。対して王族は光属性の、守備型である。
圧倒的に俺が優勢だった。
「く…っ」
「セレス殿下、参った、を言ってください。でないと、無様に、気絶させるかもしれません…!」
ギリギリと、刃が軋む。剣を押し合いながら、俺は追加の魔法を詠唱しようとした。
「アレンに抱かれないなら、大人しく、身を引いていれば良いものの…!レイ…!」
やっぱり、アレンが男は抱けないと言った。あの時の会話を聞いていたんだな…!
身は引くつもりだが、それはセレスをボコボコにしてからだ。セレスは立太子に向けてアレンを排除する気だ。きっと、卑怯な手を使うだろう…!
「レイ、お前アレンに匂い袋を渡しただろう?」
「…それが、何か?」
「あれ、イザベラが取り替えたんだ。知っていたか?カミラの花の刺繍をつけて、お前に見せつけ、身を引かせるためだ」
「…イザベラ様が?」
アレンが取り替えたのでは無かったのか…?すると、アレンは…。
「アレンは鈍感だ。気付いていなかったが、お前は気付いていたんだな。しかし、、それを更に私が取り替えた事は知っていたか?」
「更に、取り替えた…?」
「そうだ。中に火薬を入れている」
「火薬を…?」
「私の魔力に反応するよう、細工をして」
俺は試合場で観戦しているアレンを見た。アイツ…、二回もすり替えられて気付かないとは、なんて鈍感なんだっ!
でも…、俺の匂い袋を捨てた訳じゃなかったのか…。
「レイ!」
アレンに名前を呼ばれた、その時、優勢だった筈が、セレスに剣を弾かれてしまった。
「痛…!」
「レイ。勝負あったな?」
セレスはクスクスと笑いながら剣を首に当てる。…よそ見をしてしまった、俺の負けだ。
「参りました」
「ふふふ。レイ、可愛らしいなあ。火薬のこと、嘘だよ?流石のアイツでも、二回すり替えたら気付くだろう。信頼関係がないなんて夫婦として終わってる。しかし、約束は約束だ。私の側妃になれ」
火薬のこと、負けそうだから、嘘で脅したのかよ。セレスのやつ、軽薄だとは思っていたが、お前こそ人として終わってる!しかも俺、負けたら側妃になるなんて約束、していないけど…!セレスの側妃なんて願い下げだ。
第一、ロゼッタとまだ婚約の段階で側妃を娶るなんて、彼女がどう思うか…。ロゼッタは既に、純潔も捧げているんだぞ?!
俺は見た目だけじゃなくて、心も綺麗なんだ!人を傷つけて平気な顔は出来ない。
「さあ、行こうか、レイ…」
鼻の穴を広げたセレスが近付いてくる。セレスって、男もいける派なの…?でも俺、優男は好きじゃないし、ましてや腹黒なんて無理…。嫌、アレン以外無理…!
セレスの手が伸びて来て、全身に鳥肌が立った。
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これも超上級魔法…!神さまの力をちょっぴり召喚する魔法である。しかし、現れたのは、神では無かった。
「な……?!ロ、ロゼッタ…?!」
いや、神に遣わされ、召喚されたのはロゼッタだった!ロゼッタ、助けてえっ!お前の未来の夫が無茶苦茶なんだよ…!
召喚されたロゼッタを前に、セレスは動揺している。それはいつもセレスの言いなりで、純潔まで散らしたロゼッタの、表情が全て失われていたからだろう。
「………」
ロゼッタはめちゃくちゃ、冷たい顔をしていた…。
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「………」
ロゼッタは無言で、セレスを見ていたが、ふいっと視線を逸らした。そして会場をキョロキョロと見回す。
「ロゼッタ…!」
呼びかけと共に、一人の騎士が試合場までやって来た。ロゼッタもその騎士の元へ駆け寄り、ガッチリと抱き合う…。そして騎士はロゼッタを抱き上げると、走り去ってしまった。
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「……セレス…」
呆然としていると、会場の貴賓席から、地を這うような恐ろしい声が聞こえてきた。
「は、母上…!」
声の主はセレスの母、王妃であった。扇で口元を隠しても分かる、恐ろしい形相である。
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「しかし、決勝戦が…!」
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「は、はい…!」
セレスは蛇に睨まれたカエルの様にすごすごと会場を出て行き、不戦敗が確定した…。
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