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大学二年生
芝生の上の恋人時間
しおりを挟むキャンパスの裏手、学生があまり通らない小さな芝生広場に、千歳と柊は並んで座っていた。
初夏の陽射しはやさしく、風は緩やかで、誰もいない芝生はまるでふたりのためにあるかのようだった。
「……マジで来ちゃったね、ここ」
と、千歳が小さく笑った。
「千歳が言ったんじゃん。男同士で芝生でお弁当とか、膝枕とか。俺、ちゃんと覚えてたんだからね」
得意げにそう言って、柊はバッグから手作りっぽいお弁当箱を取り出す。
「えっ、それ、まさか……」
「うん、昨日の夜に頑張った。卵焼きはYouTubeで見て三回巻き直したけど、なんとかそれっぽくなったよ」
開けられた蓋の中には、ちょっといびつだけど色鮮やかな卵焼きと、からあげ、そして千歳の好きなきんぴらごぼうが並んでいた。
「……すごい、柊くんって、こういうこともできる人だったんだね」
「できるっていうか……千歳に食べてほしかっただけ」
恥ずかしそうに視線を逸らした柊を見て、千歳の心がふわりとあたたかくなる。
「じゃあ、いただきます……。うん、卵焼き、甘くない出汁巻きなの、おいしい」
「マジ? やったー!」
ふたりだけの秘密の空間に、静かに笑い声がこぼれる。
食べ終わると、柊が自分の膝をぽんぽんと叩いて言った。
「はい、千歳。寝ていいよ。膝枕、って言ってたでしょ」
「え、え、ほんとにやるの?」
「やるよ。俺の膝、貸すって決めてたし」
言いながら、柊は寝転びやすいように少し体勢を整えた。
千歳は一瞬ためらったものの、照れくさそうにしながらも、そっと柊の膝に頭を乗せた。
心地よい太ももの感触と、かすかに伝わる体温。柊の手が、優しく千歳の前髪を撫でた。
「……なんか、夢みたいだね」
千歳がぽつりと呟くと、柊は静かに笑った。
「俺も。ずっと、こんな時間がほしかったんだ。……千歳と、なにもしないで、ただくっついてるだけの時間」
芝生に吹く風が、ふたりの髪を撫でる。
遠くで誰かの笑い声が聞こえた気がしたが、ここにはふたりしかいないように感じられた。
「ねえ、柊くん」
「ん?」
「……好き。今も、すごく、好きだよ」
「俺も。っていうか、今日だけで10回くらい惚れ直してる」
「いつ思ったのか、あとで教えてね」
「教えるってことは、またこの話していいってこと?」
「うん、ほどほどにね……って言っても、どうせ無視するんだろうけど」
「正解」
柊がいたずらっぽく笑うと、千歳は笑いながら目を閉じた。
ふたりの恋は、もう「誰かに気づかれることを恐れるもの」じゃなくて、こうして触れ合って、確かめ合って、育てていくものになっていた。
あたたかい陽射しの下で、膝枕された千歳は静かにまどろむ。柊の指が、髪をすいている。
幸せで平和な時間。
これが“ふたりのスタンダード”なら――それでいい。
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