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19.番を知らぬ子竜たちと、“新しい家族”の夜明け
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「――ここが、“光の巣”ですか?」
小さな声が、律の手元で震えていた。
彼の手を握っていたのは、ミオによく似た、
けれどもっと怯えた瞳をした子竜の男の子。
皮膚に薄く鱗が浮かび、
魔力を持ちすぎて周囲のものを焼いてしまう“灼熱核症”の兆候を持っていた。
「うん。ここは、番じゃない男女から生まれた子、親に選ばれなかった子――
そんな子たちのための新しい居場所なんだ」
律は優しくほほえみ、子どもの背に手を添えた。
そこは、王宮の敷地内に建てられた、新しい施設。
律とゼルが資金を投じ、王家の名をもって建設した、
《光の巣(ルミナ・ネスト)》
“番から生まれていない子”“血を引かぬ子”“選ばれなかった子”が、
“それでも愛されていい”と知るための、あたたかな居場所だった。
◆
初めて“巣”に迎え入れた日は、
誰もが人目を避けるように、暗い瞳をしていた。
律は、毎日子どもたちに話しかけ、
魔力の使い方を教え、ただ、名前を呼び続けた。
「ユリル、今日の絵、すごくきれいだった」
「ティム、昨日より熱、下がったね。がんばったね」
「リュエ……怖くても大丈夫。あなたが泣いても、私は離れないよ」
番の力ではない。
王族の権威でもない。
ただ、“律”という人間の言葉が、少しずつ子どもたちの心を開いていった。
◆
そんなある日、ゼルが巣を訪れ、ミオの手を引きながら言った。
「律。そろそろ、お前の“番の魔力”を、彼らに見せてやってくれないか」
「……魔力?」
「お前がくれる“共鳴の光”が、彼らの孤独を溶かす。
番でも王でもない、ただの“人”の魔力として」
律は少しだけ考え、頷いた。
そして夜――
大きなホールの中央で、子どもたちに囲まれながら、
律はそっと目を閉じ、自らの魔力を静かに解き放った。
それは熱くも眩しくもない。
ふんわりとした、春の陽だまりのような魔力。
傷ついた魔力核たちに寄り添い、
「あなたの存在は、それだけで大切だ」と語りかけるような光。
子どもたちの中に、ひとり、またひとりと涙を浮かべる子が現れた。
誰も言葉を発しない。
けれどそこには、明確な“共鳴”があった。
――この場所は、帰ってきていい場所だと。
――君は、生きていていいんだと。
◆
その夜、ゼルと並んで眠りながら、律はぽつりと呟いた。
「ゼルさん……僕、思ってたよりずっと、あの子たちと似てるのかもしれないです」
「……似ているな。
“愛されたいと願っても、どうしていいかわからなかった”
あの頃のお前と、同じ目をしていた」
律は小さく笑い、ゼルの胸に頬をあずけた。
「でも今は、ちゃんとわかるんです。
“何者かにならなくても、愛されていい”って」
「律。お前がそう思えるようになったことこそ、
この国が変わった何よりの証だ」
やがてふたりはキスを交わし、
まるで“祈るように”お互いを抱きしめた。
熱はない。激情もない。
ただ、確かな“愛”だけが、静かにそこにあった。
🐉次章予告:最終章「夜明けを告げる者たち」
“光の巣”に集った子どもたちが少しずつ心を開き、
律とゼルは、王として、番として、“親”としての歩みを続けていく。
そして、世界は静かに、“番”という言葉の定義を塗り替えていく――
“愛する者と選び合い、生きる”という、新たな未来へ。
小さな声が、律の手元で震えていた。
彼の手を握っていたのは、ミオによく似た、
けれどもっと怯えた瞳をした子竜の男の子。
皮膚に薄く鱗が浮かび、
魔力を持ちすぎて周囲のものを焼いてしまう“灼熱核症”の兆候を持っていた。
「うん。ここは、番じゃない男女から生まれた子、親に選ばれなかった子――
そんな子たちのための新しい居場所なんだ」
律は優しくほほえみ、子どもの背に手を添えた。
そこは、王宮の敷地内に建てられた、新しい施設。
律とゼルが資金を投じ、王家の名をもって建設した、
《光の巣(ルミナ・ネスト)》
“番から生まれていない子”“血を引かぬ子”“選ばれなかった子”が、
“それでも愛されていい”と知るための、あたたかな居場所だった。
◆
初めて“巣”に迎え入れた日は、
誰もが人目を避けるように、暗い瞳をしていた。
律は、毎日子どもたちに話しかけ、
魔力の使い方を教え、ただ、名前を呼び続けた。
「ユリル、今日の絵、すごくきれいだった」
「ティム、昨日より熱、下がったね。がんばったね」
「リュエ……怖くても大丈夫。あなたが泣いても、私は離れないよ」
番の力ではない。
王族の権威でもない。
ただ、“律”という人間の言葉が、少しずつ子どもたちの心を開いていった。
◆
そんなある日、ゼルが巣を訪れ、ミオの手を引きながら言った。
「律。そろそろ、お前の“番の魔力”を、彼らに見せてやってくれないか」
「……魔力?」
「お前がくれる“共鳴の光”が、彼らの孤独を溶かす。
番でも王でもない、ただの“人”の魔力として」
律は少しだけ考え、頷いた。
そして夜――
大きなホールの中央で、子どもたちに囲まれながら、
律はそっと目を閉じ、自らの魔力を静かに解き放った。
それは熱くも眩しくもない。
ふんわりとした、春の陽だまりのような魔力。
傷ついた魔力核たちに寄り添い、
「あなたの存在は、それだけで大切だ」と語りかけるような光。
子どもたちの中に、ひとり、またひとりと涙を浮かべる子が現れた。
誰も言葉を発しない。
けれどそこには、明確な“共鳴”があった。
――この場所は、帰ってきていい場所だと。
――君は、生きていていいんだと。
◆
その夜、ゼルと並んで眠りながら、律はぽつりと呟いた。
「ゼルさん……僕、思ってたよりずっと、あの子たちと似てるのかもしれないです」
「……似ているな。
“愛されたいと願っても、どうしていいかわからなかった”
あの頃のお前と、同じ目をしていた」
律は小さく笑い、ゼルの胸に頬をあずけた。
「でも今は、ちゃんとわかるんです。
“何者かにならなくても、愛されていい”って」
「律。お前がそう思えるようになったことこそ、
この国が変わった何よりの証だ」
やがてふたりはキスを交わし、
まるで“祈るように”お互いを抱きしめた。
熱はない。激情もない。
ただ、確かな“愛”だけが、静かにそこにあった。
🐉次章予告:最終章「夜明けを告げる者たち」
“光の巣”に集った子どもたちが少しずつ心を開き、
律とゼルは、王として、番として、“親”としての歩みを続けていく。
そして、世界は静かに、“番”という言葉の定義を塗り替えていく――
“愛する者と選び合い、生きる”という、新たな未来へ。
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